前回の記事
看護師が体験した熱海土石流災害①私の経験 過去の災害から学んだ備え
静岡県熱海市と聞くと、観光地で賑わっているというイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。 賑わう熱海の駅周辺から約1キロしか離れていない伊豆山(いずさ…
2021年7月3日(土)静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)という場所で大規模な土石流災害が発生しました。
発生直後、伊豆山にある弊社の建物の場所から20m先の家々が土石流に流されていく中で消防団、町内会、その場に居合わせた方々と協力して逃げ遅れていた近隣の高齢者の避難誘導、避難所への移送などを行いました。
その後は、自分たちのデキルことはなにかと考えつつも、車両も1台、土石流に押し流され事業継続はできるのかを思うと心と身体がバラバラになりそうでした。
第2回目では熱海土石流災害 私の経験②前編として、夫婦で熱海に移住し介護タクシー事業を運営している看護師として、災害発災当日の自分たちの状況や活動、気持ちの変化などをお伝えします。
この記事の目次
1.熱海土石流災害を振り返る(発災当日)
災害の起きる前日も大雨で夜中には高齢者等避難のアラームが鳴るなど、よく眠れず不安な気持ちが高まっていました。
夜中に高齢者等避難が発令されても高齢化率48%の熱海市では多くの高齢者は大雨の中で避難所に行くことは困難でした。
7/3(土)も大雨は続き、安全考慮し車両1台で2名行動(ケアドライバーの夫と看護師の私)というスケジュールで調整。透析通院(往復)、服用中の薬をもらうための通院(往復)、ワクチンの集団接種会場への送迎(往復)、計6件の予定でした。
集団接種会場については前日に土砂崩れがあった近くでもあり利用者様宅に当日の朝も電話をしましたが「中止の連絡は無い」との事でした。
2件目の送迎後、ケアドライバーが事業所に戻る道路に逢初川の水がマンホールから溢れ、通行止めになっていたのを確認していました。
3件目、ケアドライバーに迎えに来てもらい、院内付き添いのあった利用者様を自宅に送る途中、10:28「〇〇付近で土石流発生」と熱海市の緊急エリアメールが入りました。
この時に、私もスマートフォンのGoogleマップで場所を調べましたが「〇〇付近」と言われた場所が、この地域に住んでいる人でもわかりにくい場所でした。
国道にはサイレンを鳴らして走る消防車が何台も通過していました。
利用者様を自宅に送りながらその光景を見た私は不安が一気に増しました。
迂回して事務所近くまで戻ると事務所から20m先の家々が流され自力避難できる人は高台に避難している状況でした。
私は焦りながらガレージのシャッターを閉めようと電動ボタンを押しましたが作動せず。
そこでようやく我に返り「停電している」事に気付きました。
まず、私たちは高台に避難していた町内会の方と情報共有をしました。
普段の避難場所は土石流で道路寸断され、行けず。
町内会役員が行政と連絡を取り土石流の影響が無い市役所隣の福祉センターがこの地区の臨時避難所となったことを確認。
ケアドライバーである夫は、避難している方の中に顔見知りの歩行困難なご主人と暮らしている高齢夫婦がいない事に気づき、高台に近いその方の自宅に車椅子を持って訪問。
奥様は「お前だけ逃げろと言われて、そんなことできない」と混乱していました。
声掛けして少し落ち着き、ご主人を車椅子にお乗せし夫婦を車両に乗せて避難所に向かいました。
この後、夫は他の避難者の送迎をしようとすぐに戻るつもりでしたが熱海の街は大渋滞、現場に戻るのにかなりの時間がかかりました。
私は病院透析室に電話し「救助活動をするため帰りの対応が遅れる」と連絡。
ワクチン接種予定の方と担当のケアマネジャーにも電話し「会社のある伊豆山で災害が起こったため別の手段で行ってもらえないか」と連絡。
透析の方はその後、帰る道が全て通行止めで帰宅困難者となり入院となりました。
その後、私は車椅子を押し消防団が集まっている所まで行くと「この辺りの人のこと、わかりますか?」と聞いてくれました。
私は「1人だけわかります」と伝え、消防団とそのお宅に向かいました。
そのお宅は元利用者様のご家族が住んでおり「〇〇さん、河瀬です。いますかー」と呼びかけると不安そうな表情で「怖い。電気も付かなくなった」と出てきてくれました。
その方に「土石流がきてます。一緒に逃げましょう」と伝え、一緒に歩き始めました。
この方が「ここも友達の家」と言った家に声を掛けていくと次々と高齢の住民が不安そうに外に出てこられ高台に避難してくれました。
避難誘導中、勢いを増した土石流が流れているのが見え、泥まみれで外傷もある方もおり先に高台に避難していた住民によって防災倉庫にあった救急箱などから応急処置もされていました。
取り残された家には外階段がある歩行困難者もおり、消防団が数人で車椅子のまま持ち上げて高台に避難。
その直後「次が来るぞ、もっと上へ逃げろー」と消防団の呼びかけで、皆で協力し更に高台に移動し数台の車に乗り合う形で避難所に移動しました。
私は戻ってきた夫と合流でき避難所に向かう途中、土石流のことが把握できずにバスも動いてないため歩いてきた人々と遭遇。
「ここから先は土石流が流れて行けません。避難所に行きましょう」
と伝え、車に乗ってもらい避難所へ送りました。
SNSを使い自分たちの無事や避難した方の状況を発信。
家族には電話で伝えました。
気付くと自分たちも服は汗や雨で濡れ泥だらけでした。
翌日から、なんらかの動きもあると思い、また、道路の寸断で自宅に戻れなかったため、この日の夜は宿に泊まりました。
夜にテレビのニュースで弊社の車両1台が土石流に押し流されている映像を確認。
言葉にならないくらいのショックを受けました。
これらの状況を踏まえ、スマートフォンで、シズケアかけはし掲示板を活用し熱海市の医療、看護、介護関係者、行政に、関わった避難したかたの状況と弊社の状況を報告しました。
2.まとめ
想像を超えた災害を経験し全貌もよくわからなかった初日は、いろんな事が頭を駆け巡りました。
第3回目では引き続き、熱海土石流災害 私の経験③中編として翌日からの自分たちの状況や活動、気持ちの変化などをお伝えします。
この記事を書いた人
河瀨愛美
大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。
普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。
2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。
<経歴>
看護師経験18年。
大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。
<資格>
看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者
<活動>
ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」
<執筆>
看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,P.70~P.74