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看護師が解説!フレイル予防⑤フレイル予防の具体策-社会参加編-

フレイル予防⑤フレイル予防の具体策-社会参加編-

加齢による虚弱状態であるフレイルは、病気や要介護状態の前段階です。

そのため予防することが重要であり、その具体策としてこれまで運動と栄養についてお伝えしてきました。

フレイルになる原因には、運動機能の低下や食事摂取量の低下などがありますが、社会的な繋がりを失うことがフレイルの最初の入り口ともいわれています。

フレイルシリーズ最終回である今回は、フレイル予防の3つめの具体策である社会参加についてお伝えします。

この記事の目次

1. 社会参加と健康の関係

社会参加と聞いて、皆さんはどんなことが思い浮かぶでしょうか。
そして、実際にどんな場に参加されているでしょうか。

仕事、スクール、お稽古、PTA活動、自治会、ボランティアやサークルなど、それぞれが複数の場所で社会参加をされているのではないかと思います。

社会参加は、家を出て誰かと出会い交流することによって成立します。
それらが健康にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

高齢者と社会参加の関係について、静岡県で調査された研究報告があります。
高齢者(65~84歳)22,000人を対象に、平成11年から20年までの9年間に、3年毎に追跡調査が行われました。

社会参加は、「町内会の作業・ボランティア活動などの地域活動をしていますか」という問に対し、週に2回以上ありと答えた人を要因ありとして分析されています。

その結果、社会参加は死亡率の低下に強く影響していました。

また令和3年には内閣府が「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」を行っています。

その結果、1年間に社会活動に参加した人は、参加していない人と比較して、生きがいを感じる程度が高い人が多いことがわかりました。

社会参加の種類

  • 近所の人との付き合い
  • 仲良くする友人・仲間を持っている
  • 外出頻度など
生きがいを感じる程度について(社会生活への参加の有無別)

健康状態と生きがいを感じる程度についての質問では、健康状態が良いと感じている人ほど、生きがいを感じることが多い結果となりました。

社会参加により生きがいを感じ生活することが、健康状態にも良い影響を及ぼしていたのです。

生きがいを感じる程度について(現在の健康状態別)

2. 社会参加とは

そもそも社会参加とは、何でしょう。

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類)というものがあります。

「健康の構成要素に関する分類」として、 新しい健康観として提言され2001年5月にWHO(世界保健機関)で採択されました。
ICFは、「人が生きるとはどういうことか」を説明するためのツールです。
健康分野をはじめ、社会保障や教育、労働などさまざまな領域で活用されています。

ICFの生活機能モデル

ICFにおける参加とは、家庭や社会などへの関わりをいいます。

社会参加とは「働くこと、職場での役割、あるいは趣味にしても趣味の会に参加する、 スポーツに参加する、地域組織のなかで役割を果す、文化的・政治的・宗教的 などの集まりに参加する、などの広い範囲のものが含まれる。」と説明されています。

シニアの活動

3. 社会参加の妨げとなるもの

社会参加の妨げになるものとして、どのようなことがあるでしょう。

運動機能や体力の低下、うつ病などの精神的状態などはすぐに思い浮かぶのではないでしょうか。
身体的には感覚器の機能低下も大きく影響しています。
視力が落ちると、外出が不安になり出掛けにくくなることは容易に想像がつきます。

見過ごされやすいものに、聴覚器の低下であるヒヤリングフレイルがあります。

聴覚器は平衡感覚の調節もしています。機能が低下すると身体のバランスが取りにくい、めまいなどを起こしやすい、などのため外出の妨げになります。

身体的要因のほかには、社会との関係が希薄であることがあります。これを社会的フレイルといいます。

ヒヤリングフレイルと社会的フレイルについて、以下に説明します。

ヒヤリングフレイル

聴力低下は徐々に進行するので自分で気付きにくく、歳だから仕方ないと見過ごされることがあります。
加齢とともに聴覚は高音域から聞こえにくくなります。音刺激の減少である聴覚障害はうつや認知症の危険因子です。
放置していると会話に参加しにくくなります。何度も聞き返すのは申し訳ないと聞こえるふりをする人も多く、ますます会話がなくなり孤立の原因になりかねません。

【みんなの聴脳力チェック】というアプリがありますので、定期的に聞こえの状態を確認してはいかがでしょうか。

「大きな声で話さないと通じない」と感じたら教えて欲しい、と周囲にお願いしておくのも良いでしょう。聞こえ方に問題を感じたら、耳鼻科を受診して早めに対応して下さい。

社会的フレイル

社会的フレイルとは、家族や友人らとの交流が少なくなった状態です。
社会的フレイルに影響を及ぼす要因は、以下に挙げた5つに分類される11の要素といわれています。

分類要素
社会状況①経済的困難
住居形態②独居
社会的サポート③生活支援者の不在 ④社会的サポートの授受
社会的ネットワーク⑤誰かと話す機会 ⑥友人に会いに行く ⑦家族や近隣者との接触
社会的活動・参加⑧外出頻度 ⑨社会交流 ⑩社会活動 ⑪社会との接触

経済的困窮は、外出や食料品の買い控えに繋がり、身体機能の低下をもたらします。
他者との関わりの少なさ、とりわけ孤食は食欲の低下に繋がります。

社会的フレイルの死亡に対するリスクは2.69倍とされ、軽んじることができません。

社会的フレイルだった人は、4年後身体的フレイルの発症リスクが4倍との報告もあり、うつとの関連も指摘されています。

社会的フレイルは、うつや身体的フレイルのきっかけになるという点で、見逃すことはできません。
しかし、社会的フレイルも高齢者自身が気づきにくいという特徴を持っています。

外出頻度が減っても、「もう歳だからこの程度だろう」と納得してしまうのです。

社会的フレイルのチェックは、フレイル②「高齢者にフレイル予防が必要なのはなぜ?」でご紹介した基本チェックリストの問16~17、21~25で確認することができます。

4. フレイル予防は人と出会うことから

内閣府が平成28年に行った「高齢者の経済・生活環境に関する調査」には「社会的な活動をしてよかったこと」という質問がされています。

結果

  • 「新しい友人を得ることができた」が最も多く56.8%。
  • 「地域に安心して生活するためのつながりができた」が50.6%でした。
高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査
高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査

地域で暮らしていく上で、隣人をはじめ地域住民との繋がりは心身の安寧につながるのです。
自治会活動や地域の茶話会などに参加してみましょう。

そのほか社会参加には、就労、ボランティア活動、サークル活動、生涯学習や一般対象者向けの講座、ワークショップやセミナーへの参加などがあります。

誰とも話す機会がないという方は、「1日1回は、必ず誰かと話す」ことを目標に、散歩や買い物に出掛ける、というのはいかがでしょう

出会った人と笑って挨拶することから始めてみませんか。
意識して誰かと会話をすることで、何かに参加するきっかけが生まれるかも知れません。

笑い合う女性

暮らす場所によって、活動できる種類や内容は異なります。

隣家まで歩いて数分という所にお住まいの方もいらっしゃることでしょう。

自分の地域では、どこでどんな活動が実施されているのか、日頃から情報を集めておくことも大切です。
わからなければ、公民館や保健センター、役所などに相談することもできます。

5. まとめ

フレイルは、何をきっかけに起るかわかりません。ほんの些細なことをきっかけにフレイルサイクルにおちいり、一気に進行してしまうこともあります。

身体機能が低下すれば、フレイルになりやすいことは想像できます。

しかし、社会参加の減少が身体機能の低下の要因となることに、驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

社会参加するためには、心身ともに元気であることが大切です。

いずれ低下する身体機能と縮小する活動に備えて、体力と気力の維持に努めつつ、その時々で参加可能な活動や場所を、早い時期からリサーチしておくとよいでしょう。

新しい場所に出掛けるには勇気がいるものです。

一緒に参加できる友人、できれば幅広い年齢の友人を持つことが大切ではないでしょうか。
5回にわたりフレイルについてお伝えしてきました。皆様の健やかな生活にお役立ていただけたら幸いです。


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この記事を書いた人

看護師:青木容子 看護師経験30年 (病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など) 現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。 紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

看護師:青木 容子
〈プロフィール〉

看護師経験30年

(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)

現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。

紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

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