がんの代表的な症状に”痛み”があります。
そしてがん救急として時に緊急で対応するべき“痛み”があります。
本記事では、どういった痛みの時に、何が起こっており、なぜ緊急に対応するべきなのかをお伝えします。
この記事の目次
1.痛みって必要なの?
痛みの定義を国際疼痛学会は「(痛みは、)実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」1)と定義しています。
つまり体に何らかの損傷が加わり危機が訪れていることを”痛み”という症状で教えてくれています。例えば熱いものに手が触れると無意識に手を引くことで火傷から体を守ってくれる、等の動きを無意識に人は行っています。
極少数、痛みを感じない”先天性無痛症”と呼ばれる難病をお持ちの方がいます。
この病気の方は、怪我をしていても気づかず他人に指摘されて初めて気づいたり、骨折していても痛みを感じず立とうとしたりされます。危険な状態ですね。痛みは体の防御反応として現れます。
2. がん特有の痛みの性質・パターンがあります
がんの痛みには様々な痛みの性質とパターンがあります。
このような痛みががん患者さんにあるということをまずは知っていただきたいと思います。そしてそこから逸脱したイレギュラーな痛みががん救急と呼ばれ、救急要請を必要とする症状となります。
(1) 性質
がんの痛みには以下の3種類に分けられます。しかし実際にはこれらの痛みが混在していることが多いです。
- ① 体性痛(71%)
-
皮膚や骨、関節、筋肉などの組織への機械的刺激(切る・刺す・叩くなど)による痛み。
骨への転移(がんが広がること)や手術後の痛みなどです。
持続した痛みで動くとさらに悪化することがあります。うずくような拍動(どくどく)する痛みがあります。また痛みの場所は限局しています。
- ② 神経障害性疼痛(39%)
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痛みの感覚を伝導する神経の直接的な損傷や神経の疾患による痛みです。がんの腫瘍が大きくなると末梢神経や脊髄神経などが巻き込まれ痛みが出てきます。また手術・抗がん剤・放射線治療なども痛みの原因となります。通常しびれや電気が走るようなビリビリした痛みが生じます。
- ③ 内臓痛(34%)
-
内臓痛は①体性痛とは違い、切る・刺すなどの物理的な刺激では痛みは起こりません。
食道・胃・腸・胆嚢・膀胱などの炎症・閉塞による内圧の上昇によるものです。
また、肝臓や腎臓は周囲の被膜(臓器を覆っている膜)による炎症が広がったり、臓器の腫瘍が大きくなり伸展することなどで痛みを生じます。痛みは絞られるような、押されるような痛みで、場所は特定できずよくわからない、不明瞭なことが多いです。
(2) パターン
大きく分けると、痛みの種類は以下の2パターンになります。
- 1. 持続痛
-
1日のうち大半を占める痛みを持続痛といいます。
通常定期的にまた長時間効果がある痛み止めを使用して、痛みを緩和しています。
- 2. 突出痛
-
定期的に使用している痛み止めで①の持続痛は緩和されているが、時々痛みが出現し短時間で消失する一過性の痛みです。
痛みのパターン・患者からみた痛みを図にして表したものが以下になります※2)
※1:持続痛と突出痛に関して:24時間持続している痛みに対して鎮痛薬を使用します。ただ動く、がん自体による痛みが時々でてくることがあり、その痛みが突出痛です。下記図はイメージ図です
※2:NRS:
痛みのスケールのことです。0〜10まであり、0がまったく痛みがない、10が今まで感じたことがない程の強い痛みとして今どの程度の痛みかを第3者が確認・評価するためのスケールのことです。
3. 痛みに対する治療とは?
一般的には鎮痛薬が第一選択となります。
その種類の中で通常の痛み止めと医療用麻薬(モルヒネともいいます。本記事ではモルヒネとして記載します)があります。これらを単独、もしくは併用して使用されています。12時間や24時間効果が持続するモルヒネを使用(錠剤や貼付薬)しながら、痛み止めを(カロナールやロキソプロフェンなど)医師の処方通りに内服し痛みを調整しています。
さらに上記の表のように突出痛と呼ばれる時々痛みが増強する時に、レスキューと呼ばれる薬を使用し、できるだけ1日を安楽に過ごせるように調整します。
ほかにも痛みを緩和する方法として、抗不安薬・神経ブロック・放射線治療など転移の部位や広がり、精神的な症状緩和など状況に応じた方法を選択します。(ここでは一般的な治療を知っていただきたく、少々ご紹介しました)
4. 突然の急激な痛みはどういう時?
上記で説明したような痛みからは逸脱した突然の急激な痛みの場合、早急に救急要請が求められます。
突然の急激な痛みとはどのようなものでしょうか?今までの痛みと比較して異なる部分があります。
例えば、今まで感じたことがないような痛み・冷や汗・吐き気・嘔吐・顔面蒼白・処方されているレスキュー(痛みが強くなってきた時に内服する薬)を内服しても効果が得られない。このような場合、早急な対応が求められます。また発熱があれば、なんらかの感染症を併発している可能性もあります。
では次に突然の急激な痛みが出現した時、どのような事が体内で起こっているのでしょう?
1. 消化管穿孔
穿孔(せんこう)とは字のごとく腸に孔(あな)があくことです。
がんが腸壁に広がり孔があき、腸の内容物が腹腔内(お腹の中は空洞になっている)に漏れ、腹膜炎とよばれる炎症が腹部全体に広がる状態になります。症状は急激な腹痛・嘔気・嘔吐・発熱などがあります。
2. 腸閉塞
腸閉塞とは何らかの原因で腸管の通りが悪くなる、もしくは閉塞された状態のことです。
手術やがん自体、もしくはがんがお腹の中に散らばる腹膜播種と呼ばれる状態により、腸の動きが抑制されたり、閉塞したりする状態のことです。症状としては、腹痛・嘔気・嘔吐・腹部膨満などが見られます。腸閉塞には絞扼性と呼ばれる状態があり、この状態は腸が完全に閉塞し血流が途絶え腸は壊死を起こします。急激な痛み・顔面蒼白・頻脈などのショック状態となり早急に手術対象となります。
3. 消化管出血
がん自体からの出血によるものです。上部消化管と呼ばれる胃がんや食道がんの場合、吐血が見られることもあります。下血、つまり肛門から出血する場合、出血部位が肛門から遠ければ黒色の内容物となり、近くや出血量が多ければ血性の出血がみられます。吐血や下血など眼に見える出血であればわかりやすいのですが、腹腔内(お腹の中)の出血は気付きにくく、大量出血により先に意識が朦朧となることもあります。
4. 尿管閉塞
がんそのものやがんの治療自体によって起こります。
尿の通り道の圧迫や、がんの進行により排尿機能が働かなくなることがあります。また出血により血液の固まりで尿管が詰まり、尿の極端な減少や、まったく出なくなる事があります。また膀胱・尿管などで尿が作られているのに出ないことで膀胱や尿管の許容量を超え痛みがでます。
腎臓が拡張すると周囲の肋骨や股関節の間に耐え難い激痛が数分ごとに起こります。
上記のような事が起こっている事で、耐え難い痛みが突然起こります。
5. まとめ
実際は上記のような事が起こっていても症状として現れるのは突然の急激な痛みとして出現します。
痛みは起こっている時には、どのようなことが体内で起こっているかはわかりません。鑑別は病院で各種検査が行われ、そして緊急手術など適切な治療が行われます。突然の急激な痛みが起こった場合は、救急車を呼ぶタイミングとなります。
それでは、次回は”呼吸苦”についてお伝えします。
◆一般社団法人日本がん看護学会. 「オンコロジックエマージェンシー―病棟・外来での早期発見と帰宅後の電話サポート (がん看護実践ガイド)」 監修:森文子 編集:大矢綾、佐藤哲文. 2016年
◆MSDマニュアル プロフェッショナル版「痛みの概」
◆特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」金原出版株式会社 発行:2020年6月20日
引用
1)国際慢性頭痛学会 “痛みの概念”改定1979年7月16日
2) 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」金原出版株式会社 発行:2020年6月20日p 28
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この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」