睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が一時的に停止する、または浅くなる状態が繰り返される疾患です。
睡眠時無呼吸症候群は日中の極度な眠気や集中力の低下、さらには高血圧や心疾患などのリスクを高めることが知られています。適切な予防策や治療を講じることで、生活の質と健康を向上させることが可能です。
睡眠時無呼吸症候群を予防し、症状を軽減するためには日々の生活習慣を見直すことが重要です。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群の予防と対策のために、日常生活の中で実践できることを紹介します。
日常生活でできる予防と対策
この記事の目次
1. 健康的な体重を維持する
体重を減らすことは睡眠時無呼吸症候群の予防と改善において最も効果的な方法の1つです。肥満は気道を狭くし、無呼吸の発生頻度を高めます。健康的な食事と定期的な運動を心がけることで、体重管理がしやすくなります。
体重はBMI値の目標値(18.5~25)を目指します。BMI=体重㎏÷(身長m)2
しかし、BMIの現在値と目標値の差が大きい場合は、まずは1ヵ月1㎏減量するなど手の届きやすい目標を設定しましょう。無理なく取り組むことが大切です。
体重を減らすための主な方法は食事療法と運動療法です。
(1)食事療法
- 野菜や果物、きのこ類など食物繊維を多く含む食品の摂取を心がける。
- 脂肪分(油、肉類)や糖分(お菓子や砂糖の入った飲み物)の摂取を控える。
- 腹8分目を心がける。特に夕食は軽めにし、就寝直前の食事を避ける。
- 間食は避ける、もしくはナッツやヨーグルト、フルーツなどを少量摂取する。
(2)運動療法
- ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動を行う。(1回30~60分・週4日程度)
- 筋肉量を増やし基礎代謝を上げるために、筋力トレーニングを行う。(週2~3回程度)
- 運動の時間を取ることが難しい場合は、散歩や早歩き、エレベーターを控えて階段を使うなど日常生活の中でこまめに体を動かす。
掃除の際に、雑巾がけをする。電車に乗った際に、座席に座らず立っているだけでもカロリー消費量を増やすことができる。
2. アルコールや喫煙を控える
アルコールは筋肉を弛緩させる作用があり、喉の気道を閉塞させる可能性があります。また内臓脂肪の増加や、口呼吸、鼻づまりとも関連があります。喫煙もまた気道の炎症を引き起こし、睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させる原因となります。
- 飲酒する場合は、就寝の3時間前までに済ませる。
- アルコール摂取量を減らし、週に数日は飲酒を控える「休肝日」を設ける。
- 禁煙外来など禁煙を成功させるためのサポートを活用する。禁煙外来では保険診療で禁煙のための治療を受けることができる。
3. 適切な睡眠姿勢で眠る
仰向けで寝ると舌が喉に落ち込み、気道が塞がれるリスクが高まります。横向きに寝ることで気道の閉塞を防ぎ、呼吸がスムーズになりよい睡眠に繋がります。
以下の方法で適切な姿勢をサポートできます。
- 抱き枕を活用:横向きでの寝姿勢を楽に保つために抱き枕を使用する。
- 自分に合った枕の選択:高さや硬さが適切な枕を選び、頭や首の位置を整えることで気道を確保する。
頭や首がフィットしやすい形の枕や、シートが出し入れできて高さが調節できる枕なども販売されています。枕の専門店で実際に試してみることも良いでしょう。
- 寝る前のリラックス:ストレッチや軽いマッサージを行い、筋肉を緩める。身体が緩んだ状態で眠ることができます。
4. 睡眠環境を整える
出来る限り質の高い睡眠を得るために、睡眠環境の工夫も大切です。
- 就寝・起床時間を一定にする:規則的に寝て、起きることを習慣にする。
仕事の日も休みの日も、同じ時間に起床・就寝できることが理想ですが、睡眠時間を長く確保したい時は、起床時間を遅くするのではなく就寝時間を早めることを心がけます。
- 室温と湿度の管理:寝室の温度を20℃〜22℃に保ち、湿度を50%前後に維持する。
- 照明の調整:就寝時には暗くし、朝は自然光を取り入れるようにする。
眠る前はパソコンやスマートフォンの強い光を見ることは避けましょう。
- 音環境の調整:静かな環境を作るために耳栓や遮音機能のあるカーテンを使用する。
- 寝具の選択:快適なマットレスやシーツを選び、リラックスできる環境を整える。
- 寝室を眠るため専用の部屋とする:寝室を寝る環境として整えるために、活動部屋と分ける。ワンルームで生活している場合は、テレビの向きを変える、カーテンで間仕切りをするなど工夫をします。
- 鼻呼吸を習慣にする:口呼吸は気道がふさがりやすく、いびきをかきやすくなる。
また睡眠中の口の中の乾燥の原因にもなる。日中から鼻呼吸を意識して鼻呼吸の習慣化を目指します。
- 適度な昼寝をする:適度な昼寝は午後の活動の効率を高める。午後1時~3時ごろに20~30分程度の昼寝をおすすめします。
5. 鼻の通りを改善する
鼻づまりがあると呼吸が妨げられ、無呼吸のリスクが高まります。
以下の方法で鼻の通りを良くしましょう。
- 鼻洗浄:生理食塩水を使った鼻洗浄で鼻腔内を清潔に保つ。
- 加湿器の使用:乾燥した環境では加湿器を使い、鼻や喉の乾燥を防ぐ。
- アレルギー対策:アレルギーを引き起こす要因を採血などで特定し、適切な薬物療法や環境改善を行う。
- 就寝前の準備:鼻スプレーや蒸しタオルを利用して鼻腔を開通させる。
6. ストレスを軽減する
ストレスは睡眠の質に影響を与えるため、適切に対処することが重要です。
- リラクゼーション法:ヨガや瞑想、深呼吸法を取り入れてリラックスする時間を作る。
- 趣味の時間を確保:自分が楽しめる活動を日常に取り入れ、気分転換を図る。
- 入浴とストレッチ:入浴(38~40度くらいのぬるめのお湯に10~15分程度浸かる)や軽いストレッチを行い、心と体を落ち着かせる。
- カフェインの制限:午後以降のカフェイン摂取を避けることが、リラックスした夜の時間を過ごすことに繋がる。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は放置すると、日中の生活に悪影響を与えるだけでなく、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。しかし、日常生活での予防策や対策を実施することで、症状を軽減し、健康的な睡眠を取り戻すことができます。体重管理や生活習慣の見直し、適切な睡眠環境の整備がその第一歩です。
質の高い睡眠は、健康的な心身を維持するための基盤です。毎日の生活に取り入やすい方法から始めてみましょう。
次回は、子どもや高齢者にも多い睡眠時無呼吸症候群:年齢別の特徴と対策というテーマで記事をお届けします。
<参考文献>
- 末松義弘(2023)『いびき、無呼吸症候群に殺されない27の方法』中央精版印刷株式会社
- 白濱龍太郎(2019)『こんなに怖い 図解 睡眠時無呼吸症候群』株式会社日東書院本社
- 宮崎泰成、秀松雅之(2018)『いびき!?眠気!?睡眠時無呼吸症を疑ったら 周辺疾患も含めた、検査、診断から治療法までの診療の実践』株式会社羊土社
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。