自分のからだの変化に前向きな気持ちで付き合っていくことができればと思い、「加齢による五感の変化とつきあい方」を全5回のシリーズでお届けしています。
第3回目は、加齢による「口」の変化とつきあい方です。
「口」は食べたり飲み込んだり、息をしたりする入口です。
また、会話をする時、笑顔などの表情を作る時も「口」を使っています。これらはどれもできなくなると、生活を送ることに支障をきたします。「口」は、人が生きていくためにとても大切な場所と言えます。
加齢による「口」の変化を知り、人生を豊かに過ごすために労わってみませんか。
この記事の目次
1.加齢による「口」の変化 ~オーラルフレイル ~
「フレイル」という言葉を耳にしませんか。フレイルとは、加齢によって起こるからだの機能低下のことを言います。
舌が回らず滑舌が悪くなったり、むせたり食べこぼしたりするなど、加齢によって起こる口の機能低下を「オーラルフレイル」と言います。
オーラルフレイルとは、歯の喪失や舌を含めた口の周囲の筋肉の衰えが原因で、話がしにくい、飲み込みにくい、むせる、こぼすなど口の機能が虚弱している状態を言います。
これらの状態が続くと、栄養不良や意欲の低下、寝たきり状態を引き起こします。
オーラルフレイルにつながる原因の一つとして、歯周病による歯の喪失があります。
歯を喪失すると、食べ物を噛みづらくなり、味を味わうことも難しくなります。
また、話す時には歯の喪失部分から息が抜けてしまって、発音に影響します。
人間は火を発見し、調理道具や食品加工技術を発達させることで、食べ物を柔らかくする方法を身につけていきました。
その結果、現代の日本人の噛む回数も食事時間も、戦前と比べると2分の1、卑弥呼のいた弥生時代と比べると5分の1も減少しています。
歯を喪失した状態では、柔らかい食べ物を食べてしまいがちになるため、さらに噛む回数は減ってしまいます。そして、口の運動不足が起こり、オーラルフレイルにつながります。
今回、噛むことについて調べていると、1988年に「食物かみごたえ早見表」というものが出されていることを知りました。その後、2020年に「食品別咀嚼回数ランク表」が発表されています。
食品別咀嚼回数ランク表
「オーラルフレイルのセルフチェック表」に挙げられている、さきイカは10gあたり158回、たくあんは10gあたり46回ほど噛む必要があると書かれています。
この回数を見て、10gのさきイカとたくあんだから、これだけ回数が必要なのだろうと思いました。
しかし、普段噛む回数を意識せず、ある程度噛んだら飲み込んでいるのではないか、消化吸収に悪いことをしていたなと反省しました。
厚生労働省は「歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書」(平成21年)で、ひとくち30回以上噛むことを目標に「噛ミング30(カミングサンマル)」というキャッチフレーズを作成しています。
- 唾液の分泌量が増える
→消化吸収を助ける
→虫歯や歯周病の予防につながる
- セロトニンの分泌量が増加し、イライラしにくくなる
→ストレスが緩和されるため、骨代謝が改善する
- ウイルスや細菌の侵入を防ぐIgAが増加し、免疫力が高まる
- 食欲が抑えられ、食べすぎを防ぐ
- 咀嚼筋・顔面筋が鍛えられ、リフトアップできる
- 脳血流が増加し、短期記録や注意力の維持に繋がる
つまり、「よく噛む」ことを意識すると、からだ全体にいろいろな効果があると言えるのではないでしょうか。
2. 「口」と長くつきあうために
(1)口の中を清潔に保つ
加齢や利尿剤など飲み薬の副作用によって、唾液の分泌量が少なくなります。
口の中が乾燥していると、食べたり飲み込んだりしづらくなったり、虫歯や歯周病菌など口腔内細菌が増加したりすることにつながります。
唾液は食べ物を食べやすくするだけではなく、口の中の清潔や健康を保つ働きがあるため、唾液がしっかり分泌される口づくりが大切です。
唾液が分泌しづらい方は、うがいや水分補給をこまめに行い、口を潤しましょう。人工唾液などの口腔保湿剤も市販されていますので、口の中を清潔に保つために、利用してもよいかもしれません。
また食べる時にも、飲み物で口の中を潤す、酢の物を食べる、よく噛んで食べるなどの工夫をすることで唾液が分泌しやすくなります。
そして、「オーラルフレイルのセルフチェック表」にもあるように、「1日2回以上、歯を磨く」、「1年に1回以上、歯医者に行く」ことは、口の中を清潔に保つために大切です。
歯磨きは唾液の分泌を促すとともに、口腔内細菌を減らすことができます。
ある研究では、高齢者施設の入所者に、歯磨き粉をつけずに歯ブラシを使って5~10分間の歯茎を刺激することを30日間続けた結果、むせこみが減少し、会話ができるようになるなど活動性が上昇したという報告もあります。また、唾液の分泌を促すことから、口臭の予防にもなります。
歯のあるなしに関わらず、食後1日3回、難しいようであれば最低夕食後1回は歯磨きをしましょう。
(2)口の運動で若々しさを保つ
病院や高齢者施設では「噛む・飲み込む・話す」の口の機能を維持するために、舌や口の周り、首などの運動を食事の前に取り入れているところが多くあります。
私は、この口の運動を毎朝行っています。
この運動を続けることで、ほうれい線が薄くなったり、顎関節症の痛みを和らげたり、リラックスにつながっていたりしていると感じます。鏡を見ながら行うと効果的なので、朝、顔を洗う時に取り入れてもらえたら、うれしいです。
(1)深呼吸
深呼吸鼻から大きく息を吸って、3つ数えてから、口をすぼめてゆっくりと吐く
(2)首の運動(無理はしないで!)
- 左右に向ける 左→正面→右→正面
- 左右に傾ける 左→正面→右→正面
- 上下を向く 下→正面→上→正面
- 回す 左回り→右回り
(3)肩の運動
- ゆっくり上げて、ストンと下ろす
- 回す(前回し→後ろ回し)
(4)頬のマッサージと運動
- 両手を頬にあて、優しく 気持ちよくゆっくり円を描くようにマッサージ
(5)顔の運動
- 口をとがらせて 「ウー」
- 口を横に広げて 「イー」
- 上を向いて口を横に広げて 「イー」
(6)舌の運動
ゆっくりとしっかり舌を動かすことがポイント!
(7)発音
大きく口を開けて、舌の動きも意識して!
「パ」・「タ」・「カ」・「ラ」・「パンダのたからもの」
3.まとめ
年齢を重ねることで、「口」にも変化が起こります。
風邪は万病のもとと言われます。しかし、口も万病のもと、とも言えるのではないでしょうか。
「噛む・飲み込む・話す」の機能を維持することは、からだの機能低下の予防につながります。
口の中の健康を守って、豊かな生活を送り続けられるとうれしいです。
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この記事を書いた人
ヤマダ カオリ
〈プロフィール〉
親に勧められ、自分が希望する心理学への道をあきらめ、看護学校に入学し、病院に就職する。周りの同期のように看護が楽しいと感じられず、私のしたいこととは違うと思い続け、「看護師は向いていない」と悩みながら3年間 病院で勤務後、退職する。事務職に転職しようとパソコンや簿記を学ぶが、25歳では事務職への転職は難しく、生活のために看護師に復帰する。
復帰後はマンネリ化した機能別業務に、再度「看護師は向いていない」と感じる日々が続いていた頃、関連病院で病床数増床のため看護師を募集していることを知り、心機一転すれば看護の楽しさがわかるのではと思い、異動を希望し、上京する。上京した病院で、自宅で最期を迎えたいと希望する患者や家族への退院指導の難しさと充実感を知り、新人教育担当として新人看護師が日々成長していく姿に励まされ、5S活動やQCサークル活動を通じて業務改善に手ごたえを感じるなど、看護師を続けたいと思えるようになった。それからは、自分の興味の赴くままに学びを深め、特に認知症に関する知識や技術を身につけ、「その人の行動の意味することは何か、生活歴を通して気づく看護の楽しさ」を伝えたいと思うようになった。
現在は、「看護が楽しい」と感じる仲間を増やしたくて、看護学校で看護教員をしている。
〈経歴〉
看護師経験 32年(内分泌代謝・循環器内科病棟、外科混合病棟、高齢者施設で勤務)
看護教員養成研修 修了
認定看護師教育課程(認知症看護) 修了
医療安全管理者養成研修 修了
認定看護管理者制度 ファーストレベル・セカンドレベル教育課程 修了
〈講座〉
認知症ケアに関する講座 多数
未来をつくるkaigoカフェ 「つづけるカフェ」隔月開催(現在休止中)