
寝室を共にするご家族にいびきや歯ぎしりをする方がいると、睡眠が妨げられてストレスの原因になることがあります。寝不足は体の不調を引き起こすだけでなく、精神面にも影響して学習や仕事のパフォーマンスが落ちるなど日常生活に影響を及ぼします。いびきや歯ぎしりをする方も、その周囲の方も、穏やかな家庭生活を維持するために、お互いにどんな対応ができるかについて、その理解から始めてみましょう。
この記事の目次
1.いびきについて
いびきは、呼吸で空気が鼻やのどを通るとき、その通り道に狭い部分があることにより振動することで発生します。
自分のいびきの音で目が覚めるという方もありますが、多くは他者に指摘されて気付きます。また、翌朝喉の痛みで気付くこともあるようです。
①いびきの原因
・体格
日本人は比較的顎が小さい骨格をしています。近年軟らかい食べ物を食べるようになり咀嚼回数が減ったことで、より顎が小さくなる傾向にあります。
顎が小さくなると舌が収まるスペースが狭くなり、舌が後方に下がります。
肥満、アデノイド(咽頭扁桃)や扁桃肥大でも、喉周辺が狭くなります。
・口呼吸
口呼吸が習慣化している方は、口腔内が乾燥し、筋緊張も緩みやすく舌が後方に下がります。口呼吸になる原因には、鼻づまり(慢性副鼻腔炎や、アレルギー性鼻炎、鼻ポリープ、鼻中隔湾曲症など)があります。
・生活習慣
アルコールや睡眠薬の中には、筋肉を弛緩させる作用があります。
眠りやすくするために寝酒の習慣がある方もいらっしゃるかと思いますが、いびきや低呼吸、無呼吸の原因となり、反って睡眠の質を落としている可能性があります。
喫煙は、鼻やのどの粘膜に炎症や腫れ・むくみを引き起こし、鼻の通りを悪くします。非禁煙者に比べいびきをかく割合は2倍になります。
・その他
男性のほうが女性に比べていびきをかく方が多いようです。
加齢により喉周辺の筋肉が緩みやすくなりますが、女性は閉経後女性ホルモンが減少することで、いびきをかきやすくなります。
②いびきの種類
・単純性いびき症
一般的に知られているいびきのことです。
無呼吸・低呼吸を伴わず、睡眠の分断がないため日中の眠気がありません。
どちらかと言えば、周囲の方が影響を受けやすいです。
多くはストレスや疲労、飲酒、鼻詰まりなど一時的な要因によるものです。
・上気道抵抗症候群
習慣化したいびきです。
無呼吸や低呼吸はありませんが、睡眠中かなり強い力での呼吸が必要なため睡眠の分断を認めます。
しっかり寝ているのに、日中の疲労感や眠気が感じられます。
女性のいびきの多くは、このタイプと言われています。
・睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)
睡眠中に無呼吸・低呼吸があります。
低酸素状態になり睡眠が分断されるため、日中に強い眠気を感じ、日常生活にも影響を及ぼします。
詳しくは【睡眠時無呼吸症候群を予防しよう!】をご参照ください。
2.いびき対策
いびきは、その原因をできるだけ除去することで、ある程度予防が可能です。
①生活習慣を改善する
禁煙、暴飲暴食、アルコールやカフェインの過剰摂取を控えます。
肥満傾向にある方は、適度な運動により体重を減らしましょう。
②姿勢を工夫する
枕などを活用して横向きやうつ伏せで寝ると、舌が後方に下がりにくくなります。
③舌を鍛える
舌を鍛えることで、睡眠中に舌の筋肉が緩むのを軽減することができます。
④予防グッズを活用する
いびき予防のためのグッズは1000~2500円程度で多数あります。
・口呼吸を予防する:テープやマウスピース
・鼻腔を広げる:ノーズシール・ノーズクリップ・ノーズピン
・その他:枕やネックピロー、顎サポーター、リング(小指につけて第二関節の下にあるツボを刺激して鼻呼吸を促す)
いびきや無呼吸を検知すると振動刺激を与えて通常呼吸の時間を増やすようにサポートするネックバンドという商品もあります。
30000円前後と少し高価な物ですが、睡眠時の呼吸モニタリング機能も付いており、専用アプリと連携させることで睡眠状態を把握することができます。
⑤いびきの原因となる症状があれば治療する
鼻づまりや喉の腫れなどいびきの原因となる症状がある場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
3.歯ぎしりについて
睡眠中の歯ぎしりは、多くが眠りはじめに発生します。
通常睡眠中の口腔内は、軽く歯を噛み合わせています。
歯ぎしりは無意識に咬筋(頬の筋肉)に力が入ってしまい、歯と歯を強い力ですり合せることによって生じます。
深い眠りの妨げになるだけでなく歯のすり減りや、筋肉の緊張、頭痛・肩こり、顔の歪みなど様々な症状を引き起こすことがあります。
①歯ぎしりの原因
歯ぎしりの原因は現在も明確になっていませんが、ストレスや歯並びなどの影響があるようです。
ストレスにより全身が緊張した状態が続くと睡眠の質が悪くなり、顔の筋肉も強ばります。
歯並びの乱れは、上下の歯のかみ合わせにズレを生じさせます。
一部の歯に負担がかかると顎関節や筋肉にも影響し、歯ぎしりや食いしばりに繋がる可能性があります。
②歯ぎしりの種類
・歯ぎしり型(グライディングタイプ)
一般的に歯ぎしりといわれるもので、上下の歯を左右に擦り合わせます。
睡眠中に起こるのはこのタイプで、ギリギリという音がします。
起床時の顎の疲れや、歯のすり減りを指摘されて自覚することがあります。
・タッピングタイプ
上下の歯をぶつけ合い、カチカチと音がします。
歯をぶつけ合う強弱には個人差があり、癖になっている方もあります。
・咬みしめ型(クレンチングタイプ)
食いしばりとも言われ、上下の歯を強く咬みしめます。
仕事や学習中だけでなく、趣味やスポーツに没頭するなどで集中しているとき、無意識に上下の歯を食いしばることがあります。
常に緊張が続くと癖になり、睡眠中も噛み締めていることもあります。
・きしませ型(ナッシングタイプ)
歯の特定部分で擦り合わせます。
睡眠中に起こり「キリキリ」「キシキシ」ときしむ音が特徴です。
歯の一部分だけが徐々にすり減っていきます。
4.歯ぎしり対策
長期間に及ぶ歯ぎしりによって、歯の損傷や顎関節のトラブルを引き起こすことがあります。
歯ぎしりを止めるより、歯ぎしりによる影響を予防することが重要です。
①顔のマッサージをする
顎の動きを動かす、頬や側頭筋のマッサージが有効です。
頬筋(えくぼができる位置)、側頭筋(こめかみ)を、方差し指、中指、薬指の指の腹を当てて軽く力を入れ、内から外へ小さく円を描くように揉みほぐします。
②マウスピースを装着する
歯ぎしりや食いしばりによる歯や顎に加わる力を分散させます。
種類が豊富で、1000~3000円程度で購入できます。
③睡眠環境を整える
リラックスできる寝具や、寝室の温度や明るさ、静けさなど環境を整えます。
誰かと一緒に寝る際、寝具は分けることが望ましいです。
④その他
・腹式呼吸や自己暗示法
眠る前に腹式呼吸を行うことで全身のリラックスを促します。
歯ぎしりを止めるため、眠る前に「歯ぎしりしたら目を覚ます」と自己暗示をかけるのも一つです。

5.まとめ
いびきや歯ぎしりは、生活を共にする方への影響が大きいものです。デリケートなことなので、いびきや歯ぎしりがある事実をどう伝えるのかも難しい問題です。また、伝えても「本人に自覚がないため素直に改善のための対応をとってもらえないことがある」との意見もあります。十分な睡眠がとれないストレスは、良好な家族関係にも影響します。お互いに思いやりを持って、どうすれば気持ちよく共に暮らせるのか考えたいものです。
参考資料
無呼吸ラボ https://mukokyu-lab.jp/
テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/index.html
柳沢正史、快眠法の前に今さら聞けない睡眠の超基本、朝日新聞出版、2024
この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。