前回のコラム「知っておこう!歯の大切な役割」を読んでいただき、歯の役割を知っていただけたかと思います。
今回は、歯が役割を果たせなくなる状況、つまり歯を失う原因についてお伝えいたします。
ご自身の歯を守るためにも何故歯を失うのかを知っていただき、お役に立ててくださると嬉しいです。
この記事の目次
1. 歯を失う原因 ①歯周病
(1)歯周病とは
歯周病という言葉は、歯磨き粉の宣伝などで耳にしたことがあるかと思います。
しかし、歯周病とは何かと聞かれると答えられる方はどのくらいいるでしょうか。
歯周病とは、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患で、放置すると歯を支える歯ぐきや骨などが溶けてしまう病気です。
2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果では、歯を失う原因で最も多い約40%でした。
そのため、歯周病を予防する歯磨き粉や定期的な歯科受診が勧められています。
(2)歯周病の症状
代表的な症状は下記の通りです。
✓ 歯ぐきが赤く腫れる
✓ 歯を磨いたときに歯ぐきから出血する
✓ 口臭が気になる
✓ 朝起きたときに口の中がネバネバする
✓ 硬いものが噛みにくい
✓ 歯がグラグラする
✓ 歯肉が下がって、歯と歯の間にすきまができてきた
(3)歯周病の原因
歯が十分に磨けていないと、歯垢(プラーク)が溜まります。
歯を磨き忘れた日に、爪で歯をこするとクリーム色っぽいものが付着しているのを目にしたことがありませんか?
あれが歯垢で、口の中にいる細菌の塊です。
歯垢1mgの中には約10億個の細菌がいると言われています。
この歯垢を取り除かず歯に付着し続けたまま放置すると、歯ぐきの炎症を引き起こし、歯周病となります。
(4)歯周病の進行度
〇軽度(歯肉炎)
歯ぐきが腫れてピンク~赤色を呈し、ブラッシング時には出血が気になるようになります。
この時点で治療を開始すると元の健康な状態まで改善しやすいのですが、気づかれにくいことがほとんどです。
〇中期(歯周炎)
歯ぐきの腫れや炎症が悪化し、歯周ポケットが深くなります。
歯の周辺にある組織や骨の破壊も始まり、歯ぐきが委縮して歯の形が変わったように見えます。
〇重度
歯の根にまで汚れが付着し、歯周ポケットもかなり深くなった状態となります。
歯のぐらつき、歯ぐきからの血や膿が出る、強い口臭などが発生します。
この状態で放置すると、最終的に歯を支えている歯ぐきが機能を果たせず、歯が抜けてしまいます。
(5)歯周病は全身に影響がある
歯周病が長期に渡ると、細菌が出す毒素が血液にのって全身に運ばれます。
その結果、毒素が全身に巡ってしまい、様々な病気を引き起こします。
歯周病は心臓だと心内膜炎、肺だと誤嚥性肺炎などを引き起こします。
また、糖尿病を患っている方は血糖コントロール悪くなったり、妊娠している方は胎児の成長に影響を及ぼしたりします。
他にも、脳、骨、関節、腎臓、肝臓などの影響することがわかっています。
2. 歯を失う原因 ②虫歯
(1)虫歯とは
虫歯、という言葉は聞き馴染みがあるのではないでしょうか?
歯磨き指導用アニメでも、頬を腫らして虫歯になったキャラクターを見たことがあるかと思います。
しかし、虫歯とはどんな状態かを知らない方は意外と多いのではないでしょうか。
虫歯とは、口の中にいる細菌によって歯が溶けた状態のことを言います。
2018年に全国抜歯原因調査結果より、歯を失う原因の約30%が虫歯ということがわかっています。
歯周病に次いで2番目に多いという結果です。
(2)虫歯の症状
代表的な症状は下記の通りです。
✓ 歯に穴やひびが入っている
✓ 歯に茶色や黒ずみなどの変色がある
✓ 歯と歯茎の間が白く濁っている
✓ 冷たいものや甘いものを食べたり飲んだりしたときに歯がしみる
✓ 食べ物がよく歯に詰まる
✓ 噛むと痛い
(3)虫歯の原因
大きく原因は2つあります。
1つ目は歯周病の原因と同じく、口の中にいる細菌が原因です。
特に虫歯の原因になる細菌はミュータンス菌と呼ばれる菌が良く知られています。
菌から発生した酸によって歯の表面が溶かして、歯を脆くしてしまいます。
これが原因で、歯に穴が開いてしまって虫歯ができるのです。
2つ目は糖分です。
菌は糖分を栄養にして増殖します。
間食が多い人や甘い物をよく摂る習慣のある人は、ミュータンス菌が作り出す酸の量が増えるため、虫歯になりやすくなります。
他にも歯の質や時間も関係します。
(4)虫歯の進行度
虫歯の進行度はC0~C4の5段階で表されています。
Cは英語のcaries(カリエス)の略で、虫歯のことを指します。
〇C0
歯の表面が溶かされている程度で、歯に穴は開いていない状態のことを指します。
痛みなどの自覚症状はありません。
〇C1
歯の表面に狭い範囲で穴が空いている状態のことを指します。
この段階でも痛みなどの自覚症状はありません。
〇C2
虫歯が歯の内部まで広がっている状態のことを指します。
冷たいものを食べたり飲んだりすることで痛みを感じます。
〇C3
虫歯が神経まで進んでいる状態のことを指します。
激しい痛みがあります。
〇C4
歯のほとんどが崩壊し、歯の根っこ部分だけが残った状態のことを指します。
神経が死んでしまっているため痛みを感じなくなります。
しかし、歯の内部が露出しているため細菌に感染しやすくなります。
そのため、炎症を起こし、膿が溜まったり痛みが出現したりします。
(5)虫歯を放置すると命に関わる
C4の状態を放置すると、歯の奥にある顎の骨まで虫歯菌が侵食します。
最悪の場合、虫歯が原因で死亡することもあります。
持病のない10代・20代の人が虫歯の放置で亡くなったという例が報告されています。
虫歯菌が血液にのって全身を巡り、敗血症や多臓器不全となったのが死因と考えられています。
このように虫歯も歯を失うだけではなく命まで奪う可能性がるため、予防・早期発見・早期対策が必要です。
3.歯を失う原因 ③破折
(1)破折とは
歯が割れたりヒビが入ったりした状態のことを指します。
破折した歯の治療は現在の歯科医療において確立された方法はなく、「抜歯するしかない」と考えるのが一般的です。
そのため、歯を失う原因の約10%が破折で、歯周病・虫歯に次いで3番目に多いという結果になっています。
(2)破折を起こしやすい人
下記に当てはまる方は、破折するリスクが高いと言われています。
✓歯ぎしり・食いしばりの癖がある
✓噛む力が強すぎる
✓硬いものをよく食べる
✓金属の差し歯が入っている
✓歯周病や虫歯など歯のトラブルがある
(3)破折の症状
代表的な自覚症状は下記の通りです。
✓歯がしみる
✓噛むと痛い
✓歯がズキズキする
✓歯にぐらつきが出てくる
✓歯ぐきが赤く腫れる
4.まとめ
このコラムでは、
✓ 歯周病、虫歯、破折が主な原因で歯が抜ける
✓ 歯周病と虫歯は命に関わる場合がある
ということについてお伝えいたしました。
歯のトラブルが原因で、命を失うリスクがあるのは知られていません。
このコラムを読んだ今、歯のケアをしたいと思っていただけましたでしょうか。
次回は、「歯を守る!8020運動」についてです。
一緒に歯のケアの方法について学びましょう。
<参考資料>
・e-ヘルスネット 歯の喪失の原因
・日本臨床歯周病学会 歯周病について
・働き盛りのお口の健康
この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業