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「植物状態」と言われた家族の絶望を希望に変える看護

バスが道路を走っている車

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かつて「植物状態」という言葉がありました。会話や自分で食べること、身体を動かすことが難しくなり、認知機能も大きく低下する重い意識障害の状態です。現在このような状態は「遷延性(せんえんせい)意識障害」と呼ばれています。もし、大切な家族が遷延性意識障害と告げられたら、あなたはどのように感じるでしょうか。

突然の出来事に混乱し、立ち尽くしてしまうかもしれません。

しかし、近年看護やリハビリテーションの関わりによって、わずかな反応が見られるようになったり、人間らしい生活を取り戻していく事例も報告されています。この記事では、遷延性意識障害の原因や起こりうる問題、回復を目指した看護の関わりについてお伝えします。

この記事の目次

1.家族が「植物状態」と言われたら

「植物状態」と呼ばれていた状態は、医学的には遷延性意識障害と呼びます。

これは、大脳が広い範囲で障害を受け、呼吸や心拍といった生命維持機能は保たれる一方、会話による意思疎通や、自分で食事・排泄を行うことが著しく困難になる状態です。脳神経外科学会では1976年に以下のように定義しています。

病室のベッドで寝ている人

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このような状態になると、日常生活の多くを他者の介護に頼ることになります。

食事は口からとることが難しいため胃瘻(胃に直接管を通す方法)などで栄養補給を行うことが一般的です。

排泄はおむつなどを使用し、長時間同じ姿勢でいることで褥瘡(床ずれ)が生じる可能性があるため、定期的な体位変換が必要です。

また、認知機能の低下により、周囲とのコミュニケーションは非常に困難となります。

開眼している場合でも、呼びかけに対して反応が得られないことが多いとされています。

主な原因としては、心停止や呼吸停止後の低酸素脳症、頭部外傷による外傷性脳損傷、脳血管障害、感染症などがあります。

これらは年齢に関係なく起こりうるため、誰にとっても無関係とはいえません。

もし、昨日まで元気だった家族がこのような状態になったとしたら。

突然の出来事に戸惑い、深い絶望を感じるのは決してあなただけではありません。

2.使わないと使えなくなる身体

私たちの身体は、使わない状態が続くと、驚くほど早くその機能が低下してしまいます。

例えば、骨折でギブスを外したとき、筋肉が細くなっているのに驚いた経験を聞いたことはないでしょうか。

このように、長期間の安静や活動量の低下によって、身体や心にさまざまな障害が生じる状態を廃用(はいよう)症候群と呼びます。

廃用症候群は遷延性意識障害の方だけでなく、病気やけがの後の方や高齢者にも起こりやすい現象であり、あらためて押さえておきたい重要な概念です。

廃用症候群は、大きく3つに分類されます。

①局所性

手足を動かさないことで、関節が固くなる関節拘縮(こうしゅく)や、筋肉がやせる筋萎縮(いしゅく)、骨がもろくなる骨萎縮が起こります。

また、同じ姿勢が続くことで褥瘡の原因にもなります。

②全身性

活動量の低下により心肺機能や体力は低下し、消化機能低下による下痢や便秘も起こりやすくなります。

さらに、誤嚥性肺炎や尿路感染症などの発症リスクも高まります。

③精神・神経性

活動の低下により外部からの刺激が少なくなることで、意識を司る脳のネットワークが眠り続けた状態になってしまいます。

長く横になっている状態が続くと、視覚や聴覚から得られる情報も少なくなり、精神活動は次第に低下していきます。

このように、動かない状態が続くことで、心身がさらに悪化するという負の連鎖を断ち切ることこそが、看護の第一歩なのです。

3.回復を諦めない看護師の話

では、寝たきりの状態から、どのようにして悪循環を断ち切ることができるのでしょうか。遷延性意識障害の患者に向き合い、諦めることなく関わりを続けた看護師の取り組みを紹介します。

1992年、NHKスペシャルで放送された「あなたの声が聞きたい~“植物人間”生還へのチャレンジ~」という番組をご存じでしょうか。

当時、大きな反響を呼んだこの番組では、重い意識障害から、最終的に自宅での生活が可能になるまで回復した事例が紹介されていました。

その中心となったのが、看護師の紙屋克子氏です。

紙屋氏は、看護の本質である生活援助に着目し、「生活行動を支えることで意識の回復につながる可能性がある」と考えました。

具体的なアプローチは、驚くほど丁寧で力強いものでした。

・意識がないとされる患者にも絶えず語りかけ、わずかな反応を見逃さないよう全身を観察する

・入浴や離床(ベッドを離れること)で、身体に刺激を与え、睡眠と覚醒のリズムを整える。

・口から食べるという人間本来の喜びを取り戻す

この過程は、まるで赤ちゃんが一つひとつ段階を経て成長していく姿にも重なります。

こうした実践は現在、遷延性意識障害・寝たきり患者のための生活行動回復看護(NICD :Nursing to Independence for the Consciousness Disorder and Disuse Syndrome Patient)として体系化されています。

また、この看護実践は国際的にも評価され、2025年に紙屋氏は看護界の最高栄誉である「フローレンス・ナイチンゲール記章」を受賞しています。

授賞式では、その活動が「『諦めない看護』は、常に患者のそばにあり、意志の表出が困難な患者の尊厳を守り、社会へ包摂される最後の砦である」と称えられました。         

4.絶望を希望に変える看護の力

NICDは、大きく3つの柱を中心に構成されています。

①リハビリを行うための身体づくり

栄養管理によって体力を整え、さらに昼夜のリズムをつけることで、覚醒しやすい状態に導いていきます。

②自由に動かせる身体を取り戻す

長時間活動できない状態が続くと、全身の筋肉は萎縮し、関節は拘縮してしまいます。

手足が伸びたまま、あるいは曲がったまま固まってしまうことも少なくありません。

そこで、お風呂や温罨法で身体を温めながら、手や大小さまざまなバランスボールなどを用いて全身を丁寧にほぐしていきます。

③生活行動を取り戻す

私たちの日常生活の多くは、座ったり立ったりと、身体を起こした姿勢の中で行われているため、寝たきりの状態から身体を起こし、「座る」ことを目指します。

座れるようになると、手足の動きに併せて、顔を拭く、髪をとかす、スプーンを持つといった生活行動へとつなげていきます。

また、トイレでの排泄や、口から食べる取り組みも早期から始めます。

噛む、道具を使う、自分の足で踏ん張るといったすべての動きが、脳への大切な刺激となるからです。
人, 屋内, 食品, テーブル が含まれている画像

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そして、何よりも大切なのが、「一人の人間としての関わり」です。

視線を合わせ、その人が一番親しんできた呼び名で語りかけます。

五感を刺激しながら、小さな反応も見逃さない。

それは「反応がない」のではなく、「反応を表現する手段を、まだ持っていないかもしれない」という視点に立つことです。

たとえ意識がないように見えても、意志ある一人の人間として尊重し関わり続ける。

その姿勢こそが看護の根源的な力となります。

まとめ 

大切な家族が重度の意識障害を負ったり、認知症や廃用症候群によって介護が必要となったとき、ご家族の心身の負担は計り知れません。しかし、そのような暗闇の中でも、希望となる看護があることを知って頂ければ幸いです。

回復の程度には個人差があり、すべての人に劇的な変化が訪れるわけではないかもしれません。それでも、指先がわずかに動いた、口元が笑ったといった小さな変化は、暗闇を照らす一筋の光となります。その小さな反応が確かに「その人がそこに生きている」という大切な証なのです。

参考資料

般社団法人日本救急医学会https://x.gd/b18sm

健康長寿ネットhttps://x.gd/0fIgu

NHK ONE https://x.gd/oUXMZ

筑波大学名誉教授 紙屋克子先生『生活行動回復看護』 – Happy Spiral 桜十字の医療と介護 vol.57 https://x.gd/UE7W9

この記事を書いた人

看護師:青木容子 看護師経験30年 (病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など) 現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。 紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

看護師:青木 容子
〈プロフィール〉

看護師経験30年

(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)

現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。

紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

  

 

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