認知症とはどこからやってくるのでしょう。どんなふうに始まるのでしょう。
アルツハイマー病や脳血管障害が認知症の原因となることは、一般に知られてきました。
この記事では、より早い段階で、認知症の予防ができるように、認知症の原因となる病気と、直接認知症になる訳ではないが認知症になるリスクを高める病気についてお話します。
この記事の目次
1.認知症とは
日本神経学会、認知症疾患治療ガイドラインによると認知症を「後天的な脳障害により一度獲得した知的機能が、自立した日常生活に支障をきたすほど持続的に衰退した状態」と定義しています。
認知機能とは理解、判断、論理などの知的機能で、脳で行われる高度な機能です。
認知機能が低下すると、考えたり覚えたりすることが苦手になり、時間がわからなくなったり、予定をわすれたり、何かするのに手順がおぼえられなくなるので、生活が難しくなります。
2.軽度認知症とは
軽度認知症、もしくはMCI(mild cognitive impairment)は正常でもない、認知症でもない状態を指します。
認知機能の低下があっても、自力で日常生活ができていると軽度認知症と診断されます。
認知症は問診や複数の検査をして診断されるので、物忘れがあるからといってもそれだけで認知症と診断される訳ではありません。神経心理検査は認知症判定のための検査の一つです。
いくつか種類があり、MMSEや長谷川式スケールが主に使用されています。
MMSEで27点以下、長谷川式スケールで20点以下が認知症疑いになります。
軽度認知症は認知症に移行していきますが、移行する前に対策をとることで、認知症を防いだり、遅らせたりすることができると分かってきました。
3.軽度認知症の種類
1)進行する場合
物忘れ外来を受診する人のうち、軽度認知症から認知症へ進行するケースは全体の約70%を占めます。主な原因疾患はアルツハイマー病、前頭側頭型認知症、神経変性疾患、血管性認知症です。軽度認知症は症状により2種類に分けられます。
健忘型 (けんぼうがた)
物忘れが主な症状です。アルツハイマー病に進行することが多いです。
非健忘型(ひけんぼうがた)
物忘れよりも、話したいのに言葉が出ない、やりたい事があるのに方法がわからなくなってしまったという症状が中心です。
前頭側頭型認知症やレビー小体病が原因となる場合が多いです。
2)進行しない場合
物忘れ外来を受診する人のうち、軽度認知症から認知症へ進行しないケースは、全体の約30%を占めます。
脳の周囲にある白質の変化やごく小さな梗塞を有する血管障害、薬物の影響による認知症です。
4.認知症の原因となる病気とリスクを高める病気
1)認知症の原因となる病気
アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体病の3つで軽度認知症全体の90%を占めています。
アルツハイマー病
アミロイドβというたんぱく質が脳に蓄積し、脳細胞にダメージを与え、脳が縮んでいく病気です。新薬などの開発も進み、徐々に研究が進んでいます。
レビー小体病
脳にレビー小体と呼ばれるたんぱく質が蓄積することによっておこる病気です。大脳皮質(知覚や思考を管理するところ)に蓄積するとレビー小体病型認知症になります。
脳血管性認知症
脳の血管が障害されて起こります。
脳梗塞は脳の血管が詰まり、脳の一部に血液が流れなくなります。そして、血液が流れなくなった部分の脳の働きが悪くなり、認知症の症状が出現します。
脳出血は脳の血管が破れて出血し、周囲の脳細胞が溜まった血液により圧迫され、認知症の症状が現れます。障害を受けた部位により症状が異なります。
2)認知症になるリスクを高める病気
認知症は生活習慣の影響を強く受けることが、近年の研究で分かってきました。
認知症によりなりやすいのは、次の5つの病気です。
これらの病気をコントロールすることにより、認知症のリスクを下げることが分かってきました。
糖尿病
(1)脳血管性認知症になりやすい
糖尿病は動脈硬化を促進、小さな血液の塊をつくり脳の血のめぐりを悪化させ,脳血管性認知症の原因となります。血糖値が高いと脳細胞は酸化しやすくなり,働きが悪くなります。徐々に脳自体が縮んでいき、脳が老化します。それが 認知症につながっていきます。
(2)アルツハイマー病になりやすい
糖尿病になると、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなります。そのため、血糖値を下げるのに必要なインスリンの分泌量が増えます。血糖値が下がると役割を終えたインスリンは分解されます。
インスリンの分解をするのはインスリン分解酵素です。この酵素はアミロイドβを分解する役割も持っています。インスリンが増えると、インスリンを分解するために酵素が使われて、分解されずに残るアミロイドβが増えるようになっていきます。そのため、糖尿病患者の脳にはアミロイドβが溜まっていき、認知症になりやすくなるのです。
高血圧
高血圧になると血管に常に負担がかかるため、血管の内側が傷つきやすくなります。傷つきやすくなると血管の柔軟性が失われ、動脈硬化を起こしやすくなります。その結果、血管が詰まったり破れやすくなったりします。脳の血管がつまると脳梗塞に、破れてしまうとクモ膜下出血になります。高血圧は脳の結果が壊れる危険が高いので、脳血管性認知症になる危険性が高いと言えるのです。
肥満
肥満の方は、血管性認知症のリスクが正常体重の人の5倍、アルツハイマー型認知症は3倍のあると言われています。肥満は運動不足や糖尿病などにもなりやすいです。
(1)脳の老化を早める
脳の白質という部分は記憶力や計算、集中力、暗記力、新しい事態に対応する能力に関係しています。肥満の方は正常体重の人に比べ、脳の白質の減少が10年分早く進行するという研究結果が報告されています。
(2)酸素量の低下
肥満が原因で睡眠時無呼吸症候群になり、睡眠時の血中酸素量低下によって睡眠不足になり、脳は低酸素状態になり、酸素を取り込もうとして高血圧になります。
脳血管を傷つける危険性が高まります。
(3)脳の炎症が起きやすくなる
食欲は脳の視床というところで調整されています。
脂肪をとりすぎると、視床が炎症を起こしやすくなり、脳にダメージが起きやすくなります。
また食生活の乱れは、腸に炎症を引き起こしやすくなります。腸は人間の体に悪いものを吸収しないように防ぐ役割も果たしているので、腸に炎症が起きると、本来吸収すべきでない物質も体内に入ってしまいます。
その物質は血液を通じて脳に到達し、脳の炎症を引き起こし、脳細胞を老化させます。
脳卒中
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって、脳が障害を受ける病気です。脳卒中は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、破れる「脳出血」や「くも膜下出血」があります。脳の血管のトラブルで起こる認知症を脳血管性認知症と言います。脳血管性認知症は認知症全体の約20%を占め、男性の方が多く発症しています。
脂質異常症
脂質異常症とは、血液中に存在する脂質の量が偏った状態のことです。コレステロールは人間の体内にある脂質の一種で、いくつか種類がありますがどれも人の体に必要な物です。しかしコレステロールが増えすぎたり、少なすぎたりすると問題が起きます。それが脂質異常症です。自覚症状はなく日常生活を送る上での不都合もあまりないですが、そのままにしておくと、脂質が血管壁にたまって動脈硬化を引き起こします。
5.認知症かもしれないと思ったら
新しい事を覚えられない、知っている場所で迷子になる、段取りや手順を考えられなくて生活に支障が出るような場合は、まずは医師に相談してみましょう。かかりつけ医が無い場合は、近くの認知症外来を受診すると良いでしょう。認知症と関係が深い持病がある方は、医師と相談しましょう。
まとめ
今回は生活の中に認知症の原因が潜んでいるということをお伝えしました。これは決して悪いことばかりではありません。気をつけて生活すれば、より良い将来を送ることができるという事なのです。軽度認知症に気が付いたら、生活環境を整え、対策をとることができます。それは、自分と家族や親しい人を守る事なのです。
参考文献
「認知症の疫学調査:久山町研究」 清原 裕
「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
「肥満症に伴う認知機能障害 ─脳科学基礎研究の動向」琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)益崎裕章,岡本士毅
次の記事
看護師が解説!軽度認知症②記憶と言葉からみる認知症
認知症の初期に、新しいことが覚えられない、言葉が出にくくなるといった症状があるのをご存じの方は多いのではないでしょうか。 しかし物忘れや言葉がでにくいことは、…
この記事を書いた人
内田好音
<プロフィール>
介護福祉士5年、看護師9年。
整形外科急性期、回復期病棟、療養病棟を経験。
認知症高齢者や障害児者のケアを通じ、生活に根差したケアの大切さを知る。
自分も癌になった経験から心と体両方のケアを行いたいと思っている。
現在は認知症ケアと障害児の生活援助についての活動を行っている。