目次

看護師が解説!がん救急④がん治療中に救急車を呼ぶタイミング・意識障害について

がん救急④がん治療中に救急車を呼ぶタイミング/意識障害について

がん治療中で特に対処に緊急を要する3大症状、痛み・呼吸苦・意識消失についてお伝えしています。

本記事は3つ目の意識消失についてです。

意識消失についてなぜそのような症状が起きるのか、どう対処するべきなのかを知ることで落ち着いて対処できるようにお伝えします。

この記事の目次

1.意識消失・意識障害とは

意識消失・意識障害とは

「意識とは,外界からの刺激を受け入れ,自己を外界に表出することのできる機能を意味する。意識障害とはこの認知機能と表出機能が低下した状態である。」 と書かれています。

今まで意思疎通がとれていた人がとれない。認知症や脳梗塞で意思疎通が取れにくくとも意識が朦朧としている、返事・反応がなかなか返ってこない場合です。

2.意識障害の確認方法

意識障害の確認方法

明らかに意識消失している場合はわかりやすいと思います。
しかし意識障害、つまり意識に変化があった場合、特に元々の病気に認知症や脳梗塞による失語症(言葉が出てこない、相手の話が理解できないなどの障害)がある場合は判断が難しい場合があります。

医療現場では誰でも同じ評価ができるように複数の指標があります。
よく使われているのはジャパン・コーマ・スケール(JCS)やグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)と呼ばれるものがあります。
しかし使い慣れていない、また緊急の場合は精神状態が正常ではないので使用するのは難しいでしょう。
大切なのは”感覚刺激による反応があるかないか”となります。

GCS

日本医事新報社 意識障害、治療の考え方より

  • 名前を大きな声で呼ぶ
  • 肩や胸をさするなどの軽い刺激を与える
  • 痛み刺激を与える

上記の順番で行います。名前を呼びながら、肩や腕をさすり、反応が通常より鈍ければ以下で説明する部位に痛み刺激を与える、これを何回か繰り返します。そして反応がない、もしくは鈍ければ意識障害が出ている判断となり、かかりつけ医へ早急に連絡か救急要請となります。

痛み刺激の場所は①胸骨刺激②眼窩上孔刺激③爪床刺激2)に、痛みを与える方法があります。②の眼窩上孔刺激は目の瞼の上です。私自身や他医療従事者も医療現場ではあまりその部位に痛覚刺激を与えたことはないため、①③についてお伝えします。

胸骨刺激
  • 胸骨刺激:握り拳を作り、指の関節で胸をぐりぐり押す。
  • 注意点:がんの骨への転移がある、骨粗鬆症があるなどの方はあまり強く圧迫すると骨折リスクがあります。まずはご自身の体で確かめてどの程度圧迫すれば刺激があるのか確認してみましょう。
爪床刺激
  • 爪床刺激:爪をぎゅ〜っと指で挟んで圧迫する

3.注意しておくべき寝ている時の意識レベル低下

注意しておくべき寝ているときに意識レベル低下

寝ている時は意識レベルの評価は困難です。
1つの指標として”いびき”があります。
いつもいびきをしない人からいびきが聞こえてきたら、何らかの原因で寝ている時に意識レベルが低下していると考えた方がいいでしょう。いびきとは仰向けの時に舌根と呼ばれる舌の根本が後下方に落ち気道を塞いでしまうことです。気道を塞ぐためいびきが聞こえます。

対処としては、”気道確保” ”意識レベルの確認”になります。
寝ているのか意識障害が起きているのか確認のために、意識障害の観察方法で記載した①〜③を行ってみてください。
それと同時に、気道閉塞のリスクがあるので気道を確保する必要があります。
顔や体を横に向けることで、落ち込んだ舌根による気道閉塞を緩和します。
意識障害があると判断すればすぐに救急要請を行いましょう。

4.注意しておくべき痙攣

注意しておくべき痙攣

痙攣とは、全身または一部の筋肉が自分の意思とは関係なく起こる筋肉の収縮のことです。手足をばたばたさせたり、その反対にひきつって硬直(体が固まる)します。

がん救急で考える痙攣の原因の多くは脳にできた腫瘍や電解質(カルシウム・ナトリウム)のバランスが崩れた時に起こります。

対応としては他症状と同様にかかりつけ医への早急な連絡、救急要請となります。
また救急車を待っている間に対処できることを書きます。

  • 気道確保
  • 吐物による誤嚥

まず体を横に向け、気道が確保しやすくなります。痙攣時には嘔吐も見られることがあります。顔が上向きになっていると吐いた内容物が気道に入りやすく誤嚥といって食べたものが気道や肺に入ってしまうことがあります。窒息や肺炎の原因になりますので、体全体を横に向けましょう。
介助者の方に力がなく体を横に向けられない場合は顔だけでもいいので横に向けておきましょう。

また舌を噛まないように口の中に物を入れておくことはやめておきましょう。
口の中の物が反対に気道を閉塞するリスクに繋がります。

5.なぜ意識消失になるのでしょうか?

意識消失の原因

突然意識がなくなるとパニックになることもあるでしょう。しかしそんな時こそ落ち着いて対処をする必要があります。意識消失の原因を知ることで緊急性の理解ができると思います。

脳腫瘍

脳腫瘍とは、頭蓋骨の中にできる腫瘍のことです。脳腫瘍により脳浮腫(脳が腫れる)が起こり、血流が阻害され意識障害が起こります。乳がんや肺がんなど脳にがんが転移している場合も注意が必要です。

脳はとても重要な部分であることはお分かりだと思います。意識や呼吸、言葉、運動など様々な機能を司っています。※詳細は「01-認知機能とは-大脳と認知機能」に脳のどこの部分がどういう役割を担っているか説明しています。その脳を守るため頭蓋骨が覆っています。更に頭蓋骨の中で脳が動いて衝撃が加えられるのを抑えるため、髄液という液体で脳を保護しています。しかし脳自体が浮腫むことで意識障害が起こります。また嘔吐も出やすい症状ですので、「注意しておくべき痙攣」で記載したように、顔や体を横向きにして誤嚥防止や気道確保をする必要があります。

高カルシウム血症

がんに罹患した方の10%~20%に起こると言われています。骨の中のカルシウムが溶け出す症状です。原因としては骨に転移したがんによるものや腫瘍から産生する分泌物によるものがあります。骨に転移しやすいがんは乳がんや肺がんがあります。

低ナトリウム血症

がんによる1種のホルモン(抗利尿ホルモン)が産生され、体内の水分調整ができず低ナトリウム血症となります。低ナトリウム血症は脳浮腫を引き起こす原因にもなります。また極度の下痢や、腎不全でも起こるリスクがあります。肺がん患者に多いと言われています。

肝性脳症

正常な肝臓であれば代謝されるはずの有害物質(アンモニアなど)が、がんにより肝臓の機能が低下し代謝できず、脳に達して意識障害を引き起こします。

6.救急隊到着までにとっておく姿勢

救急隊到着までに取っておく姿勢

「注意しておくべき寝ている時の意識レベル低下・痙攣」でお伝えしましたが、意識消失が起こり救急隊が到着するまでに行うことは①気道確保②嘔吐による誤嚥防止です。頭や体を横に向けて気道を確保し、誤嚥を防止します。回復体位と呼ばれる体位があります。上の写真のような体勢です。横向きにし顎を出して気道を確保します。手のひらを顔の下にし、上側の足の膝を曲げ体が後に倒れないようにします。自宅ならクッションや布団で支えるのもいいでしょう。呼吸苦の記事でお伝えした体を起こす体位とは異なりますので注意が必要です。

7.まとめ

以上が、がん治療中に起こり得る意識消失です。就寝中の意識障害・痙攣についてもお伝えしました。
今までがん救急の3大症状である「痛み」「呼吸苦」「意識消失」についての内容でした。
特徴は”突然”の症状であることです。ご家族あるいはご本人でがん治療中の方に迅速に対応できるようまとめました。

次回、最後5本目の記事はがん終末期における救急搬送の判断についてです。
がん治療が開始し、治療をどこまでするのか、最後の療養場所にどこを選ぶのか、いつかは決める時期が訪れます。その時にがん治療されている方・その家族が望まれた形での最後を選択できるような内容をお伝えします。

引用
1) 日本救急医学会 意識障害 
2)日本離床学会 意識レベルのアセスメント、痛み刺激の与え方
参照
◆一般社団法人日本がん看護学会. 「オンコロジックエマージェンシー―病棟・外来での早期発見と帰宅後の電話サポート (がん看護実践ガイド)」 監修:森文子 編集:大矢綾、佐藤哲文. 2016年

【福ふくチャンネル】

福ふくチャンネル、5分でできるがん検査キット
LINE友だち追加ボタン

エラン公式LINE

定期的にコラムの更新、キャンペーンなどご案内しています。ぜひご登録をお願いいたします



この記事を書いた人

看護師山川さちえ

山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」

よろしければシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
この記事の目次