睡眠中大きないびきを指摘されたことはありませんか。または、ご家族に大きないびきをかかれている方はありませんか。たかがいびき、されどいびき。いびきには、大きな病気が隠れていることもあるので要注意です。大きないびきの陰に潜んでいるかも知れない「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome; SAS)」についてお伝えします。
この記事の目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に無呼吸(10秒以上息が止まる状態)を繰り返す病気の総称です。
睡眠中1時間に5回以上の無呼吸がある、または10秒以上の無呼吸が一晩に30回以上ある場合に診断されます。
その方の眠りを観察していると、大きないびきをかいていたのに突然静かになったと思ったら息が止まっていて、あえぐような呼吸からまた大きないびきが始まるという感じです。
原因の多くは、空気の通り道である気道が閉塞することによるものです。
仰向けで眠ると重力の影響で舌根が下がりやすくなり、気道が狭くなります。
扁桃肥大や、肥満にともなう咽頭周囲についた脂肪、加齢による咽頭周囲筋のたるみなどで、さらに狭くなり大きないびきが発生します。
その他にも、生まれながらに骨格の形で咽頭周囲が狭い方もおられます。
またわずかですが、中枢神経の障害により発症することがあります。
日本では300~500万人以上の患者さんがいると推測されており、女性より男性に多い傾向があります。
年齢構成では、男性は40~50歳が半数を占めていますが、女性では閉経後に増加します。
2.睡眠時無呼吸症候群の症状
睡眠中呼吸が止まることで、血液中の酸素濃度が低下します。
呼吸が止まって目を覚ますことがあり、良質な睡眠をとることができません。
慢性的な睡眠不足状態になるため、日中に強い眠気が生じます。
仕事中の眠気は大きな事故になる危険があります。
2003年山陽新幹線の事故で、睡眠時無呼吸症候群が初めて社会的注目を集めました。
睡眠不足により眠気だけでなく、集中力低下や全身倦怠感などの症状があり、仕事や日常生活に影響することで、ストレスが溜まりやすくなります。
ストレスは、暴飲暴食や飲酒、生活リズムの乱れに繋がり、糖尿病やメタボリックシンドロームなど生活習慣病の誘因となります。
睡眠の効果については、「睡眠負債 あなたは大丈夫?」でお伝えしていますので合せてご覧下さい。
血液中の酸素飽和度が低下すると、それを補うために心臓は頑張って全身に送る血液を増やす必要があります。
そのため高血圧になりやすく、動脈硬化も進むため狭心症や心筋梗塞を起こしやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群の診断には携帯型装置を用いた簡易検査や、睡眠中の脳波や呼吸・心電図・眼球運動・いびき・酸素飽和度などの生体活動を測定する睡眠ポリグラフ検査があります。
重症度は、睡眠中1時間あたりの無呼吸低呼吸指数(無呼吸数と低呼吸を合わせた回数)で判定します。
中等度以上の睡眠時無呼吸症候群を放置した方は、3~4割が10年後亡くなる可能性があると言われています。
特に高血圧や不整脈、虚血性心疾患などとの関連が強く、突然死のリスクもあります。
働き盛りの年代で有病率が高いため、早期診断・早期治療が重要です。
また、睡眠時無呼吸症候群は夜間頻尿とも関係があります。
無呼吸の際、胸腔内圧が低下することで心臓に戻る血液量が増加します。
そのため心臓は身体の体液が増えていると判断し、利尿ホルモンが放出されて尿量が増えるのです。
本来、睡眠中は副交感神経が優位となって尿意を感じにくくなるため、膀胱に多くの尿を貯めることができます。
しかし、無呼吸による血液中の酸素濃度の低下は、心拍や血圧上昇を促し交感神経が優位になるため、リラックスできず夜間頻尿が引き起こされます。
3.睡眠時無呼吸症候群の予防と治療
睡眠時無呼吸症候群は気道の閉塞により起りますので、気道を確保することが重要です。
①姿勢の工夫
横向き姿勢で眠ることで、舌が重力で落ち込むのを防ぐことができます。
横向き姿勢で安楽に眠るには、中心にくぼみがある枕を使用すると頭が安定します。
専用枕を買わなくても、大きめのバスタオルを二つ折りにして、中心部を20センチほど残して左右から巻き、ひっくり返して使用することで代用できます。
抱き枕を使用するのも良いかも知れません。
②鼻づまりの解消
鼻が詰まっていると口呼吸になり口腔内が乾燥します。
のどの緊張も弱まるため気道が狭くなります。
口呼吸の習慣がある方は、鼻呼吸を行うよう意識しましょう。
慢性的に鼻づまりがある方は耳鼻科で治療を受けましょう。
冬場は加湿器を使用して乾燥予防に努めます。
鼻詰まりによいと言われる、ユーカリやペパーミントのアロマオイルを使用するのもよいでしょう。
③生活習慣の見直し
睡眠時無呼吸症候群は、動脈硬化・高血圧・糖尿病などの生活習慣病と深い関わりがある病気です。そのため生活習慣の見直しが必要です。
睡眠時無呼吸症候群を予防することは、他の病気の予防にも繋がります。
・禁煙
喫煙は気道に炎症をもたらすため気道を狭くします。
睡眠時無呼吸症候群のリスク因子でもあるため、禁煙することが望ましいです。
・アルコールを控える
過度な飲酒は筋肉を弛緩させるため、気道が狭くなりやすいです。
深酒を避け、寝酒もほどほどにしましょう。
・体重管理
肥満は気道を狭くします。
脂肪のとりすぎに注意し、バランスのとれた食事と適度な運動により、体重管理に努めましょう。
④治療
扁桃腺肥大がある方は、早めに耳鼻科で相談しましょう。
年齢を重ねると共に、肥満や加齢による筋力の緩みで気道が狭くなりやすいためです。
睡眠時無呼吸発作の治療には鼻マスク式持続陽圧呼吸(nasal continuous positive airway pressure; nCPAP)が行われています。
睡眠中は鼻に密着するマスクを装着し、マスクと繋がった機械で空気を鼻から気道に送り込みます。
有効で安全な治療ですが、対症療法であるため継続的に使用する必要があり、そのための通院も避けられません。
4.まとめ
いびきと関係の深い病気である睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の質が落ちるため日常生活への影響が大きいだけでなく、命に関わる病気とも深い繋がりがあります。しかし、生活習慣を改善することによって予防することが期待できるので、いびきを指摘されたら「睡眠時無呼吸発作との関係はないかな?」と振り返って見て下さい。何事も早期対応が効果的です。
参考資料
KONPAS慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト https://x.gd/A8SVj
厚生労働省e-ヘルスネット https://x.gd/U5JnH
SAS 一般財団法人運輸・交通SAS 対策支援センター https://www.sas-support.or.jp/
柳沢正史、快眠法の前に今さら聞けない睡眠の超基本、朝日新聞出版、2024
この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。