日本ではがんが増えており乳がんも例外ではありません。しかし乳がんはセルフチェックで気づきやすいがん、という特徴があります。
つまり乳がん発見においてセルフチェックはとても大切です。
最初の記事としてまずはセルフチェックに関する内容をお届けします。
この記事の目次
1.増えている乳がん
女性の乳がん(乳癌)は少しずつ増えてきています。
乳がん(乳癌)罹患数は2023年では97,300人となっています。
日本人の罹患人数では第5位、女性の罹患人数では第1位となります※1。
2020年は91,531人、2021年94,000人、2022年94,300人※2と増加傾向にあります。
50年前は50人に1人と言われていましたが、今は9人に1人が乳癌になる時代と言われています。
年齢別に見ると以下のようになります※3。
図でみるとわかるように30歳代後半から罹患率があがり、一番罹患率が高い年齢は70~74歳となります。
30歳後半〜50歳代の子育てや仕事で多忙な時期も罹患率が高い時期となります。
2.乳がんのリスク因子について
上記の図でわかるように乳がんは30歳代後半から子育てや仕事で多忙な時期に多い女性特有のがんです。
乳がん(乳癌)のリスク因子についてまとめました。
主には女性ホルモンに関連しリスクが高くなっています。
乳がん(乳癌)は「ホルモン依存性のがん」とも言われており、女性のライフスタイルの変化で乳がん発症のリスクが高くなっていると言えるでしょう。
1)年齢が30歳代以上
これは統計からですが、1の年齢別にまとめた乳がん罹患率の図からは30歳代から乳がん(乳癌)罹患率があがってきています。
2)初経が早く、閉経が遅い
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがあります。
エストロゲンは一言でいうと女性らしい体づくりをしてくれるホルモンです。
肥満や出産経験がない、もしくは遅いなどエストロゲンが長く分泌していると、乳がん(乳癌)の発生率の危険性が高くなります。
3)ホルモン療法の経験がある
閉経前後の約5年間ほどの時期は女性ホルモンのバランスが崩れやすく、急にエストロゲンの分泌が低下し、いわゆる更年期の症状が出ることがあります。
体のほてり・発汗・動悸・めまい・気分の落ち込みなどです。これらの症状が悪化すると日常生活に支障をきたすことがあります。
その対処として様々な方法がありますが、1つはホルモン療法があります。
エストロゲンとプロゲステロンを併用した治療を行う場合、乳がんのリスクが上がる場合があります。
4)低用量ピルの使用経験がある
低用量ピルは経口避妊薬として使用されています。また月経前症候群(PMS)、月経困難症の治療にも使われます。しかしピルにはエストロゲンとプロゲステロンが含まれるため、乳がん(乳癌)リスクが高くなります。
ただし、乳がんが増加するリスクはわずかであり、種類によってはリスクが増加しない可能性もあるとされています。
5)血縁者に乳がんになった人がいる
家族や親戚に乳がん(乳癌)に罹患した人がいる場合、乳がんリスクが高いことがわかってきました。
乳がん(乳癌)の5~10%は遺伝性であると言われています。
3.セルフチェックの大切さ
日本の死因の第1位はがんです。
その中で第1位大腸がん、第2位肺がん、第3位胃がんは健康診断で発見されるパターンが多くなっています。
女性特有のがんで卵巣がん、子宮がんは別の病気の検査時に発見されるパターンが多いです。
女性が一番罹患しやすいがんは乳がん(乳癌)ですが、ご自身のセルフチェックで気づくパターンが多いという調査結果があります※4。
乳がん(乳癌)の発見にセルフチェックがとても有効といえるでしょう。
1)早期発見と生存率の関連性
乳がん(乳癌)はがんの中でも比較的ゆっくり進行するがんです。
そして早期発見することで生存率はあがります。
以下は、乳がんの発見時のステージ(進行度)と生存率をまとめました。
- 0期:
-
非浸潤がんもしくはパジェット病(上皮内がん)で早期のがん
5年生存率:100% 10年生存率:100%
- 1期:
-
がんの大きさが2cm以下で、リンパや他臓器に転移していない
5年生存率:98.9% 10年生存率:94.1%
- II期:
-
がんが2〜5cm以下の大きさである。もしくは、リンパ節への転移が疑われるもの
5年生存率:94.6% 10年生存率:85.8%
- Ⅲ期:
-
がんの大きさが5cmを超える、しこりが皮膚に及んでいる、脇の下のリンパ節・胸骨もしくは鎖骨リンパ節に転移がある。
5年生存率:80.6% 10年生存率:63.7%
- Ⅳ期:
-
がんの大きさやリンパ節の転移に関わらず他の臓器への転移(骨・肺・肝臓・脳など)がある
5年生存率:39.8% 10年生存率:16.0%
このように、早期発見であればあるほど、生存率・予後は良いということがわかります。
そして乳がん(乳癌)の特徴としてセルフチェックで自己発見しやすいがんでもあります。
4.乳がん発見の90%は”しこり”です
乳がんの初期状態では自覚症状がないことが多いです。
それでも乳がん(乳癌)を発見するきっかけの90%は”しこり”です。
触って気づきやすい大きさのしこりは5mm~1cmと言われ、軟骨のようにコリコリしています。
”しこり”を発見すれば、ほとんどの方は「乳がんでは?」と想像して不安になる方が多いと思います。しかし、発見した”しこり”の80%程度は良性の腫瘍・疾患です。残りの1〜2割が乳がんと診断されます。
良性の場合は乳腺繊維腫瘍、乳腺嚢胞、乳管内乳頭腫が疑われます。
ただここで自己判断をすると、早期発見にならないかもしれません。
2.セルフチェックの重要性でも書いたように早期発見が大切です。
”しこり”があることは何らかのサインととらえ、まずは乳腺外科の受診をして適切な検査をしてもらいましょう。
1) “しこり”ができる場所について
”しこり”にはできやすい部位、でにきにくい部位があります。
また脇にはリンパ節があり、特にセンチネルリンパ節と呼ばれる見張り役のリンパがあります。がんがリンパに流れた時に最初にたどりつくリンパ節の部位になります。脇の下のしこりの有無も入念にチェックが必要です
5.“痛み”があるときはどういう時?
乳がん初期症状として通常「痛み」はほぼありません。「痛み」の多くはがんではなく、乳腺症や乳腺炎でよく見られる症状です。”しこり””痛み”がある場合の良性疾患について簡単にまとめておきます。
- 乳腺繊維腫瘍
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乳腺良性疾患の中で一番多い疾患です。
10〜30歳代に多い疾患です。小豆大〜鶏卵大になることもあり、複数できることもあります。悪性ではないと診察されれば経過観察になることもあります。
- 乳腺嚢胞
-
乳腺症の症状の1つです。
袋状の組織に分泌液がたまり、圧迫や感染を起こすと痛みが伴うこともあります。
- 乳管内乳頭腫
-
30歳代後半〜50代に多い良性腫瘍です。
黄色〜透明な分泌液があり、乳頭周辺に腫瘍ができます。
- 乳腺炎
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多くは授乳期におきます。また乳腺に細菌が入り乳腺炎になることもあります。抗生剤の使用、乳腺内にたまった母乳やうみを出すためにマッサージや注射器で吸い出したり、切開することもあります。
- 乳腺症
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月経周期に伴って出現する痛みや腫れ、しこり、乳頭からの分泌物の多くは女性ホルモンの影響で生じるもの。排卵の前後から症状が強くなり、月経後には軽くなります。
6.具体的なセルフチェックの方法
上記でお伝えしたとおり乳がんの早期発見にはセルフチェックが有効なので、セルフチェックの方法をお伝えします。イラストを見ながら行ってみてください。
①②はシャワーや入浴時に行うといいでしょう。
①両手を上げ下げして、乳房の左右差、陥没やひきつれを確認します
②乳房を「の」の字でくるくると触ってみて、しこりの有無を確認します。ボディーソープをつけながら触ることで滑りが良くなります。
③④は寝て行います。肩〜背中にタオルや薄い枕を敷くといいでしょう。
立ってしこりチェックは②のように可能ですが、乳房が大きい方はわかりにくいこともあります。
③④のように寝ながら行うとわかることがあります。
③寝ながら触る乳房の反対の手で脇、乳房を優しく触ってみましょう。つまむと皮膚を傷つけたり、しこりではなくともしこりのように感じることがあります。ポイントは4本の指をそろえて添わせるように触れましょう。力加減は肋骨を触ってわかる程度が良いでしょう。
セルフチェックは定期的に、月に1回程度行ってみましょう。
また生理がある方は生理中は乳房が張ってわかりにくいので、生理が終わって4〜7日後に行うようにしましょう。
しこり以外の症状って?
- ①皮膚のくぼみ、ひきつれ
-
皮膚のそばにがんができると、乳房にえくぼのようなくぼみができたり、乳房の皮膚がひきつれたりすることがあります。
- ②乳頭のただれや茶褐色の分泌物
-
がんの影響で、乳頭が赤くただれる。乳頭から出血や血液が混じった茶褐色の分泌物がでることがあります。
- ③乳房が赤く腫れている
-
炎症性乳がんの場合、しこりはできず痛みはないのに乳房が赤く腫れてくることがあります。
- ④痛みについて
-
痛みの多くはがんが原因ではないことが多いです。痛みの多くは「乳腺炎や」「乳腺症」からくる症状であることが多いです。
しこり以外の乳房の見た目の変化も見ていきましょう。
7.まとめ
乳がんが増えていることからリスク因子・セルフチェックの必要性、具体的な方法をお話しました。ぜひ定期的にセルフチェックを行い、予防・早期発見に繋がればと思います。今回は乳房の症状を中心にお話ししましたが、次回は乳房以外の症状・そして転移についてになります。
【参照データ】
※1 がん統計予測 がん罹患予測数(2023年)
※2がん情報サービス
※3全国がん情報サービス
全国がん罹患データ(2016年~2020年)rateタグ2020年年齢別(上皮内がん除く)参照
※4ティーペック株式会社 2022年8月9日〜2022年8月12日 879人へのインターネット調査
この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」