高齢者が急に腹痛を訴えた場合、頭痛や胸痛と違って、直接生命に関わることはないと思われるかも知れません。しかし、腹痛は放っておくと重篤になる病気もあるため、救急車を呼ぶか呼ばないかの判断はとても重要です。
腹痛をきたす病気の種類はとても多くて戸惑うこともありますが、判断の目安を知っておくと、安心できますね。
そこで今回は、緊急性の高い3つの痛みとその症状、予測する病気についてお伝えします。
この記事の目次
1.緊急性の高い痛みについて
一言で腹痛といっても急に起きた痛みなのか、持続しているのか、間欠的なのかなど、性質に違いがあります。また、キリキリと痛むのか、あるいは刺すような痛みなのか、痛みの種類も様々です。
その中でも緊急性の高いのはこの3つの痛みです。
- 締め付けによる痛み
- 循環障害による痛み
- 破裂による痛み
これらの痛みは、急激に状態が悪化する場合もありますので緊急性があると判断します。高齢者に代表される疾患とともにそれぞれ説明します。
①締め付けによる痛み
締め付けによる痛みを絞扼痛(こうやくつう)といいます。
このようなキューッとした痛みが出現した場合は、消化管の粘膜が炎症を起こしている場合が考えられます。
- 大腸憩室炎
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憩室(けいしつ)とは、大腸の壁が外に飛び出して袋状になったものです。
そのままだと問題はないのですが、袋状に外に飛び出しているので便が溜まりやすく、そこに細菌が繁殖して炎症を起こしやすくなります。
炎症が起きると粘膜の収縮と弛緩が適切に働かずに締め付けられるような痛みが出現します。
強い痛み、発熱や血便、下痢の症状があれば大腸憩室炎や大腸憩室出血の可能性があります。
炎症が強い場合は腸に穴が開く腸管穿孔を起こし、感染して膿がたまることもあります。
- 急性膵炎
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激しい腹痛と吐き気が特徴で発熱を伴います。
男性に多く、過度の飲酒や胆石をきっかけに発症し、重症になると呼吸不全、ショック症状、多臓器障害を引き起こします。痛みの部位は移動するため、腹部以外にも背中が痛くなる場合があります。特に高齢者は、嘔吐や下痢の症状によって体内の水分が失われ、致命率が高くなります。
②循環障害での痛み
臓器や組織に必要量の血液が流れない状態を虚血(きょけつ)と言います。
大腸への血液循環が悪くなると循環が滞り血管が圧迫され、急に強い腹痛が起こります。
循環障害によって起こる腹痛で多いのは次の二つです。
- 虚血性大腸炎
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大腸への血流が滞ることで発症します。
動脈硬化、高血圧症、糖尿病などの生活習慣病がある高齢者は発症しやすくなります。
虚血性腸炎は、何の前触れもなく急に強い腹痛が起こります。多くは左下腹部に痛みが集中し冷や汗や吐き気、嘔吐をともないます。その後、下痢が数回あり、少しずつ血の混じった下痢に移行します。
- 腸閉塞
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腸の内容物が肛門に行くまでに通過障害が起きる状態です。
もともとある病気や腸の癒着が原因になりやすいです。
激しい腹痛、嘔気や嘔吐腹部の張りが主な症状です。
③破裂による痛み
臓器に血行不良があると腸管は壊死し、腹膜炎やショック症状を併発します。
臓器が破裂する前はほとんどが無症状の場合が多いのですが、いったん破裂すると激しい痛みを生じて内部で出血が起こります。ショック症状で急激に状態が悪化します。
- 腹部大動脈破裂
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全身に血液を送る大動脈の一部が、動脈硬化などの理由でこぶのように膨らみ、治療しないまま放置することで破裂してしまう病気です。
大動脈が破裂すると死亡率が高くなり、すぐに治療を開始する必要があります。
破裂すると血圧が低下し、ショック症状になります。
- 急性腹膜炎
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腹膜とは肝臓や胃、腸管など、臓器を覆っている膜です。
この腹膜で囲まれた空間「腹腔」に炎症が生じて様々な症状が出たものを急性腹膜炎と言います。
胆のう炎や急性膵炎など腹膜に囲まれた臓器の炎症が腹膜に移行して生じるものです。
38℃以上の発熱と腹痛、嘔吐の症状があり、時間が経つと腸の運動が停止して腸閉塞、敗血症で死に至ることもあります。
- 急性虫垂炎
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虫垂の内部に細菌が感染して炎症を起こしたのが急性虫垂炎です。
特に高齢者は虫垂の壁が脆弱や動脈硬化などによる血流の減少や免疫力の低下などにより、重症化しやすくなります。
これまでの3つの緊急性のある痛みは、いずれも共通する症状があります。
下の図を参考にしてもう一度確認してみましょう。
急な腹痛があり、次第に強くなる、痛みに耐えられずに冷や汗をかき、嘔吐や下痢が出現し、熱発している症状は、緊急性があると判断します。このような場合は痛みの場所にとらわれず、すぐに救急車を呼びましょう。
2.緊急性の低い痛み
①便秘による腹痛
高齢者の腹痛で忘れてはならないのが便秘による腹痛です。
緊急性は低いのですが、腸管の機能が低下している高齢者は便秘になりやすく、とても頻繁に訴えがある腹痛です。
高齢者は下剤を使用している方も多いですが、認知症により排便の有無がわかりにくいと、便秘に気づきにくいこともあります。
いつもより元気がないと思ったら実は1週間以上も排便がなかった、ということも在宅介護ではよくあることです。
便秘になると現れる症状
- 下腹部の張り、痛み
- 食欲低下
- 吐き気や嘔吐
- イライラ、寝ていることが多くなる
数日の便秘であれば腹部を温めれば腸の動きが活発になり、便意をもよおすこともありますが、頑固な便秘は放っておくと、腸が詰り、腸閉塞や大腸がんのリスクが高くなってしまいます。
市販の浣腸で難しい場合は、受診をして症状の悪化を予防するようにしましょう。
②食中毒による腹痛
病原大腸菌による感染症は全く症状のない人から急な強い腹痛、嘔吐や下痢の症状を発症する人まで様々ですが、体力の低下した高齢者は特に重症化しやすいことがあります。
緊急性が低いとはいえ、激しい腹痛や水様便が続くと、脱水症状や意識障害に移行する場合があります。
そのような時は、点滴治療の必要性があるため受診をしましょう。
3.まとめ
腹痛と一言でいっても範囲が広いうえに痛みの症状も様々で、緊急性の判断に戸惑うこともあるかもしれません。しかし、緊急性がある腹痛は強い痛み、嘔吐や下痢を伴います。
この痛みは「炎症によって締め付けられている」それによって「循環されない」それを放置すると「破裂する」という経過をたどります。
このような経過をたどる前に、緊急性の判断が出来ると手遅れにならずに済みますね。
次回は、「誤嚥性肺炎を防ぐためにできること」についてお伝えします。
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この記事を書いた人
福井三賀子
<プロフィール>
小児内科、外科、整形外科の外来と病棟勤務で看護の基本を学ぶ。
同病院の夜間救急ではアルコール中毒、火傷、外傷性ショックや吐血、脳疾患など多くの救急医療を経験。
結婚後は介護保険サービス事業所で勤務しながらケアマネジャーの資格を取得。6年間在宅支援をするなかで、利用者の緊急事態に家族の立ち場で関わる。
在宅支援をしている時に、介護者である娘や妻の介護によるストレスが社会的な問題に発展していることに気づき、心の仕組みついて学びを深めると同時に更年期の女性について探求を始める。
現在は施設看護師として入居者の健康維持に努めながら50代女性対象の執筆活動やお話会、講座を開講している。
<経歴>
看護師経験20年。
外来、病棟(小児・内科・外科・整形・救急外来)
介護保険(デイサービス・訪問入浴・訪問看護・老人保健施設・特別養護老人ホーム)
介護支援専門員6年
<資格>
看護師/NLPマスタープロテクショナー/プロコミニュケーター
<活動>
講座「更年期は黄金期」
ブログ「幸せな更年期への道のり」
メルマガ「50代女性が自律するためのブログ」
スタンドFMラジオ「幸せな更年期への道のり」