
介護保険は、介護が必要になった時に頼りになる重要な制度です。
介護保険という言葉は多くの人が聞いたことがあると思いますが、40代・50代の方々にとっては、身近には感じられない制度でしょうか。一方で、親が介護保険を使用している、親の生活が心配で介護保険について知りたいという方も少なくないと思います。
いざ介護保険を使いたいと思った時に慌てないためにも、介護保険について知っておくことは大切です。
今回から、5回にわたって介護保険の基本的な仕組みから、利用方法、サービス内容や介護保険の利用を検討するタイミングなどを分かりやすく解説していきます。
1回目は介護保険の基礎知識について解説します。
この記事の目次
1.日本の高齢化の現状と介護保険の利用状況
日本の社会の高齢化は急速に進行しています。そして、それに伴い介護保険の重要性も増しています。
まずは、具体的なデータをもとに介護保険の日本における意義を説明します。
(1)高齢化の現状
日本の高齢者人口は、急速に増加しており、厚生労働省のデータによると、2020年には65歳以上の人口は約3600万人を超え、全人口の28.6%を占めるようになりました。
(2)介護保険の利用状況
介護保険制度は、こうした高齢化の進展を背景に介護が必要な高齢者への支援と、高齢者の生活の自立を目的にしています。
2022年までに要介護認定を受けている高齢者は約680万人で高齢者人口の19%に達しています。
介護保険サービスの利用者は年々増加しており、特に都市部での増加が著明です。介護保険サービスの利用者数は約590万人(2022年度)で、制度が広く利用されていることが分かります。
介護保険は多くの高齢者にとって必要不可欠な支援となっており、今後の高齢化に伴いその利用者数はさらに増加することが予測されています。
また、要介護認定者数は年齢が高くなるほど増加します。特に85歳以上では、要介護認定率が急増し、約50%以上に達するため、高齢者が介護保険を利用する機会はさらに増えていくと考えられます。
このように、日本の高齢化は進行中であり、介護保険制度は我が国にとって、重要な制度であることが分かります。
2.介護保険とは
介護保険制度は、介護が必要になった時に支援を受けるための行政が行う公的保険制度です。この制度を利用することで、介護保険サービスを利用し、サービスにかかる費用の補助を受けることができます。
高齢者に介護を提供するだけでなく、高齢者の自立を支援するという考えをもとに2000年に創設されました。介護保険の保険者はお住まいの市(区)町村です。
3. 介護保険の加入条件と利用開始のタイミング
介護保険に加入するのは、40歳以上の全ての人です。40歳になると、介護保険に加入することが義務づけられます。これにより、介護が必要になった時に介護保険を利用できます。
社会保険では、保険に加入する人のことを「被保険者」といい、介護保険制度では、被保険者を2つに分けています。
65歳以上の被保険者は「第1号被保険者」、40歳以上~64歳未満の被保険者は「第2号被保険者」とされています。
しかし、介護保険を実際に利用することができるのは、原則として65歳からです。だだし、40~64歳の人でも、介護保険法施行令に定められた16の特定疾病(がんや脳血管疾患など)により介護が必要になった場合、介護保険サービスを利用することができます。
4. 介護保険料の支払いとサービス利用
介護保険料は、40歳以上になると支払いが義務付けられ、保険料額は地域や所得に応じて異なります。(住民票が日本にある場合、海外在住でも支払いが必要。)
65歳以上の第1号被保険者は、年金から天引きされる形で保険料が徴収されます。
介護保険サービスを利用する際、利用者はサービス費用の1割を負担します。前年度の所得によっては、2割もしくは3割の自己負担になる場合もあります。
サービスを利用できる範囲は、介護が必要な程度(要介護度・要支援度)によって異なります。介護度によってサービス利用額の上限が定められており、上限を超えた場合は、全額自己負担となります。
5. 介護保険を利用するための申し込み手続き
介護保険を利用するためには、まず市(区)町村の介護保険担当窓口で要介護認定(または要支援認定)の申請を行う必要があります。
具体的には、以下の手順で進めていきます。
- 申請書の提出
市(区)町村の介護保険担当窓口で申請書を提出します。
この際、第1号被保険者(65歳以上)は介護保険の被保険者証、第2号被保険者(40~64歳)は医療保険の被保険者証を提示する必要があります。
本人以外の代理人が申請することも可能です。市区町村によっては、郵送やオンラインでも申請を受け付けています。
- 認定調査の実施
申請後、認定調査が実施されます。調査員が自宅を訪問し、日常生活の状況や健康状態について詳しく調査します。
- 要介護度の審査と認定結果の通知
認定調査と主治医意見書をもとに、介護保険審査会が審査を行い、結果として要介護度(または要支援度)が決まります。
結果は、市区町村から通知されます。申請から結果が出るまで、約30日かかります。
- ケアプランの作成
要介護認定を受けた後、ケアマネジャーと呼ばれる専門職が、介護サービスをどのように受けるかの計画(ケアプラン)を作成します。
要支援認定の場合は、地域包括支援センターでケアプランを作成してもらいます。
介護度が自立(非該当)となった場合は、介護保険サービスの利用はできません。
- 介護保険サービスの利用開始
ケアプランに基づいて介護サービスを受けることができます。介護サービス事業者と契約を結び、サービスの利用が始まります。
6. 介護保険で利用できるサービス内容と利用方法
介護保険では、以下のようなサービスを利用できます。
- 訪問介護: 介護職員が自宅に訪問し、食事や入浴の介助、掃除、洗濯などの日常生活支援を行います。
- デイサービス: 日帰りで施設に通い、食事や入浴、リハビリなどのサービスを受けることができます。日常生活の支援だけでなく、機能訓練を受けることもできます。
- ショートステイ: 介護が必要な期間、短期的に施設に宿泊し、介護サービスを受けることができます。
- 福祉用具貸与: 車椅子やベッド、リフトなど、自立支援を助けるための福祉用具をレンタルできます。
また、施設に宿泊しながら介護を受ける特別養護老人ホームや、介護療養型医療施設などの施設サービスもあります。
これらのサービスは、要介護度や生活状況に応じて、必要なものを選び利用することができます。
サービスを利用するためには、ケアマネジャーのケアプランが必要です。ケアプランに基づいて、各事業者とそれぞれ契約を結びサービスを利用します。
7. まとめ
介護保険制度は、誰もが年齢とともに直面する可能性のある「介護」といライフイベントに備えるための重要な支えです。
40代・50代のうちは、まだ「自分ごと」として実感しにくいかもしれませんが、親の介護が必要になったときや、自分自身の将来を考えるうえでも、早めに仕組みを理解しておくことは非常に有益です。
介護保険の加入条件や利用できる条件、申請の手続き、実際に受けられるサービス内容などをあらかじめ知っておくことで、「もしものとき」に落ち着いて対応できる準備が整います。
また、介護保険はただ支援を受ける制度ではなく、「自立支援」を目的とした制度であることも理解しておくと、より前向きに制度を活用できるでしょう。
介護保険を“知って備える”ことに、この記事がお役に立てたら幸いです。
次回は、「親の変化を見逃さない!介護保険を意識するサインと対策」というテーマでお届けします。
<参考文献>
- 松川竜也(2024)『介護保険のしくみと使い方&お金がわかる本 介護サービスのトリセツ』株式会社ユーキャン学び出版
- 小林哲也(2024)『図解でわかる介護保険サービス』中央法規出版株式会社
<出典>
- 介護保険制度をめぐる状況について:厚生労働省社会保障審議会介護保険部会(第116回)資料3
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001364995.pdf (2025年4月27日に利用)
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。