2021年7月3日(土)静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)という場所で土石流災害が発生し、2年半以上が過ぎました。
月日が過ぎても、特に大雨の土曜日は、あの日の事が鮮明に思いだされ、気持ちが落ち着かなくなることもあります。
災害から数か月は、「デキル事を精一杯行う」「助かった命。人を助けるために活動する」という思いで、自分たちの仕事や地域での支援活動を行うのに注力してきました。
この間、心と体と脳が一体化している感覚がなく、いろんな思いやたまってくる疲労にも蓋をして、1日1日を過ごしていたように思います。でも、その間、私は自分のブログ等で災害後の出来事をなるべく書いて記録に残していました。
令和6年元旦に発生した能登半島地震の災害のニュースで「災害から〇日目です」という言葉を聞くと、自分たちは〇日目はなにをしていたか、仕事はできていたか、どんな活動をしていたか、心と体の状態はどうだったかなど過去の記事を読み、振り返りをすることで防災、減災ついて改めて考えています。
第3回目では、熱海土石流災害 私の経験③中編として、夫婦で熱海に移住し介護タクシー事業を運営している看護師として、熱海土石流災害発災翌日の出来事、自分たちの状況や活動、気持ちの変化などをお伝えします。
この記事の目次
1.熱海土石流災害を振り返る【発災翌日:7月4日(日)】
(1)午前中の出来事、活動
災害当日の夜はテレビなどの映像や情報を見て、関わっている利用者様や避難誘導した時に留守だった住民、知人などの安否や、映像に映っていた土石流に押し流されていた弊社の車両がどうなったか、事務所には戻れるのか、これからどうなるのかといろいろ考えて、ほとんど眠れませんでした。
また、主要道路3本が通行止めとなり自宅にもしばらく戻れないこともわかりました。
朝、宿を出て、事務所近隣の方々が避難された市役所隣にある福祉センターに行き、体調不良者がいないかなど行政のかたと情報共有しました。
この時に午後から市役所近くの大規模ホテルを2次避難場所にし、各避難所から避難した方々の移動が予定されていることを知りました。
事務所の様子を見に行くと危険警戒区域となっていました。
避難所や病院からの搬送があるかもしれないと警察に許可をもらい、搬送に必要なストレッチャーやリクライニング車椅子をガレージから搬出することができました。
この時にガレージの水道、電気が使えることを確認。
前夜から熱海入りしてくださった自衛隊や他県からの消防、警察、海上保安庁の方々が山から海までを捜索・救出活動してくださっており、泥だらけになられていた各隊員の方々に「水道を使ってください」と伝えました。
搬出したストレッチャー等は行政に相談し、一時的に福祉センターに置かせていただくことができました。
(2)午後の出来事、活動
福祉センターに避難されていたかたの中には、歩行困難者もおられ、車椅子のまま弊社の車両で2次避難所になったホテルまで移送のお手伝いをしました。
2次避難所となったホテルには熱海医師会の医師、看護師、薬剤師、日赤の医療チーム、DMATなどがすでに到着し、移動してきた被災者の体調の聴き取りや薬の処方をされ、多くの被災者のかたが安心できたことと思います。
また、担当の利用者様を心配して多くのケアマネジャーも来きており、安否確認をされていました。
ホテルには続々と、各避難所から被災者を乗せたバスが到着。
私は自分たちが避難誘導したエリアの事しか知らなかったので、この時は「こんなに避難した人がいた」と驚きました。
後になって各避難所におられたかたや駆け付けた行政のかたの話を聞くとコロナ禍ということもあり、休館していた各避難所に近い場所にあるホテルが「〇部屋確保できます」と協力くださり発災当日に避難所からホテルに移動されたかたもいたとのことでした。
各避難所からホテルに移動されてきたかたの中には高齢者施設のかたもいて、乗ってきたバスには2人掛かりで抱え上げて降ろすことが必要な高齢者が多くいました。
同行されている介護職員のかたも前日から避難所で介護をしていたため疲労されており、また、ホテル避難所には一気に多くの人が到着したため行政も混乱していたと思います。
私たちは手分けしてバスの中から高齢者を抱えて降ろしたりホテルから車椅子をお借りし車椅子に移乗して振り分けられた部屋に移動のお手伝いをしたり出来ることを行いました。
2.多職種への情報発信
その日の夜、ホテル避難所でのことを「シズケアかけはし」というITツールを使い、行政・医療・看護・介護の事業所に情報発信しました。
・避難所で24時間介護が必要な方を付き添っている家族や介護職員だけでケアをするのは限界。
・部屋が和室だと布団から起き上がれず、手すりが無く畳で滑るかもしれない、
トイレに行くのも大変で寝たきりになるかもしれない、環境が大きく変わり認知症が進むかもしれない、各部屋に分かれるため逆にご様子が把握できず体調が悪化していることに気付けないかもしれず、生活不活発病を起こす可能性もあるなど。
熱海市は、事業者間で横の繋がりを大切にしていて、地域の高齢者・障害者の暮らしを支えるため熱海市介護サービス提供事業者連絡協議会があります。
私たちが発信した情報を見た会の代表が翌日に「自分たちが動きますから安心してください」と電話をくださり、涙が出そうになりました。
まとめ
発災翌日に2次避難場所に移動することができたことで早期に安否確認ができました。
避難出来ずに自宅に残っている人なども把握しやすくなり捜索活動のエリアも絞れたと聞きます。ホテル避難所の利点、欠点も言われますが、まず、安心して休める場所に移動できたことは、命を守るための初期対応として大切な行動ではないかと思います。
前回の記事
看護師が体験した熱海土石流災害②私の経験-前編-
2021年7月3日(土)静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)という場所で大規模な土石流災害が発生しました。 発生直後、伊豆山にある弊社の建物の場所から20m先の家々が土石流…
この記事を書いた人
河瀨愛美
大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。
普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。
2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。
<経歴>
看護師経験18年。
大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。
<資格>
看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者
<活動>
ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」
<執筆>
看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,P.70~P.74