休憩や睡眠をとっても、とれない疲れがあります。
頑張ろうとしても、思うように体が動かないこともあります。
そのような症状が続く時は慢性疲労症候群という病気かもしれません。
この記事では、慢性疲労症候群とはどのよう病気なのか、どのような治療方法があるのか、生活に困ったときはどうしたら良いのかをご説明します。
この記事の目次
はじめに
慢性疲労症候群は、1988年にアメリカで報告された病気です。
厚生労働省研究班の調査では、日本における人口の0.1~0.3%(8万~24万人)の患者さんがいるといわれています。慢性疲労症候群の原因はストレスが関係していることが明らかになっています。
しっかり休んでいるのに疲れがとれず、常に体の怠さを感じている方や、周りからさぼっていると思われているのではないか、と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私たちは人間関係や仕事上で精神的に、あるいは残業などの過重労働で身体的にストレスを感じ、常に疲労がたまりやすい生活をしています。
慢性疲労症候群という新しい病気について知り、必要な治療や支援を受け、無理のない生活を送る必要があります。
慢性疲労症候群とはどのような病気なのか
慢性疲労症候群とは何か
疲労には生理的な疲労と病的な疲労があります。
生理的な疲労とは十分な睡眠や2~3日の休息で回復する疲労です。
病的な疲労は、いくら体を休めても回復しません。
休んでいるのに疲労が1週間以上続くようなら要注意です。
病的な疲労にはがんや貧血、甲状腺などのホルモンバランスの異常がかくれている可能性があります。
まず内科を受診し、必要に応じて婦人科や心療内科、ストレス外来を受診してください。
一方、内科などで検査をしても問題がないのに、日常生活に支障をきたすほどの疲れが続く病気も存在します。
慢性疲労症候群は、長引く強い疲労感や頭痛、のどの痛み、筋肉痛、関節痛、不眠や過眠、思考力・集中力の低下、微熱、首のリンパ節の腫れ、筋力低下などの症状が6か月以上続く状態のことを指します。
インフルエンザに感染した時のような、日常生活に支障をきたすほどの深刻な症状が特徴です。
慢性疲労症候群の原因
慢性疲労症候群は、ストレスによる免疫系の異常により、脳の働きに変化が生じて起こる病気です。
慢性疲労症候群の人の、自律神経の働きを調べると、安静にしている時でも交感神経(活動する時に働く神経)が、副交感神経の数倍活性化しています。寝ている時間も副交感神経(休憩やリラックスする時に働く神経)の活動が高まらないので、睡眠障害が生じやすく疲れがとれません。
体内に常在しているウイルスが活発化してしまうことも疲れが慢性化する原因です。
疲労が続いた時に唇にヘルペスができやすいのも、体内の常在ウイルスの活性化によるものです。
疲れが回復すれば自然に治ることがほとんどです。
ところが、慢性疲労症候群になると、体を休めても活性化したウイルスがなかなか減りません。
そこで体の免疫機能はインターフェロンといった免疫物質を出してウイルスを抑えようとします、
しかし、免疫物質は脳に悪影響を及ぼす作用があり、神経系や内分泌系にダメージを与えてしまう可能性があります。
すると、幸福感を生み出すドーパミンや、やる気や痛みに関係するセロトニンの代謝が障害され、疲労感、強い抑うつや不安感、体中の痛みなどが生じやすくなります。
慢性疲労症候群は、治療をすれば以前のような元気を取り戻すことが可能です。
体を動かせないような深刻な疲れが長引くようなら慢性疲労外来のような専門科の受診をおすすめします。
3)女性に多い慢性疲労症候群
日本医師会では、慢性疲労症候群の患者さんのうち、20~50歳代の働き盛りの世代が多く、2対1の割合で女性に多い病気だと発表しています。
慢性疲労症候群のきっかけになりやすいのは、ストレスの蓄積です。
働き盛りの世代や女性に慢性疲労症候群が多いのは、仕事や家事、育児などのストレスを受けやすいことが理由ではないかと考えられます。
4)慢性疲労症候群の診断基準
重度の慢性疲労を訴える人は、日常生活にも支障をきたすようになります。
そのような疲労感が半年以上続き、その疲労感がほかの疾患によるものではなく、以下の基準を条件通り満たすと、慢性疲労症候群と診断されます。
大基準
1.生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも 6 カ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す (50%以上の期間認められる)こと。
2.病歴、身体所見、検査所見で別表(省略)に挙げられている疾患を除外する。
小基準
ア)症状基準
以下の症状が6か月以上にわたり持続または繰り返し生じること
1.徴熱(腋窩温 37.2~38.3℃)ないし悪寒
2.咽頭痛
3.頸部あるいは腋窩リンパ節の腫張
4.原因不明の筋力低下
5.筋肉痛ないし不快感
6.軽い労作後に 24 時間以上続く全身倦怠感
7.頭痛
8.腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛
9.精神神経症状(以下のうちいずれ1つ以上)羞明(ひどくまぶしいこと)、一過性暗点、物忘れ、易刺激性、混乱、思考力低下、集中力低下、抑うつ
10.睡眠障害(過眠,不眠)
11.発症時、主たる症状が数時間から数日の間に出現
イ)身体所見基準
医師が1カ月以上の間隔をおいて 2 回以上確認した場合
1.微熱
2.非浸出性咽頭炎
3.リンパ節の腫大(頸部,腋窩リンパ節)
◎大基準2項目に加えて、小基準の「症状基準 8 項目」以上か、「症状基準6項目+身体基準2項目」以上を満たすと「慢性疲労症候群(CSF)と診断する。
◎大基準2項目に該当するが、小基準で診断基準を満たさない例は「CSF の疑いあり」とする。
◎上記基準で診断されたCFS(疑診は除く)のうち、感染症が確診された後、それに続発して症状が発現した例は「感染後CFS」と呼ぶ。
※CFS:chronic fatigue syndrome
【参考】厚生労働省(旧厚生省)「慢性疲労症候群診断基準」
慢性疲労症候群の受診と検査
1)何科に行けばいいのか
慢性疲労症候群は、一般的な検査では異常が見つかりにくい病気です。
比較的新しい病気であるため、専門医がまだ少ないのが現状です。半年以上、該当する症状が続いているなら専門外来へ受診しましょう。
疑わしいけれど、判断がつかない場合は、まず内科で検査を受けましょう。
慢性疲労症候群の情報は、大阪市立大学医学部付属病院ホームページでも探すことができます。
2)専門外来ではどんなことをするのか
専門外来での検査は、まず疲れると増加する活性酸素量を調べます。
また自律神経のバランスを数値化するために心電図検査を行い、アクティグラフという機械で睡眠の状態を検査します。
さらに慢性疲労症候群と関わりが深いといわれているヒトヘルペス6型ウイルスの量を唾液から測る検査もしています。
現段階ではこうした検査は保険医療で認められていないため自費になりますが、客観的な診断が可能です。
慢性疲労症候群の治療方法
現時点では慢性疲労症候群の治療は確立されていませんが、以下のような活性酸素を抑え免疫力を高める治療法があります。
抑うつや不安などの精神症状がある場合は、カウンセリングを並行して行います。
ビタミンCの大量摂取
疲労を訴える人は酸化ストレスが高くなっていることがわかっています。その活性酸素を抑えるにはビタミンC(アスコルビン酸)を大量に摂取します。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は免疫力を高め、思考力や集中力の回復にも効果的な漢方薬です。
ビタミンB₁
症状によっては、肉体疲労の回復にも有効なビタミンB₁を摂取することがあります。
抗うつ薬
不安感、抑うつ感が強い場合には、脳内のセロトニンの代謝を改善する抗うつ薬SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を一緒に服用すると効果的です。
慢性疲労症候群が進行した時に利用できる社会資源
慢性疲労症候群が進行すると、仕事をすることが困難になることや、身の回りのことができず介助が必要になる場合があります。
病気や生活の相談、心のケアはどこに相談したら良いのか。
働けなくなった時や日常生活の援助が必要な時はどうしたら良いのか。
困っている内容に合わせた相談先や受けられるサポートがありますので、下記をご参照ください。
・「ME/CFS療養生活の手引き」
・「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 情報サイト」
慢性疲労症候群の予防
慢性疲労症候群の予防は、ストレスをためないことや免疫力を低下させないような生活を心がけることです。
・夜更かしや多量の飲酒
・長時間のパソコン操作
・紫外線を長時間浴びる
・風邪を放置する
上記のようなことでもストレスはたまります。
こうしたストレスをできるだけ避けることが大切です。
適度な運動はリフレッシュ効果があり免疫力を高めます。
散歩やウォーキング、プールでの水中歩行など、気分転換をかねた軽い運動を習慣にしましょう。
食生活の偏りが慢性疲労の一因となっていることがあります。
一般に疲労しやすい人は、慢性的にビタミンやミネラルが不足している傾向にあります。
疲れがたまっていると感じたら、ニンニクやニラ、玉葱、生姜、イチゴ、豚肉、納豆などをバランスよくとるようにしましょう。
おわりに
慢性疲労症候群という病気はまだ知らない方も多いのではないでしょうか。
自分の思うように体が動かずに辛い思いをされている方や、風邪のような症状が続いている方は一度専門医に相談することをお勧めします。
疲労は、体の異常や変調を知らせてくれるアラームです。
疲労を感じた時は休み、疲労をためないようにストレスを避け、規則正しい生活を送りましょう。
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この記事を書いた人
清水明日香
プロフィール
看護師経験23年。総合病院(消化器外科・内科、整形外科)、リハビリテーション病院(地域包括支援病棟)、老人施設で勤務。
現在は精神科訪問看護師として月に約100件の訪問をしている。
精神科訪問看護では、薬物療法などの治療が継続して受けられるようにする支援、ご利用者様やご家族の悩みや困りごとを一緒に明確にし、解決する方法を考え、行動できるように支援している。
ウェルネスナースとして女性が健康でいるための情報を発信している。
執筆・講座
「いつも疲れを感じている40代女性がセルフケアを身につけ元気を取り戻すためのお話会」/ウェルネス講座
「自分で心とからだを元気にするためのブログ」/note