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看護師がやさしく教える 認知/認知機能②認知症とコミュニケーション

認知症の原因の1つに加齢があります。
不可逆的な変化の為、脳は再生できないとされていました。

しかし最近の研究では、脳は再生されるのではないかという研究結果がでてきています。
少なくとも脳へ刺激を与えるため他者との交流、コミュニケーションは非常に重要です。

本記事ではコミュニケーションにスポットをあてて説明します。

認知/認知機能②認知症とコミュニケーション
この記事の目次

加齢による変化とは?

1. 脳神経細胞と加齢の関連

認知機能低下のメカニズム

脳は加齢とともに重さが軽くなります。
それは、脳の萎縮によるものです。

60歳から比べると90歳では5〜7%程軽くなると言われています。
脳の萎縮は脳神経細胞の減少によるものです。

脳神経細胞は何種類もある神経伝達物質を細胞から細胞へ伝えており、感情・記憶を左右します。

感情は、嬉しい、悲しい、幸せなどですね。

感情に関係する神経伝達物質はセロトニン、ドーパミンなどです。

記憶に関係するのはアセチルコリンになります。

通常は脳神経細胞により神経伝達物質がネットワークのように繋がり、感情や記憶をコントロールされています。
しかし加齢により神経伝達物質が少なくなり、またネットワーク機能も低下し、物忘れや認知症状を起こします。

認知症の原因は主に4つに分かれ、その7割を占めるのがアルツハイマー病になります。

加齢によりアセチルコリン分泌の低下、また特殊なタンパク質(アミロイドβ)の蓄積がアルツハイマー病の原因と言われています。
ちなみに残りの原因は

・血管性認知症(約20%)
・レビー小体型認知症(10%)
・その他(1%程度)

となっています。

すぐには起きない認知症

今まで、神経細胞は成長段階で分裂した神経細胞は増えない、という定説でしたが、一部の研究では海馬(記憶を司る部分)に、神経細胞を新生する能力のある細胞が存在し、高齢者の脳でも神経細胞が新たに生まれている、という研究もされています。

脳では毎日10万個もの神経細胞の脱落が起こっていると言われています。

しかし、脳全体では140億個もの神経細胞があるため、すぐに機能低下が起こるわけではありません。
しかも、残った神経細胞は代償作用で新たな神経細胞の伝達回路を作り出すため、脳の機能は保たれています

加齢が全て認知症状の低下に繋がるとはいいきれないようです。

2. コミュニケーションの必要性

認知/認知機能②認知症とコミュニケーション

自己認識とコミュニケーション

誰しもが認知症状を抑えたい、進行を遅らせたいと思われるでしょう。

上記にあげたように加齢が全て認知症を促進させる理由にはならないということがわかってきています。
その鍵を握るのがコミュニケーションです。

大前提として人は1人で生きていくことはできません。
誰か他人がいて初めて自分というものが認識できます。

世の中にたった1人、あなたしかいないと仮定してみてください。
自分のことが認識できるでしょうか。
生きていけるでしょうか?

このように考えると、人は第3者とコミュニケーションをとらなければ生きていけないことがわかります。

コミュニケーションの重要性

ある心療内科の患者さんでこのような方がおられました。
退職された男性で役職も勤めていた方です。

退職後、趣味がなく、人と話すこともあまりなく、四六時中食事をしている時も、寝る直前までスマートフォンでインターネットをされていたそうです。
数ヶ月後、電子レンジの操作方法を忘れる、オートロックの鍵が開けられなくなど日常生活に影響が出始めました。

そこで病院を受診し検査を行うと、前頭葉の機能低下が起こっていることが判明したのです。

前頭葉は前回の記事「認知機能とは」で書いたように、理性や記憶を司る部分で大脳の30%を占めています。

また国立長寿医療研究センターが行った65歳以上で13,984名を対象に約10年間の追跡調査を行いました。

その結果は、

・配偶者がいる
・同居家族と支援のやりとりがある
・友人との交流がある
・地域のグループ活動に参加している
・何らかの就労をしている

の5つのつながりのある人では、認知症発症リスクが低下することがわかっています。

さらにこれらの5つのつながりのある人は、1つもないか1つだけの人と比べて認知症発症リスクが46%低下することがわかっています。

特定のつながりだけを持つよりも、様々なタイプのつながりがある方が認知症発症リスクを低下させる可能性があるといえます。

日本の社会的背景

戦後、高度経済成長の発展により人口が大都市に集中し、単独世帯が増加してきています。

平成27年度の単独世帯は1841万7922世帯、令和2年度の単独世代は2115万人1世帯と、14.8%増加しており、単独世帯が全体の38%およそ4割を占めています。

このように年々単独世帯は増加傾向にあります。

地域のつながりも希薄となってきており、孤独感を抱える高齢者が増えています。
しかし、別居している家族とコミュニケーションをとる・他者との交流をはかることで、認知症状の進行が緩やかになることは、先に挙げた研究結果からも想像できます。

最近は会話するロボットや操作が簡易的なスマートフォンも普及してきていますが、高齢者の場合新しい事を覚えることが困難であり、機器の取り扱いに難渋している場面を多々みます。
私自身も介護保険外の訪問看護を行なっていますが、時々スマートフォンの操作方法を聞かれることがあります。
例えば、操作方法がわからないため、何週間も前の留守番電話が聞かれないままに残っている、別居のお子様からの着信履歴に気づかないなどということも見受けられ、機器を介すことのない直接のコミュニケーションが必要だと感じる場面が多々あります。

認知/認知機能②認知症とコミュニケーション

3. 非言語コミュニケーションの重要性

人は何を話すかという言葉でのやり取りももちろんですが、なによりも、声のかけかた・口調・接し方がとても重要です。

メイラビアンの法則をご存知でしょうか?

メイラビアンの法則とは、人と人とのコミュニケーションにおいて、言語情報は7%、聴覚情報38%、視覚情報55%のウェイトでその人の印象に影響をするという心理学上の法則のひとつです。

例えば会議などで、はきはきとしっかりとした口調で話をされている人と、おどおどと自信なく小さな声で話をしている人では、同じ内容の説明をしていても、受け取り方が違うのがお分かりでしょうか?

接するご本人様は、話している言葉の内容だけでなく、口調や声のトーン、接し方、相手の表情などから多くの情報を受け取っているのです。

聴覚情報からの接し方

・ご本人様が聞こえる声の大きさ

・聞こえる方の耳へ話しかける

やや低めの声が聞こえやすいと言われている

・難聴があればできるだけ補聴器を装着する

・1つ1つ伝える、多くの内容を一度に伝えない

・間違っていることを訂正しない

視覚情報からの接し方

・穏やかな表情でお話する

・できるだけご本人様が長年愛用しているものを使う(引越しや施設入所時など)

・背後から話しかけず、ご本人様の視野に入るようにする

・できるだけ一緒の時間を共有する

・ご本人様がされていること(食事やお着替えなど)急がさない

・相手に動きを合わせる(一緒に歩いているなら歩調を合わせる、呼吸を合わせる)

私たちは言語的コミュニケーションにスポットをあてて考えてしまいがちですが、非言語コミュニケーションから受け取る印象が大部分を占めています。

例えば、同じ「おはよう」というだけで、印象が違うのは非言語コミュニケーションの部分で印象を受け取っているからです。

4.まとめ

加齢と脳神経細胞の関連、そこからコミュニケーションの大切さをお伝えしました。

次回はコミュニケーション以外の対応方法をお伝えします。


この記事を書いた人

山川さちえ 看護師経験 15 年(訪問看護2年、管理者1年) がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座(2023 年) 誰でもわかる/退院前から介護利用までの 50 のチェックリスト作成

山川さちえ
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」

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