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フレイル予防①高齢者特有のフレイルってなに?

高齢者特有のフレイルってなに

皆さんは「フレイル」という言葉を見聞きしたことがありますか?近頃はテレビや新聞、雑誌などで特集されていることもありますね。

高齢者の健康にとってフレイルは切っても切れない関係にあります。毎日を元気で楽しく、そして自分らしく生活し続けることができるように、これから5回にわたって高齢者の健康とフレイルの関係を紐解き、どうすれば予防できるかについて解説します。

この記事の目次

1.フレイルって何?

「青信号で横断歩道を渡り切るのが難しくなった」
「今までしていた家事や外出がおっくうになった」
などと感じることはありませんか?

このような身体や気持ちの変化は、フレイルの重要なサインです。

フレイルを、一言で表すなら「虚弱」です。

平成28(2016)年度版厚生労働白書で、フレイルとは、加齢とともに、心身の活力(例えば筋力や認知機能など)が低下し、生活機能障害、要介護状態、そして死亡などの危険性が高くなった状態」と説明されています。

フレイルは、病気と健康の間の状態と言えます。

健康な時からフレイル予防を行いつつ、早期発見と早期対応することで、再び健康な状態に戻る可能性を秘めています。

健康、前フレイル、フレイル、要介護

平成30年度、高齢者の特性を踏まえた保険事業ガイドラインによると我が国のフレイル高齢者の割合は、地域で暮らす高齢者の約10%前後と推計されています。

具体的には、おおよそ高齢者の10人に1人がフレイルの状態にあります。

そして、加齢とともにフレイルの割合は増加し、性別では男性に比べ女性の方が高くなっています。

年齢階級別、性別、教育歴別のフレイルの割合

研究成果報告書

また、慢性疾患で外来通院中の高齢者や、施設入所者におけるフレイルの割合は地域で暮らす高齢者よりも高いといわれています。

2.フレイルの種類

フレイルには身体的、精神・心理的、社会的という3つの側面があります。

1.身体的側面:身体機能の低下

加齢により、人間が生きていくために必要な、身体の働く能力(生理機能)は低下します。加えて栄養不足や持病、運動機能の低下などにより起こります。フレイル状態になるにはいろいろな要素がありますが、その中でも影響が大きいのは食べることと歩くことに関するものです。

①オーラルフレイル
加齢に伴うさまざまな口腔の状態や機能の変化、口腔の健康への関心の低下などにより、食べる機能が低下した状態をいいます。
口に関する衰えの軽視から口腔の働きや食べる機能が低下し、ひいては心身の機能低下にまでおちいることがないよう意識づけするために、平成25年の老人保健健康増進等事業の研究班により提唱されました。

②サルコペニア
加齢に伴う骨格筋量の減少と骨格筋力の低下のことです。
加齢に伴う筋肉量の減少は下肢が最も顕著で、85歳以上では20歳前後の成人の約65%まで減少するとの報告があります。
また年齢が高くなるにつれ、サルコペニアの有病率は高くなり、80歳以上では約半数にサルコペニアが認められると言われています。
筋肉量が低下すると、筋力も低下します。歩くことが徐々に困難になり外出の機会が失われ、閉じこもりの原因となります。

2.精神・心理的側面:認知症や抑うつ 

身体の不調や大切な人やものをなくす体験など、様々なきっかけで抑うつ傾向になると、考える働きが低下します。ものをなくす経験には、引っ越しや施設入所、思い出の品を処分することなども含まれます。
さらに、難聴や視力低下などにより外界からの情報が入りにくくなることも要因のひとつです。

3.社会的側面:閉じこもりなどによる孤立

身体的側面や精神・心理的側面でフレイル状態になると閉じこもり傾向になり、他者との交流機会が減少します。配偶者や友人が亡くなるなどで、さらに他者との交流が減り社会的フレイル状態になります

社会的側面には過疎地など住環境による影響もあります。過疎地では、人と接する機会が持ちにくいからです。都会であっても、普段から近隣住民との関係が希薄であれば同じことが言えます。


これら3つの側面は互いに影響し合って、ぐるぐるとマイナスの連鎖が始まると、フレイルが進み要介護状態へ突入していくのです。

身体的側面、精神・心理的側面、社会的側面

3.加齢による身体の変化

フレイルは加齢による影響が大きいことがわかりました。
では、加齢にともない身体はどのように変化するのでしょうか。

加齢により、生きるために必要な身体機能は、徐々にその働きが低下します。

人には外部の環境(皮膚を取りまく全ての環境で、温度や湿度、大気など)にあわせて身体のバランスを調整する能力(恒常性の維持:ホメオスターシス)があります。
恒常性の維持には、予備力、回復力、適応力、防衛力が必要です。

恒常性の維持体内生理機能と外部の環境バランスを調整する能力
予備力その人が持つ体力や生理機能の最大能力と日常使っている能力の差
回復力何かのストレスを受けたときに、修復してもとに戻そうとする能力
適応力ストレスに原因が身体に影響しないよう順応していく能力
防衛力健康をおびやかすストレスの原因から身体を守る能力

1.予備力の低下

予備力が低下すると、さまざまなストレスに対する対処が充分にできなくなります。
暑さ寒さに対応できない、階段を上がると息切れをするなどが起こります。

2.回復力の低下

回復力が低下すると、体調を崩したときの回復に時間がかかります。
回復力は、本人の気持ちや生活環境(独居や近隣との関係など)の影響を受けやすく個人差が大きいとされています。

3.適応力の低下

適応力が低下すると、変化に対する対応が難しくなります。
入院や転居など生活環境が変化することで、不安感や精神的ストレスが高まり、抑うつや新たな病気に繋がることがあります。
病気に対する反応も鈍くなり、症状や経過が一般的ではなくなります。
肺炎なのに熱が出ないなど、気づかないうちに病状が進行していることもあります。

4.防衛力の低下

防衛力が低下すると、体調を崩しやすくなります。
皮膚のバリア機能や免疫力が低下するために、病気になるのです。
肺炎なのに熱が出ないなど、気づかないうちに病状が進行していることもあります。 

5.フレイルの診断基準

フレイルの診断には、一般的にFriedらによる診断基準が用いられ、次の5項目が用いられています。

  1. 体重減少
  2. 疲れやすい
  3. 身体活動量の低下
  4. 歩行速度低下
  5. 筋力低下
改定日本版CHS基準(J-CHS基準)

5項目のうち3項目以上に該当するとフレイルとみなされます。

1~ 2項目に該当するものを前フレイル(プレフレイル)、いずれにも該当しないものを健康としています。
筋力低下の目安として、ペットボトルを開けるのに必要な握力は20kgです。
通常歩行速度とは、横断歩道を青信号の間に渡りきれる速度です。

皆さんは該当する項目がありませんでしたか?

5.まとめ

フレイルは加齢に伴う心身の虚弱を示す言葉で、要介護状態の前段階と言えます。

身体的精神・心理的社会的側面をもち、これら3つの側面が互いに影響し合っています。
高齢になっても健康な状態で生活し続けるためには、フレイル予防とフレイルからの早期回復が必要です。

次回はフレイル予防の必要性について、より詳しく説明します。

高齢者の特性を踏まえた保健指導ガイドライン 別冊資料
一般社団法人日本サルコペニア/フレイル学会
公益社団法人長寿科学振興財団 フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域

 


この記事を書いた人

看護師:青木容子 看護師経験30年 (病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など) 現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。 紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

看護師:青木 容子

<経歴>

看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。

紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

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