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看護師がやさしく教える介護者の食事指導⑥食事を摂らなくなった時

自宅で生活している高齢のご家族が、徐々に食事量が減ってくる場合があります。

食事は、人生で成長するために必要な栄養を摂ることです。

しかし、生活範囲が狭くなり、成長ではなく生命維持のための食事になったとき、どんな食事の方法を選択すればいいでしょうか。

この記事では、高齢であるご家族が食事を摂らなくなった時の選択肢にについてお話していきます。

この記事の目次

はじめに

高齢になると、身体全体の働きが低下してきます。

消化管の機能の低下もそのひとつで、栄養を摂っても消化吸収する働きが弱くなっているため吸収はできるけど、エネルギーとして利用する量が少なくなってきます。

ここで前置きしておきたいのが、加齢による機能の低下は自然の経過であり、病気ではないということです。

日本の医療機関では、高齢者が食事を摂らなくなった時、人工的な補助栄養を提案されます。

海外ではどうでしょうか。

福祉大国といわれる、スウェーデンでは人工栄養をしている患者様はほとんどいないそうです。
スウェーデンだけではなく、米国・豪州でも人工栄養をしている高齢者は少ないようです。

介護者の食事指導 6本目 食事を摂らなくなった時

食事を食べなくなった時の身体の変化

食べる量が減ると同時に、水分を摂る量も減ってきます。
食べる回数が減ってくるので、飲み込む力も弱くなるため、むせることが多くなります。
活動に必要なエネルギーを摂ることができないため、さらに活動量は減り、ベッド上で寝ていることが多くなります。
食事量や水分量が少なくなるため、尿量や排便回数も減ってきます。

少ないエネルギー量で生命活動を持続させるため、内臓へのエネルギーの供給を優先にするので、眠ることが多くなります。

声をかければ目を開けて頷くことも、小声で話すこともできますが、ほとんどは眠っている場合が多いです。

介護者の食事指導 6本目 食事を摂らなくなった時

食事を摂らなくなった時の選択肢

医療機関では食事を摂らなくなった原因を特定し、体調をもとに戻すために次のような選択肢を提案されることがあります。

何を優先し、治療を選択したらいいのかメリットとデメリットを含めて説明していきます。

人工的な補助栄養をする

メリット

・食事が摂れなくなっても点滴や経管栄養で栄養補給ができる
・食事の時間を短縮できる
・生命維持ができる

デメリット

・口やのどを使わないため食べるための機能が低下する
・人工栄養に依存すると中止するタイミングがつかめない
・肺炎を起こすリスクがある
・細菌感染を起こすリスクがある
・定期的にチューブや針の入れ替えが必要になる

人工的補助栄養はどんな種類があるのでしょう。

提案される代表的な人工栄養について説明していきます。

①点滴法

メリット

・水分の補給や一時的な食欲低下には効果的
・必要な薬剤を体内に入れることができる
・消化管を介しないため胃腸を休めることができる

デメリット

・消化管を使わないため、さらに消化吸収能力は低下する
・身体に入る水分量が多いと体内に水分が残りむくみや肺に水がたまり呼吸が苦しくなる場合がある。
・針やチューブを体内に入れるため定期的な入れ替えが必要。

末梢点滴

一般的に点滴といわれるのは、末梢点滴を指します。
手足の血管に針を入れて行う治療法で、医師や看護師が点滴の抜き差しや管理を行います。

栄養ある高カロリーの点滴は成分が濃いため手足の血管から入れると血管炎を起こしてしまうため末梢点滴で入れることができるのはほぼ水分です。

脱水を改善するために、水分補給や抗生剤を投与を行うときに有効な治療法であくまでも『一時的』ということがポイントです。

中心静脈栄養

首や足の付け根の太い血管から、心臓の近くまでチューブを通して行う点滴です。
太い血管のため高カロリーで栄養のある点滴を行うことができます。
輸血やアルブミンといった、特殊な栄養剤を入れることも可能です。

特殊な栄養剤を入れることはできますが、その反面、管理が難しくなります。

また、チューブをいれたところからの細菌感染は、重篤な感染を引き起こす可能性もあるため清潔にする必要があります。

更に、高カロリー輸液のためゆっくりと投与する必要があるため、24時間かけて行う必要があります。
そのため、活動が制限されます。

介護者の食事指導 6本目 食事を摂らなくなった時

②経管栄養法

管を消化管にいれて行う栄養法で身体の消化吸収する能力を利用します。

経鼻栄養

鼻から胃までチューブを通し栄養剤を入れる方法です。

メリット

・口やのどを使うことなく直接胃に栄養剤を入れることができる
・飲み込みが弱くなった方でも栄養を改善することができる
・胃腸を使うため免疫機能が保たれる

デメリット

・チューブの太さが限られているため液状の栄養剤しか使用できない。
・栄養剤が逆流しやすく肺炎を起こす危険性がある。
・チューブの違和感が鼻やのどにあるため自分で抜いてしまう場合がある。

胃瘻いろう

内視鏡や手術でおなかから胃に穴をあけてチューブを通して直接胃に栄養剤を入れる方法です。

メリット

・チューブが鼻やのどを通らないので違和感や不快感がない
・半固形の栄養剤を使用できる
・指導を受ければ在宅でも管理ができる
・口からの食事と併用して使用することも可能

デメリット

・チューブの定期的な交換が必要
・定期的な交換が必要
・挿入している部分と皮膚が圧迫されて潰瘍ができることがある

腸瘻ちょうろう

胃を手術した、または内臓の位置により、胃瘻を作ることが難しい場合に行います。

メリット

・望めば口からの食事を行うことができる
・肺炎の危険性が低い

デメリット

・チューブの交換・自然に抜けてしまうと医師が処置する必要があるため入院が必要
・栄養剤の吸収に時間がかかり、時には下痢になることがある
・チューブを入れた部分から腸液が漏れて皮膚のトラブルを起こすことがある

介護者の食事指導 6本目 食事を摂らなくなった時

自然な経過を見守る

メリット

・好きなものを好きなだけ食べるので本人の負担が少ない
・肺炎を起こす危険性が低い
・チューブや栄養剤を管理する必要がないため経済的負担が少ない

デメリット

・栄養が入らないため低栄養となる
・活動量が減るため介護が必要となる
・生命活動が維持できない

高齢者が食事を摂らなくなったとき、現在はさまざまな選択肢があります。
人工栄養を選択するのも、自然な経過を見守るのもどちらにもメリット・デメリットがあります。

昔は今のように、たくさんの選択肢はありませんでしたから、「口から食べられなくなった」ということは、「寿命である」と考えられていました。

食べられなくなった理由はその人によって違います。
今後、たどる経過も人それぞれであるため一概にどの選択肢がいいかは判断できないと思います。

年齢、病気の状態、予後、本人の意見などを考えて判断していく必要があります。

介護者の食事指導 6本目 食事を摂らなくなった時

おわりに

もし、食事を摂らなくなった時、どうするか。
ご家族やご本人と健康なうちに話をしておくことが理想的です。

しかし、健康なうちは食事を摂れなくなった状況をイメージすることは難しいのではないでしょうか。
そして、食事が摂れなくなる状況は突然やってくる場合もあります。
食事が摂れないのは一時的なのか、永続的なのかによっても判断は変わっていきます。

もし、ご本人がこうしてほしいと言っていたとしても、その意向を医療機関へ伝えるのはあなたかも知れません。

ご本人ならどう思うのか。自分ならどうしたいのか。家族はどうしたいのか。

どの選択肢も、選ぶのに時間がかかります。

ご自身が出した答えにもし、疑問が出てきたなら、選択肢を変更しても構いません。
ご本人を想い、ご自身が後悔のないように、最善の選択をしていってください。


この記事を書いた人

看護師:渡邉加代子

渡邉 加代子

【プロフィール】

看護師歴24年目。
これまで急性期(整形外科・外科・脳外科・内科・循環器)病棟での勤務を経験。
2016年に現在の職場に転職し、回復期リハビリテーション病棟は配属となる。
2019年から栄養サポートチームに所属し、各専門職と協力して週1回、入院患者様の栄養ケアを行っている。
今後は、退院先での適切な栄養ケアが継続できるようにパンフレットの作成や地域高齢者を抱えるご家族への栄養相談や講座の開催を考えている。

【所属】

一般社団法人 日本ナースオーブ所属 ウェルネスナース

【執筆】

食と健康について考えるブログ/note

【講座】

Wellnessチャートで賢くやせる/ウェルネス講座

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