生命保険には「リビングニーズ」という、生前に保険金を受け取れる特約があります。
この制度について、保険会社に勤務する友人の話をご紹介しながら、実際の利用場面について考えてみましょう。
この記事の目次
1.リビングニーズ特約とは
リビングニーズ特約は、保険に加入されている被保険者が、余命6月以内など一定の余命期間と診断された場合に、死亡保険金の一部または全部を生きている間に受け取れる特約です。アメリカの保険会社が開発し、敢えて特許を申請せずに、広く業界へ浸透させたそうです。
2.リビングニーズのメリットとデメリット
リビングニーズの「メリット」と「デメリット」について、見てみましょう。
【メリット】
- 余命宣告期間以上に生きられた場合でも返金の必要なし。
- 生前給付金は非課税
- 生前給付金を活用することで自由診療など治療方法や範囲が広がる
- 生前給付金の利用目的は一切限定されない(治療以外に使ってもOK)
- 保険料の支払いが不要となる
- 必要な金額を指定して受け取れる
【デメリット】
- 生前給付の分だけ死亡保険金が減る
- 本人が余命を知ってしまう
- 生前給付金の残金は相続税の対象となる
- 余命期間分の利息と保険料が生前給付金から差し引かれる
- 分割で給付は不可
3.リビングニーズ特約を申請したケース
保険会社に勤務する友人の事例をご紹介します。
- 保険契約:死亡保険7000万円
- リビングニーズ特約:上限3000万円(1回のみ)
すい臓がんが見つかった
ご本人から「定期健診ですい臓がんが見つかった」と連絡がありました。既契約を確認したところ、医療保険のご契約は無かったものの、(教職員の方なので)共済組合でかなり手厚く守られていましたので、金銭的にはあまり心配する状態ではありませんでした。
すい臓がんは、がんが発生しても初期症状がほとんどなく、非常に見つかりにくいため、発見されたときには既に手の打ちようがないというケースが多く、この方の場合も手術が困難なため、まずはがんを小さくするための放射線治療がはじまりました。
治療後の副作用がひどく、身体はやせ細り、頭髪や眉毛もすべて抜け落ちていました。
私は、回復される願いを込めて「回復するためのファイティングマネーとして、リビングニーズ特約を活用されませんか」とご本人と奥さまに提案しました。
いくら正当な権利とは言え、やはりリビングニーズ申請の案内には、私にとっても覚悟が必要でした。
お伝えするタイミングや、苦しい治療や副作用で不調な身体、ただでさえ不安定な感情の機微を無視するわけにはいかないからです。
本来であれば自分が死んでしまった後に渡される多額の保険金。
それを自身が生きているうちにその多額の金額を受け取り、そして死を目前にして、大切な人に渡すというのは、人をいったいどんな気持ちにさせるのでしょうか。
ご本人の選択
リビングニーズ特約を提案したものの、やはり即答はされませんでした。
死(余命宣告)を受け入れることになりますので無理もありません。
約1月後に改めてご自宅に呼ばれ、リビングニーズの手続きをお願いしたいとのお申し出をいただきました。
余命4ヶ月という診断書を主治医から受け取り、3,000万円の生前給付金を請求して、受け取っていただくことができました。
それでも、残していく家族のことをとても気にされており、けっして贅沢な使い方はされませんでした。
治療法が限られていたため、治療費などの経済的負担の解消が目的ではなく、身体的・精神的負担の軽減のために、病院近隣のホテルやウィークリーマンションの利用などを提案しました。ただ、ご自宅のほうが気も休まるのか、都会の大きな病院に片道2時間半の道のりを、奥さまに自家用車を運転してもらい、つらい治療をつづけられました。
少し治療が落ち着いた時期を見計らい、ご家族4人で、北海道旅行に行かれました。
たくさんの写真を撮られていて、いまでもご自宅のリビングに飾られています。
また、勤務先の学校の卒業式にも出席され、学校の子どもたちや他の先生方から歓迎されていました。
その約半年後、ご本人はお亡くなりになりました。
本件では、死亡保険金のみならず他の資産も多く、相続に関して決定的に大きな役割は果たせなかったものの、生命保険が持つ機能の一部を、しっかりと活用できたのではないかと思います。
4.どの人から生命保険に加入するか
友人の事例はいかがでしたでしょうか。
心情的にもつらい場面ですが、保険のプロとして最適と思われる提案をしている様子がうかがえます。
保険に限ったことではありませんが、「どの保険に入るか」も重要ですが、「どの人から入るか」はもっと重要なように思います。
いざという時に頼りになる人にお願いしたいものです。
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この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。