内閣府の発表によると、日本の認知症患者は増加の一途をたどり、2025年には700万人を超え、5人に1人が認知症になる可能性があると推計されています。
また、介護保険制度における、要介護または要支援の認定を受けた人は、平成30年度末で約645万人となっており平成21年度末の約469万人より増加しています。
65歳以上の要介護者が、介護が必要になった主な原因で最も多いものは「認知症」です。
認知症の患者数が増えるにつれ、身近な人や家族が認知症と診断される人、認知症の家族の介護を担う人もさらに増えていくと考えられます。
身近な人(主に家族)の物忘れが気になった場合、家族としてどんな風に関わればよいのでしょうか。
この記事では、家族の物忘れなど認知症に関連した症状が気になった時に、できることや接し方、注意点について説明します。
この記事の目次
1. 家族がまずできること
「家族の様子が、最近なんか変だな?」
「物忘れや同じ話をすることが増えた気がする、もしかして認知症なのかな?」
そんな風に思ったとき、家族がまずできることを以下の3つのポイントに分けこれから順番に解説します。
- 日常生活の様子を観察する
- 周囲に相談する
- 医療機関を受診する
(1) 日常生活の様子を観察する
本人の様子の変化に気が付いたときは、さりげなく普段の生活の様子を観察してみましょう。
心配をする気持ちから、「最近物忘れが増えているよね?」「同じことばかり聞いているけど大丈夫?」など直接聞くことは控えます。
本人も、物忘れを気にしていた場合、気持ちを傷つけてしまうことに繋がります。
普段の生活の様子を観察して、気になる点があれば、引き続き1週間ほど観察をしてみましょう。一時的な状況の変化なのかそうでないかが分かります。
生活の様子のチェックポイント
- 冷蔵庫に同じものがたくさん入っている
- 食べ終えたもの(食器・食べ残しなど)が散らかっている
- 病院からもらっている薬がほとんど残っている
- 服などが整理されず散らばっている
- カレンダーがしばらくめくられていない
- 冷暖房の調整、季節外れの恰好をしている
以上のようなことなどがあれば、認知症による生活の変化の可能性があります。
(2) 周囲に相談する
生活状況や、日常生活の様子を観察して、気になることがあればまず周囲に相談してみましょう。
地域にある、相談できる場所
- 1. 地域包括支援センター
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地域包括支援センターは高齢者の公的相談窓口です。
各市町村が設置主体で、中学校区に1つ設置されています。
専門知識を持った職員が、介護・医療・福祉の幅広い相談を受けており、介護保険の申請窓口にもなっています。
介護サービスを使用していない、認知症の診断がついていなくても相談は可能です。直接相談に行くことが難しい場合は、電話での相談も可能です。
- 2. 認知症カフェ
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認知症の人や家族、地域の住民、介護、福祉の専門家など、誰もが気軽に集える場所です。国の認知症施策の一環で2012年から推進されている集いで、地域の医療介護に携わる専門職やボランティアなどが運営をしています。オレンジカフェという名称で開催されていることもあります。
開催場所も様々で、地域のデイサービスや介護施設、病院などが会場になっています。
カフェに行く感覚で利用しながら、専門職へ相談をする、同じ悩みを持つ人と繋がることができます。繋がりを作ることで、認知症の人や家族の孤立を防ぐことも目的としています。
地域の医療機関の評判など、生の声を聞くことができる場所でもあります。
(3) 医療機関を受診する
医療機関を受診する際は、受診する診療科や医療機関を選ぶ必要があります。受診や検査の流れについては、連載3回目「物忘れが気になった時の検査と診断」で詳しく説明をしています。
本人が受診に対して拒否的な場合は無理に連れていくことは避けましょう。家族の関係の悪化につながってしまう可能性があります。病院によっては家族のみで受診できるところもあります。
かかりつけ医にさりげなく受診を勧めてもらうなど、周囲に協力を依頼することも良いでしょう。
2. 接し方のポイント
認知症による家族の行動の変化に、とまどってしまうことや、理解ができないことがあるかもしれません。しかし、認知症による行動には、必ず理由があります。
理由が分かる、理由は分からなくても何か原因があると考えることで、本人に寄り添った対応ができ、対応する家族の精神的な負担の軽減にもつながります。
接し方のポイント
- 本人が感じている不安や戸惑いを受け止める
- 行動の理由・原因を推測する
- 理由・原因を解決・軽減できるような方法を提案する
- 本人の発言や行動を頭ごなしに否定しない
具体的な接し方の例
- 1. 用事の日付や時間について何度も確認をされる
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「少し前に伝えた用事の日付や時間について、何度も質問をされる。」
認知症による記憶障害から、話した内容や聞いた内容を覚えておくことが難しくなり何度も同じことを確認してしまうことがあります。特に、認知症の初期は、本人も物忘れを自覚していて、忘れていくことに不安を感じ、何度も確認をすることがあります。
「予定が分からないと心配になるよね」などと声を掛け、不安の軽減に努めます。予定や約束などは、口頭で伝えるだけでなく、本人が利用しているカレンダーや手帳などに記載をしてもらいます。自分で予定を書いてもらい、分からなくなった場合はそこを確認することを促します。
そのようにすることで、分からなくなったときに確認ができる場所があるという安心感を持ってもらうことができます。
「さっきも同じこと言ったでしょ!」など本人の行動を否定するような発言は、自尊心を傷つけることになるため避けましょう。
- 2. 同じものを何度も買ってきてしまう
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「常備薬や食品など、家に十分にあるのに何度説明をしても、買い物に行くたびに買ってきてしまう」
認知症による記憶障害により、何があって何が足りないのかを覚えておらず、その時に必要だと思うものを購入しています。
例えば、常備薬を買ってくるのであれば、体調が悪いと感じているのかもしれません。
まずは体調を気にかけていることを伝えます。
そして理由を聞き取り、できるだけ原因が解決できるように対応することがポイントです。
買い物に行く先のお店の方に協力を依頼できる場合は、「以前購入されたものが自宅残っていないですか?」など声をかけて、自宅に戻るように促してもらうことも良いでしょう。
3. 認知症介護のポイント
認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)は、治療やその後の生活によって、症状が改善する、症状の進行が緩やかになる可能性があると言われています。
そのため、家族が変化に気が付き、早期に対応することは重要で、家族は大きな役割を担っていると言えます。しかし、その分負担が大きいことも事実です。
実際に、認知症の方の介護をしているご家族が、1人で介護を抱え込み負担を背負うことで、心身の不調を引き起こすことがあります。
また、介護者が介護に時間を費やすことで、今までの人間関係や社会とのつながりが希薄になり孤独になる可能性もあります。
認知症介護のポイントは、介護を1人で担わずに、積極的に周囲に協力を求めることです。
地域包括支援センターや、認知症カフェは介護をする人のための相談窓口でもあります。
身近な人を大切にするのと同じように、介護をする人自身の心と身体も大切にして下さい。
4. まとめ
身近な人(主に家族)の物忘れをはじめとする認知症症状が気になった時に、出来ること、接し方や介護をする上での注意点を説明しました。
身近な人の様子がいつもと違うと感じる、認知症かもしれないと考えると、この先はどうなってしまうのか、記憶がどんどん失われて人が変わってしまうのではないかと心配になることもあるかもしれません。
しかし、認知症は急に発症して急に変化するものではありません。少しずつ症状が変化し一進一退しながら進行していくものです。
家族が、今できることを行っていこうと落ち着いて取り組む姿は、本人にとっても安心に繋がります。
まずは、先のことを心配することよりも周囲の人たちと協力をしながら本人をサポートする。そのように考えてみてはいかがでしょうか。
そのうえで、この記事の具体的な内容が参考になれば幸いです。
1) 内閣府:平成29年版高齢者社会白書,高齢者の健康福祉
2) 内閣府:令和3年版高齢者社会白書,2 健康・福祉
2024年1月16日利用)
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。