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「水分でむせやすい?」とろみから始める嚥下食の基本と工夫

水やお茶を飲んだとき、「前よりむせやすくなった」と感じることはありませんか。

食事は問題ないのに、水分だけむせる――そんな経験があるかもしれません。第1回から第4回までで、嚥下の仕組み、早めの気づき、誤嚥性肺炎の予防、専門職による支援についてお伝えしてきました。今回は、日常の食事の中でできる具体的な工夫として、「とろみをつけること」についてわかりやすく解説します。

この記事の目次

1.なぜ水分はむせやすいのか

なぜ水分はむせやすいのでしょうか。

水分は、流れるスピードが速く、形を保たないという特徴があります。食べ物は、噛むことでまとまり(食塊)ができ、舌でコントロールしながらのどへ送ることができます。しかし水分は口の中でまとまりにくく、一気に広がりながらのどへ流れ込みます。

そのため、嚥下反射がわずかに遅れるだけでも、気管に入りやすくなるのです。

また、水分は食べ物に比べてのどを通るときの感覚が弱いといわれています。のどの感覚が鈍くなると、「飲み込む」という反応が遅れ、誤って気管に入りそうになっても咳が出るまでに時間がかかることがあります。

さらに、極端に冷たい飲み物や熱い飲み物は、のどの感覚を一時的に鈍らせることがあり、嚥下反射がうまく起こらない原因になることもあります。

そして大きなポイントが「とろみ」です。

とろみがない水分は流れるスピードが速いため、のどでの調整が難しくなります。一方で、とろみがあると流れがゆるやかになり、飲み込むタイミングが合わせやすくなります。

このように、

・形がなくまとまりにくい
・流れるスピードが速い
・感覚として捉えにくい
・温度の影響を受けやすい

といった要因が重なることで、水分はむせやすくなるのです。

「水分を飲むときにむせる」という状態は珍しいことではありません。それは、嚥下機能の変化を知らせるサインのひとつです。

2.とろみをつけるという工夫

水分を飲むときのむせを防ぐ工夫の1つがとろみをつけることです。

水分にとろみをつけると、流れるスピードを緩やかにすることができます。

流れるスピードが緩やかになることで、次のような効果が期待できます。

・嚥下反射が間に合いやすくなる
・のどでコントロールしやすくなる
・誤嚥のリスクが下がる


とろみをつけるために便利なのは、とろみ剤として売られている粉状の増粘剤です。混ぜることで、お水、ジュースやお茶だけでなく味噌汁などにもとろみをつけることができます。

とろみをつけることは、嚥下食の第一歩ともいえます。嚥下食とは、飲み込みやすさを考えて硬さや形態を調整した食事のことです。とろみはその中でも取り入れやすい工夫であり、食事全体の形態調整へとつながる入口でもあります。

3.とろみの濃さの目安とつけ方


実際にとろみをつけるときにはどのようにするのでしょうか。

まず、とろみの程度、濃さには3つの段階があります。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会により分類されています。

【薄いとろみ】
サラサラではないが、液体をスプーンですくい傾けるとすっと流れ落ちる状態。
まずはここから試すことが多いです。

【中間のとろみ
液体をスプーンですくい傾けると、とろととろと流れる状態。

【濃いとろみ】
スプーンですくって傾けても、形状がある程度保たれ、流れにくい状態。

最初からとろみが濃いと、「飲みにくい」「味が変わった」と感じることがあります。まずは薄いとろみから始め、様子を見ながら調整することが大切です。

とろみ剤の使い方は、水分にとろみ剤の粉末を入れ、かき混ぜるだけです。かき混ぜてから数分置くことでとろみが安定します。温度によってつき方が変わることもあるため、製品の表示を確認してください。

また、調理の過程で片栗粉や小麦粉などを使って、食事にとろみをつけることもできます。ポタージュスープや葛湯など、とろみのある飲み物を飲んでみることで自分にちょうど良い程度のとろみの加減を探してみることもできます。

4.とろみをつける以外にできる工夫

水分を飲むときのむせを防ぐために、とろみをつける以外にできる対策もあります。
以下のような対策です。

・背筋を伸ばし、あごを軽く引く
・ひと口量を少なくする
・急がずゆっくり飲む
・疲れているときは無理をしない
・水分摂取後、30分は横にならない

姿勢とペースを整えるだけでも、むせは減ることがあります。

「夕方はむせやすい」「体調が悪い日は飲みにくい」と感じたら、その日は少しとろみを濃くするなど、体調に合わせた調整も大切です。

5.無理をしないためのポイント

むせは体の防御反応です。むせること自体が悪いわけではありません。

大切なのは、

・むせが続いていないか
・水分摂取量、食事量が減っていないか
・体重が落ちていないか

を見守ることです。


とろみが必要かどうかは、その人の嚥下機能の状態によって異なります。すべての人に同じとろみの濃さが合うわけではありません。むせが少なく、安全に飲めているのであれば、無理にとろみをつける必要はありません。大切なのは、「今の状態に合っているかどうか」を見極めることです。
迷ったときは、言語聴覚士や医師、看護師などの専門職に相談しましょう。

6.まとめ


これまでのシリーズでは、嚥下の仕組み、気づきのサイン、誤嚥性肺炎の予防、専門職の支えについてお伝えしてきました。

嚥下の問題は、特別な誰かの問題ではなく、年齢とともに誰にでも起こりうる変化です。

「むせやすくなった」「飲み込みにくい気がする」それは、体が発している小さなサインです。

とろみをつけることは、そのサインに応えるための「制限」ではなく「調整」のひとつ。怖がるための知識ではなく、安心して食べ続けるための知識です。

食べることは、栄養をとるだけでなく、楽しみであり、家族との時間であり、その人らしさでもあります。

嚥下機能が変化しても、工夫と支えがあれば、食べることや飲むことをあきらめる必要はありません。

飲み込みの変化は、ある日突然大きく進むものではなく、少しずつ積み重なっていくことがほとんどです。だからこそ、小さな違和感を大切にしながら、できる工夫を続けていくことが大切です。「少し変わってきたかもしれない」そう感じたときこそ、整えるタイミングです。

無理をせず、怖がりすぎず、必要なときは専門職に相談をしながら、その人らしい「食べる力」を守っていきましょう。

このシリーズが、食べることを安心して続けるためのひとつのきっかけになれば嬉しく思います。

<参考文献>

・講談社健康ライブラリー編:嚥下障害のことがよくわかる本 食べる力を取り戻す.講談社,2017.
・藤谷順子:テクニック図解 かむ・飲み込むが難しい人の食事.医歯薬出版,2019.
・ナース専科編:おうちでできる えんげ食.MCメディカ出版,2015.

日本摂食嚥下リハビリテーション学会.嚥下調整食分類2021
(最終閲覧日:2026年2月28日)


この記事を書いた人

清水千夏
<プロフィール>

看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。

現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。

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