前回は、高齢者サポート事業には「身元保証サービス」「日常生活支援サービス」「死後事務サービス」の3つに分類されるとお伝えしました。このうち今回は「死後事務サービス」について見ていきましょう。
この記事の目次
死後事務サービス(死後事務委任契約)とは
おひとりさまとは「相続人が全くいない」もしくは「相続人がいても頼れる人がいない」状況ではないでしょうか。自分が亡くなったとき、財産については、遺言を書くことで遺言執行者が手続きしますが、財産の配分以外にもいろいろな手続きがあります。こうした手続きは家族や頼れる人がいれば、その人が手続きしますが、おひとりさまの場合は何らかの対策を準備しておく必要があります。
死後事務委任契約とは、「死後の事務」を第三者に「委任する契約」です。人が亡くなると、病院等からの遺体搬送から始まり、役所への死亡届、火葬・葬儀・埋葬の手配、各種届出や遺品整理など多くの手続きが必要になります。頼れる人がいない場合は、生前に第三者と死後事務委任契約を締結しておくことで、親族に代わってその手続きを任せておくことができます。
委任できる主な内容
では、具体的にはどんなことを委任できるのでしょうか。
〇親族や知友人への連絡に関する事務
〇葬儀の手配や主宰(喪主代行も可能)
〇直葬、火葬、納骨、埋葬など生前に決めた埋葬方法での埋葬手配
〇役所での行政手続き(死亡届、健康保険や年金の資格抹消申請等)
〇病院代の精算
〇遺品整理(遺品整理業者への依頼)
〇賃貸契約の解除
〇公共サービス等の名義変更・解約・精算手続き
〇自家用車の処分・名義変更
〇デジタル遺品の処分など
死後事務委任契約は単体で契約するよりも、他のサービスと組み合わせて契約すると、各業務の連携が円滑になり、相続手続き全般がよりスムーズに進むことが期待できます。
例えば、任意後見契約や遺言執行と組み合わせると、生前に任意後見の中で管理していた財産や生活に関する情報が、そのまま遺言執行の財産目録や死後事務の手続きに活用することができます。身元保証契約も組み合わせれば、預り金の精算も円滑です。
死亡後の手続きの流れと死後事務
人が亡くなったときに、どのような手続きが必要になり、死後事務委任契約によって具体的に何をしてもらえるのか、死亡後の時間の流れに沿って見てみましょう。
1.死亡当日
・病院からの退院手続き
病院からの連絡により遺体搬送の手配をして、葬儀社へ遺体を引き渡します。医師から死亡診断書を受領します。病院内にある私物を引き取り、入院費の精算をします。
・死亡届の提出
死亡診断書と用紙がセットになっている死亡届を市区町村役場に提出し、火葬許可を申請する手配をします。
2.死亡から数日内
・火葬や葬儀の代行手続き、知人への死亡通知
役場から受領した火葬許可証は葬儀社を通じて火葬場に渡します。火葬済証付の火葬許可証は埋葬許可証となり、遺骨とともに引き渡されます。生前の希望にあった方法で葬儀を執り行います。葬儀に参列される方には死亡通知の手続きをします。
・埋葬や散骨の代行手続き
生前に定めた方法(永代供養墓・納骨堂・樹木葬・散骨など)により埋葬等を行います。
3.死亡から数週間程度
・健康保険や公的年金の資格抹消申請
国民健康保険証や介護保険証、障害者手帳などを役場の窓口へ返却します。運転免許証やパスポートなども返却する場合もあります。国民年金や厚生年金について、年金受給権者死亡届を年金事務所へ提出します。
・住民税や固定資産税の納付
未払いの住民税や固定資産税、自動車税などがある場合に納付します。
・住居の明け渡しや賃料精算
賃貸住宅が自宅の場合には、賃貸借契約の解約や部屋の明け渡し、家賃や原状回復費用の精算を行います。
・住居内の遺品整理
専門の清掃業者や遺品整理業者を手配し、作業に立ち会って、形見分けするものと廃棄物を選別します。
・公共料金の解約と精算
電気、ガス、水道、電話、携帯電話、ネット契約、新聞、雑誌購読、各種会費、各種サブスクリプションなどの契約を解約し、精算します。
・PCや携帯電話の情報抹消
プライベートな情報やデータなどのデジタル遺品を消去した上で、物理的に廃棄します。
・SNSやメールアカウントの削除
SNSやメールアカウントを削除します。フォロワーや友達への死亡通知を行います。
・生命保険の請求
生命保険会社へ死亡保険金を請求します。
・ペットの引き渡し
生前に依頼しておいた方へペットを引き渡します。引き渡しまでの期間のお世話をします。
・相続財産管理人の選任申立
相続人不存在(相続人が誰もいない)の場合に、家庭裁判所へ相続財産管理人の選任を申立します。
死後事務委任契約を締結する時の注意点
死後事務委任契約の料金体系には、個別の業務を必要に応じて契約するアラカルト方式と、パッケージ化したセットメニュー方式があります。事業者によって方式が異なりますので、ご自身にあった方を選択すると良いでしょう。
手続き費用の支払方法には、預託金方式・保険契約方式・遺産精算方式があり、それぞれ注意が必要です。預託金方式は費用を生前に受任者に預けておきますので、受任者がどのように預託金を管理(信託で分別管理など)するのかチェックすべきです。保険契約方式の場合は、健康状態によって保険に入れるのかの問題や受取人に法人を指定できる保険が限られている問題もあります。遺産精算方式は、相続財産から手続き費用を支払うものですが、遺言書を同時に作成する必要があり、コストがかかります。それぞれ一長一短がありますので、事前相談の時によく確認しましょう。
この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。