※このコラムでは65歳以上の方を「高齢者」と表記します※
今年の夏は「熱中症」という言葉がよく聞かれました。
皆さんは熱中症がどうやって起こるのかご存知でしょうか?
熱中症は温度が高く、湿度が高いところで、長時間滞在すると起こります。
日本の夏は高温多湿なのでその条件にピッタリ合います。
目安として温度28℃以上、湿度65%以上の場所に30分以上滞在すると熱中症になる可能性が急激に高くなります。
熱中症が原因で死亡した方の約80%が高齢者のため、高齢者の熱中症予防はかなり注目されています。
実際に厚生労働省、気象庁、消防庁など国を挙げて熱中症予防を呼びかけています。
今回のコラムでは、熱中症を予防する方法についてまとめました。参考になれば幸いです。
この記事の目次
1. なぜ高齢者は熱中症になりやすいのか
年々熱中症患者は増えています。
熱中症になりやすい人の特徴は以下です。
高齢者、乳幼児、運動習慣がない人、太っている人、体調がよくない人、暑さに慣れていない人
総務省消防庁が2023年5月から9月の間で熱中症による救急搬送状況を発表しました。
熱中症による救急搬送患者は91,467人と調査開始以降2番目に多い結果となりました。
その内、半数以上の50,173人が高齢者でした。
さらにその約半数が自宅で熱中症を発症しています。
安全と思われる自宅で熱中症になってしまうほど、高齢者は熱中症になりやすいのです。
なぜ高齢者は熱中症になりやすいのかをまとめました。
(1)体温を調整する機能が低下しているから
人は皮膚で暑さや寒さを感知します。
脳が暑いと判断すると、皮膚の血流量や汗の量を増やして、体内の熱を周囲に逃がそうとします。
しかし高齢者は老化によって暑さや寒さを感じるセンサーが鈍くなっています。
そのため、脳が暑いと判断が遅くなり、熱を逃がそうとする反応が遅れてしまいます。
結果的に体に熱がこもってしまい、熱中症になりやすいのです。
(2)体内の水分量が減少しているから
体内の水分量は年齢によって変化します。
生まれてすぐの赤ちゃんは体内の水分量が80%で、発育とともに少しずつ減少し成人になると60%程度となります。
高齢者になると水分の貯蔵庫である筋肉量の低下、水分摂取量の低下、食事量の低下などから50%まで減少すると言われています。そのため、脳が暑いと判断しても、皮膚の血流量や汗の量を増やすことができず、体内の熱を逃しにくくなります。
また、容易に脱水症状に陥りやすく、熱中症の発症や重症化になりやすいのです。
(3)つい無理をしてしまうから
節電への意識、夏は暑いものだから多少は我慢、これまでの習慣などから、冷房を控える高齢者は少なくありません。
また、気温が高くても暑いという自覚がないことから、そもそも冷房が必要ないと思われている方もいます。
高齢者の部屋は若年者の部屋より温度が約2度高いところで過ごしていると報告されています。
そのため、室内でも熱中症になりやすい気温で過ごしており、気付かない内に熱中症になるケースが少なくありません。
2. 高齢者の熱中症症状
熱中症には様々な症状があります。
日本救急医学会熱中症診療ガイドラインでは熱中症の重症度によって3つの段階に分類しています。
(1)重症度Ⅰ度(軽症)
重症度Ⅰ度は最も軽い症状になります。
自宅での対応で様子を見ることができる程度の症状です。
代表的な症状は、めまい、たちくらみ、生あくび、大量の発汗、こむら返り、筋肉痛があります。
このような症状の場合は速やかに涼しいところで休息をとります。
スポーツドリンクや0.1~0.2%の濃度の食塩水(1ℓの水に対して1~2gの食塩を加えたもの)など摂取します。軽症だとこの対策で症状が軽快するケースがほとんどですが、それでも症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
(2)重症度Ⅱ度(中等症)
上記の症状に加えて、頭痛、嘔吐、集中力や判断力の低下、立ったり座ったりするのが難しいほどの倦怠感がある場合を指します。
意識状態がなんとなくおかしい、動けないと思われる場合も該当します。
このような症状の場合もまずは涼しいところでの休息や水分補給をします。
体が熱い場合は可能であれば氷枕やアイスノンなどを首、腋の下、太ももの付け根に当てて対応します。
汗をかいていないようであれば、皮膚を水で濡らし、団扇や扇風機で風を当てます。
熱中症以外にも脱水症状が伴っている可能性が高いため、医療機関への受診をお勧めします。
(3)重症度Ⅲ度(重症)
呼びかけや刺激に反応が乏しい意識障害、全身をガクガク震わせるようなけいれん症状などがある場合を指します。
まるで体中の細胞が煮えたぎるような状態になり、体温が40℃を越える場合があります。
この状態は対処が遅れれば後遺症が出る、もしくは死に至る可能性が高いため一刻も早く対処が必要な状況です。
自宅での対応では十分な対応が困難なため、速やかな医療機関への受診、もしくは救急要請をします。
医療機関に到着するまでの間、体中を冷やしておくのが理想です。
意識障害がある場合、水分摂取が困難な状況が想定されます。
無理に水分を摂らせるとムセたり嘔吐したりするため、飲めない状況の場合はその旨を医療機関に伝えましょう。
3. 高齢者の熱中症を予防する方法
先述した通り、正しく予防すると熱中症になるリスクを減らすことができます。
もし熱中症になってしまった場合でも、症状がより軽症で抑えられることがわかっています。
屋外に出る時は帽子や日傘を使ったり、日陰で歩いたりと対策をしている方が多いです。
しかし、室内では十分な対策ができていない方は少なくありません。
室内の熱中症を予防する方法を3つご紹介します。
(1)気温や湿度を計る
熱中症は温度28℃以上、湿度65%以上の場所でなりやすいと言われています。
暑いかどうかの感覚だけではなく、温度計や湿度計を用いてエアコンや扇風機などの使用を判断するとよいです。
例えば室温が28℃以上なら冷房を入れる、湿度65%以上なら除湿を入れると決めておきます。
室温が26℃から28℃が快適に過ごせる温度ですので上手に活用しましょう。
(2)水分を計画的に摂る
特にご病気のない健康な高齢者は、最低でも飲み物から1日1200ml程度の水分を摂ることが推奨されています。
皆さんは摂れていますか?
もしかしたらご自身でどのくらい飲んでいるかわからない方がほとんどなのではないでしょうか?
高齢者は喉の渇きを感じにくい傾向があります。
そのため、喉が渇いたら飲む状態だと必要な水分が摂りにくい場合があります。
計画的に水分を摂るオススメの方法を2つ紹介します。
- メモリ付きの水筒などを用いて、自身がどのくらい飲めているか把握する
- 1日のスケジュールにコップ1杯の水分を摂取することを組み込む
ご自身に合った方法を選び、目標摂取量1200mlを達成しましょう。
(3)服装を工夫する
高齢者は体の熱を放散させにくくなっています。
また暑さを感じにくいため、厚着や保温性の高い服を選んでしまい、気温に合わない服装となる傾向にあります。
気温が高くなる日は体の熱が逃げやすい素材でできた服を選びましょう。
具体的には吸水性・速乾性・通気性に優れた服です。
白のゆったりした服や綿や麻の素材がオススメです。
寝ている間にも熱中症になる場合があるため、寝具も調整するとよいでしょう。
4.まとめ
今回のコラムでは、以下についてお伝えしました。
- 熱中症になりやすい理由
- 熱中症の症状と対策
- 熱中症を予防する方法
地球の変動で日本の夏は年々暑くなっています。
10年前、20年前、30年前…と過去の夏とは違い、近年は酷暑が更新され続けています。
是非、熱中症対策方法を見直して、来年の夏に向けて対策をしていただければと思います。
【参考】
◆環境省 熱中症予防情報サイト
◆厚生労働省 熱中症予防のための情報・資料サイト
◆一般財団法人日本気象協会 熱中症ゼロへ
◆東京消防庁 熱中症に注意
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この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業