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看護師がわかりやすく解説!認知症と物忘れ④認知症の予防と物忘れの対策

内閣府の発表によると、65歳以上の認知症患者数は2020年に約602万人、2025年には約675万人と5.4人に1人(有病率18.5%)程度が認知症になると予測されています。
認知症の前段階である軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)と診断をされている人は2012年の時点で400万人を超えています。

軽度認知障害とは、物忘れがあっても一般的な認知機能は問題がなく、日常生活に支障のない状態のことを言います

多くの人にとって身近なものになった認知症には、予防法や進行を遅らせる方法はあるのでしょうか。
また、物忘れがあっても日常生活に支障がないように過ごすための対策法はあるでしょうか。

この記事では認知症の予防と物忘れの対策について説明します。

この記事の目次

1.認知症は予防できるの?

認知症、物忘れ、高齢者

認知症は、脳の異常や損傷によって、日常生活や社会生活に支障をきたす状態です。

ある日突然認知症の状態になるわけではありません。

脳の神経細胞が時間をかけて徐々に変化をしていくことで進行します。

認知症の前段階である軽度認知障害と診断されても、全員が認知症を発症するわけではありませんが、年間で10~15%が認知症に移行すると言われています。

一方で、軽度認知障害の状態から認知機能が回復し、検査で正常と判定されるようになる人もいます。
それは、脳の可塑性(回復力)により、神経細胞が再生するためと言われています。

現時点で、認知症を予防する確実な方法は明らかになっていません。

しかし、軽度認知障害の状態から認知機能が回復するように認知症の進行を遅らせることができます。

つまり、認知症の予防とは、「認知症にならないこと」ではなく、「認知症になることを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」ことを目的に取り組むことであると言えます。

2.認知症の予防

認知症には大きく4つの種類があり、様々な原因があります。
詳しい内容は連載1回目の「認知症の種類と原因」で紹介しています。

脳血管型認知症やアルツハイマー型認知症は、高血圧や高脂血症が原因の1つに挙げられます。
最近では、糖尿病も認知症の原因の1つと指摘されており、生活習慣病は認知症の発症に深く関連していると言えます。

そのため、生活習慣病の予防が、認知症の予防や認知機能低下の進行を遅らせることにもつながると考えられます。

世界保健機関(WHO)は2019年に「認知機能低下および認知症のリスク軽減のためのガイドライン」を公表しています。

今回は、認知症の予防や認知機能低下を遅らせるための方法を、日常の中で取り組みやすい以下の4つのポイントに分けて内容を説明します。

(1)運動

運動、高齢者の運動

適度な運動を継続することが認知症の予防には大切です。

具体的な運動の内容について、65歳以上の人の場合下記が推奨されています。

おすすめの運動量

  • 有酸素運動(ウォーキングなど1回10分以上)を週に合計150分程度
  • 週に2回以上の筋力トレーニング

近所を歩くことから始め、可能であればジョギングやプールでの水中運動などを取り入れてもよいでしょう。

筋力トレーニングは、体の中の大きな筋肉を使うスクワットなどがおすすめです。
最初は少ない回数から始め、20~30回1セットを目安に行います。

また、1つの運動を行うのではなく、運動に他のトレーニングを組み合わせたものがより認知症の予防に有効であるとされています。

たとえば、ウォーキングをしながら、「4の倍数で手をたたく」または、しりとりをしながら運動するなどの組み合わせです。

生活環境や日常に取り入れやすい方法で運動を継続する習慣をつけることは、認知症の予防に繋がります。

(2)食事

認知症予防の食事

バランスのとれた食事や、地中海食が推奨されています。
地中海食とは、オリーブオイルや魚介類、ナッツ類、野菜や果物を多く摂取する地中海沿岸の国の食事形式です。

地中海食に多く含まれる不飽和脂肪酸やポリフェノールなどの抗酸化物質が認知症の発症予防に関連しているのではないかと考えられています。

日本人にとっては、和食を心がけることが、米・野菜・豆類・魚類・肉類をバランスよく摂取することにつながります。

(3)他者との交流

仕事を退職したタイミングや、年齢を重ね活動範囲が狭まると地域社会との関わりが減少し、社会的に孤立しやすくなります。

社会との関わりが疎遠になることで、さらに外出の機会や人と話す機会が減少します。
それに伴い、意欲が低下し認知機能の低下につながることもあります。

そのため、自ら孤立しないように、日頃から自治会や地域のサークルに参加する、趣味のつながりを作るなどアクティブに生活することが大切です。

他者との交流を継続するために心がけること

  • 家族や友人と連絡をとる
  • 遊びに出かける
  • 地域の行事に参加する
  • 趣味をもつ

(4)睡眠

睡眠時間、睡眠

睡眠はWHOのガイドラインには記載されていませんが、認知症との関連が指摘されています。

アルツハイマー型認知症は、脳に発生するアミロイドβ(ベータ)と呼ばれるたんぱく質が排出されず、脳にたまることが原因の1つです。

アミロイドβの排出が最も行われるのは睡眠中です。

そのため良質な睡眠をとることが認知症予防につながると考えられています。

質の良い睡眠を取るためのポイント

  • 規則正しい生活をこころがける
  • 起床時・日中はなるべく太陽光に当たる
  • 適度な運動をする
  • 昼寝をする場合は15時まで、短時間(20~30分)にする
  • 夕方以降のアルコール、ニコチン、カフェインの摂取を控える

3.物忘れの対策

軽度認知障害は物忘れがあっても一般的な認知機能は問題がない状態と言われています。

物忘れで日常生活や仕事に影響が出ないようにするには、受け取った情報を「忘れないように」また「思い出せるように」しておく必要があります。

そのために日常の中でできる3つの対策をこれから説明します。

(1)メモや付箋に書く

ノートとペン

覚えておきたいことはメモや付箋に書き、よく目にする場所に置いておきます。

様々な場所にメモを残すと、どこに書いたのかを忘れてしまうため、使うメモ帳は決めておきます。
メモだと目に入りにくい場合は、付箋に書き一定の場所に貼っておくことも有効です。

(2)物の置き場所を決める

物をどこに置いたのか分からなくなってしまうことを防ぐためには、物の置き場を決めましょう。
置き場を決めて、使ったら定位置に戻すことを習慣にすると物の場所が分からなくなることを防ぐことができます。

通帳や印鑑など重要な物の置き場所を改めて決めたときは、置いたものと置き場所を記したリストを自分が目につきやすい場所に控えておくと安心です。

(3)アラームやリマインド機能を使う

スマホ.のアラーム、目覚まし時計

時間で決まっていることや予定を思い出すためには、目覚まし時計のアラームや携帯電話のスケジュールのリマインド機能(入力された予定をお知らせする通知機能)を使うことも有効です。

家族や周囲の人に協力を依頼し確認をしてもらうなど声をかけてもらうことも1つの方法です。

認知症の症状が進行してからでは、新しい対策を取り入れることが困難な場合があります。
日頃から行い習慣にできるように、取り組むことがおすすめです。

4.まとめ

ハート、思いやり

認知症予防、認知機能低下を遅らせるための方法と物忘れの対策法をお伝えしました。

加齢に伴い、物忘れが増える、認知機能が低下することは特別なことではありません。

しかし、認知機能が低下するスピードや進行の具合は人によって様々です。

同じ予防法や対策をしていても、認知機能低下の症状が進行する方もいれば、変化がない方も回復する方もいます。様々な予防法や対策をお伝えしましたが、認知症の心配をするあまりに生活が楽しめなくなる、ストレスや不安が強くなってしまうことは本末転倒です。

日常の生活を、より過ごしやすくするための工夫として、出来ることを取り入れてみてはいかがでしょうか。

この記事の内容が参考になれば幸いです。

<参考・引用文献>
1)内閣府, 平成29年版高齢者社会白書,高齢者の健康福祉
2)厚生労働省保健局,認知症施策の総合的な推進について,軽度認知障害(MCI)について



この記事を書いた人

清水千夏
<プロフィール>

看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。

現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。

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