身近な体調不良の一つ、咳。
咳は風邪によるもの、アレルギーによるもの、がんなど重い病気によるものなど様々な原因があります。
高齢者は長年の生活習慣の積み重ねが原因となる場合があります。
また、加齢による身体機能の低下のため咳をする反応が鈍くなっています。
咳をし始めた頃には、その原因は重症化してしまい治すのに時間がかかることも少なくありません。
今回のコラムでは高齢者ならではの『起こりやすい咳の種類』についてお伝えいたします。
もし咳が出てきてしてしまった時、ご参考頂ければ幸いです。
※このコラムでは65歳以上の方を「高齢者」と表記します※
この記事の目次
1. 咳とはどのような症状なのか
(1) なぜ咳は出るのか
人は鼻や口から空気を吸って、喉や気管を通り、肺へ空気を送り届けています。
この気道にホコリや細菌やウイルスなどの異物が入り込んできたときに、異物を排出させようとして咳が出ます。
気道には粘膜の神経があります。
異物が気管に入ると、意識しなくても反射的に咳が出せるようになっています。
咳の原因は大きく分けて2つあります。
- 気道に入った異物を排出するための防御反応の咳
- 道に炎症が起こっている咳
原因によって治療方法が変わります。
(2) 咳の分類
日本呼吸器学会が発行している「咳嗽(がいそう)・喀痰(かくたん)の診療ガイドライン」では、咳が続いている期間によって分類されます。
急性咳嗽 | 咳症状出現から3週間未満の咳 |
遷延性(せんえんせい)咳嗽 | 咳症状出現から3週間以上8週間未満の咳 |
慢性咳嗽 | 咳症状出現から8週間以上経過している咳 |
症状出現から間もない咳の多くは菌やウイルスなど感染症によるものです。
咳症状出現からの期間が長くなれば長くなるほど、感染症以外の原因によるものの可能性が高くなります。
(3) 痰の種類
咳と切っても切れない関係にあるのは痰です。
痰とは気道から出る分泌物のことを指します。
痰の種類
粘液性 | 白くねばねばした痰 |
膿性 | 黄色で強い粘りがある痰 |
漿液(しょうえき)性 | 無色透明で水のようにサラサラした痰 |
血性 | 血の混じった痰 |
どのような痰が出ているか以外にも、どのくらいの量が出ているかという情報も症状把握にとても大切です。
(4) 痰が出る咳
痰の有無で治療方法が変わります。
痰が出る、水っぽい湿った咳は湿性咳嗽(しっせいがいそう)と言います。
気道にある粘膜の神経は、異物を捕まえやすくするためにいつでも濡れた状態にあります。
異物が増えれば増えるほど粘膜の神経から分泌物が増え、異物をくるんだ痰として排出します。
この場合の治療は、痰が過剰に分泌している原因を調べることから始まります。
よくある原因は菌やウイルスの他に、唾液、ホコリなどがあります。
(5) 痰が出ない咳
一方で痰が出ない、もしくはほんの少量のみの咳もあります。
こういった咳は乾性咳嗽(かんせいがいそう)と言います。
痰がでない咳は肺や気道に炎症が起こっている状態が考えられます。
他にも、気道にある粘膜が乾燥していることもあります。
咳そのものの原因を調べ治療していきます。
2. 高齢者に起こりやすい咳
(1) 肺炎
肺炎は菌やウイルスが肺に感染することで起こります。
高齢になると体力の衰えや持病によって免疫力が弱まるため、感染しやすくなります。
主な症状は風邪とよく似ており咳や痰以外に発熱などがあります。
しかし、高齢者は高熱が出ず肺炎と気づかない場合があります。
適切な治療を早期に受けなければ重症化することもあり注意が必要です。
医療現場では高齢者で咳と痰が出れば、真っ先に肺炎を疑って検査します。
その理由は2021年厚生労働省の統計結果で、肺炎が原因で死亡した方の97.9%が65歳以上の高齢者だったという結果が出ているからです。
(2) 喘息
喘息とは、気道である気道に炎症が起こり狭くなることで起こります。
ゼーゼー、ヒューヒューという特徴的な咳が出ます。
咳症状が長引いている方の30%以上は喘息が原因と日本医師会で報告されています。
子供に多いという印象がありますが、大人になってからも喘息になる場合があります。
高齢者の喘息は、たばこの煙、大気汚染されている環境で長期間過ごしていること、ストレスや疲労、天候の変化が主な原因となります。
長期間、気道に刺激が与えられ続けることで炎症が改善せず、気道が狭窄した状態が続き喘息症状が現れると考えられています。
(3) COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPDとは、肺そのものの機能に障害が生じる進行性の病気を指します。
肺には酸素と二酸化炭素の入れ替えを行う肺胞があります。
COPDが進行すると肺胞が機能しなくなり、症状としては息切れやゼーゼーという呼吸がみられるようになります。
40歳以上の喫煙者に多く見られ、全体の90%以上が60歳以上という統計があります。
原因は喫煙、大気が汚染された環境にいること、職業上の粉塵や化学物質、慢性的な呼吸器の感染症が挙げられます。
タバコを習慣的に吸うようになってからCOPDが発症するまで20~30年かかります。
長期間に渡る進行のため初期症状が緩やかのため見過ごされがちの病気です。
そのため診断されたタイミングではかなり深刻に進行していることも少なくありません。
3. 咳が続いたらこの検査
(1) 問診・聴診
問診での確認事項
- 症状の経過:いつ頃から、どのくらいの頻度で、どのような時に起こるのか 等
- 既往歴:子供の頃に喘息を患ったか、内服している薬 等
- 生活環境:アレルギーの有無、喫煙歴、ペットの有無 等
聴診では聴診器で呼吸の音を聞きます。
問診・聴診で医師が必要だと判断した検査を行います。
(2) 血液検査・喀痰検査
血液検査では炎症反応やアレルギー反応の有無や程度がわかります。
アレルギー反応があれば、詳細な血液検査でアレルギーの原因物質も調べることができます。
アレルギーの原因物質が判明すると、それらを避けることで症状を悪化しないようにできます。
(3) 胸部のレントゲン検査・CT検査
胸部のレントゲン検査をすることで病気の発見ができます。
主に肺炎、結核、気胸、胸水、肺がんと言った肺の病気だけでなく、心不全や大動脈解離といった心臓の病気、側彎症(そくわんしょう)や骨折などの整形の病気もわかります。
CT検査はレントゲン検査よりも病気発見率が高いため、レントゲン検査で判別が困難な場合行います。
(4) 呼吸機能検査
肺の機能評価を行う検査です。
肺の容積や空気の出し入れをする換気機能の強さを測定することで、肺の病気の診断や重症度を評価することができます。
主に喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などが疑われる時に行います。
4.まとめ
今回のコラムでは、以下についてお伝えしました。
咳の原因は命に関わることがありますが、咳そのものでも体力が奪われたり、睡眠の妨げになったりします。
咳だけだからといって様子を見るのではなく、咳の種類や他の症状などで治療方法が変わります。
特に高齢者は早めの対応が必要だと知っていただきたいと思います。
咳は呼吸機能と密接に関わりあっており、肺のご病気は生活の質に大きく影響します。
酷い場合、寝たきりのきっかけになることも少なくありません。
年を重ねても健やかにお過ごしできますように願っています。
【参考】
◆内閣府 高齢化の状況
◆健康長寿ネット 喀痰・咳嗽
◆一般社団法人日本呼吸器学会
◆肺炎予防.jp
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この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業