遺贈寄付の方法には「遺言による寄付」「契約による寄付」「相続財産の寄付」があると、以前のコラムでお伝えしました。
この「契約による寄付」は、さらに「死因贈与契約による寄付」「生命保険による寄付」「信託による寄付」があります。
今回は「信託による寄付」の特徴についてご紹介します。
この記事の目次
信託の仕組み
まず、信託とはどのようなものでしょうか。
信託には「委託者」「受託者」「受益者」という関係者が登場します。
委託者=財産を託す人
受託者=財産を管理する人
受益者=財産を受け取る人
これを寄付に当てはめてみると、「委託者=寄付者」「受託者=信託銀行等」「受益者=非営利団体」と考えることができます。
信託を設定する方法は、3つあります。
- 「信託契約による方法」
- 「遺言による方法」
- 「信託宣言による方法」
ここでは最も一般的な「信託契約による方法」の話を進めます。
信託にはいくつかの特徴があります。
- 財産が委託者から受託者に移転すること
- 受託者は信託目的に従い信託財産の管理処分の義務を負うこと
- 信託財産が受益権に転換すること
これらの特徴が寄付の場合に具体的にどのような影響を与えるのか、次で見てみましょう。
信託の寄付への活用
信託を活用して寄付する場合、これらの特徴から「遺言による寄付」とは異なる性質を持つことになります。
①財産の所有権が委託者(寄付者)から受託者(信託銀行等)に移転することから、寄付する財産は信託契約の時点で寄付者の手を離れることになる。
これにより、委託者は財産の管理負担がなくなるとともに、委託者に何があっても信託財産は保護される。
(倒産隔離機能)
②受託者(信託銀行等)は善管注意義務や分別管理義務などを負いますので、信託財産が安全に管理されることになる。
例えば、遺言による寄付では寄付者死亡時に財産を一括して非営利団体に遺贈します。
信託による寄付では、財産を安全に10年間にわたり分割して少しずつ寄付することもできます。
長く足跡を残したい寄付者にとって良い方法ですし、非営利団体にとっても計画的に寄付が受けられるので予算が組みやすいというメリットがあります。
寄付に利用可能な信託の種類とその内容
寄付に利用可能な信託には以下のものがあります。
① | 公益信託 | 篤志家が公益目的のために財産を提供。 運営委員会が助成先を推薦し、受託者が定期的に助成。 |
② | 特定贈与信託 | 特定障害者の親などが子の生活安定を目的に財産提供。 贈与税の非課税枠あり。信託終了時に寄付も可能。 |
③ | 特定寄附信託 | 信託銀行等が契約した公益団体等から寄付先を指定。 運用益が非課税。日本版プランドギビング信託。 |
④ | 生命保険信託 | 保険金の受取人に信託銀行(または信託会社)を指定。 信託契約により死亡保険金を相続人や団体へ交付。 |
⑤ | 財産承継信託 | 金銭を信託設定し、受益者に一括または定期的に交付。 遺言による信託設定も可能。 |
⑥ | 遺言代用信託 | 信託財産を死亡後に受益者(または帰属権利者)に交付。 寄付に対応する金融機関が限られる。 |
⑦ | 家族信託 | 家族等が受託者となる信託。専門家の補助が必要。 信託口の口座作成に対応する金融機関が限られる。 |
このうち①公益信託と③特定寄附信託の2つは、寄付のための信託制度と言っても良いでしょう。
それぞれの制度は以下のとおり非常にしっかりとした仕組みであり、委託者(寄付者)にとって安心感があると思いますが、その一方で比較的大口を対象とするなど利便性に課題があり、利用件数は伸び悩んでいるようです。
公益信託
公益信託は1977年に制度が発足し、2003年には受託件数が572件にまで伸びましたが、2022年3月末時点では393件、信託財産残高574億円となっています。
公益信託は抜本的な制度改正が求められており、受託者資格の拡大や認可基準の制限緩和等により、利用の促進が期待されていますが、なかなか検討が進んでいないようです。
特定寄附信託
信託銀行等と契約した公益法人等に寄付先が限定されていること、運用益が非課税になるメリットしかないことから、あまり利用されていませんが、信託期間中に委託者(寄付者)が死亡した場合にはあらかじめ指定した公益法人等に寄付がなされる特徴があります。
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この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。