自分のからだの変化に前向きな気持ちで付き合っていくことができればと思い、「加齢による五感の変化とつきあい方」を全5回のシリーズでお届けしています。
第4回目は、加齢による「鼻」の変化とつきあい方です。
「鼻」は口と同様に空気の通り道です。
鼻から空気を吸うと、空気を加温加湿したり、空気中の塵やばい菌、ウイルスの侵入を防いだりしてくれます。その他、においを感じて、いい気分になったり、身の周りの危険に気づいたりすることができます。
これらは、口から空気を吸う、口呼吸では加温加湿が難しかったり、異物を除去しきれなくなったりする場合があります。
加齢による「鼻」の変化を知り、人生を豊かに過ごすために労わってみませんか。
この記事の目次
1. 加齢による「鼻」の変化
1) においを感じにくくなる理由
朝の挽きたてのコーヒーの香り、歩いていてふと香る花の香り、私たちの日常に「におい」は身近にあります。
においは、どのように感じるのでしょうか。
鼻の中のにおいを感じる細胞がにおいをキャッチし、その情報を脳に伝えることで、においを感じます。
「鼻」の加齢による変化は、このにおいを感じる細胞が減少して、においを感じにくくなることから起こります。男性は60代頃から、女性は70代頃から低下が目立つようになります。
男性は喫煙率が高く、喫煙し続けると細胞や神経などに影響を及ぼし、嗅覚低下を生じる可能性があると言われています。女性は料理をしたり、化粧品を使ったり、においに接する機会が多いことから、男性よりも嗅覚低下が緩やかなのではないかと言われています。
その他、副鼻腔炎であったり、ポリープのようなものができていたりして鼻づまりが起きるなど、病気が原因で、においを感じづらくなっていることも考えられます。
気になる方は、耳鼻咽喉科を受診し、相談してみるとよいと思います。
2) 嗅覚が低下すると、どうなる?
においを感じにくくなると、日常生活に影響を及ぼします。
食品は傷んでいると、嫌悪を感じる臭い、甘い臭い、アルコールに似た臭いを発します。
ガスには腐った玉ねぎやにんにく、石油に似たツーンと感じるにおいが人工的につけられ、微量なガス漏れもいち早く発見し事故を防ぐようにしています。
しかし、嗅覚が低下すると、食中毒やガス漏れ、フライパンを焦がすなどの、日常の危険に気づかないことにつながりかねません。
また、においと味は密接にかかわっています。
風味と言う言葉がありますね。風味とは、食べものや飲み物を口に入れた時に感じられる、においで感じる味のことを言います。
口と鼻はつながっています。小学校の給食で牛乳を飲んでいる時、笑わされて鼻から牛乳が噴き出した、今では笑い話な経験を思い出しました。
食べものや飲み物を口にすると、口の中で味を感じ、口から鼻ににおいが抜けて、「おいしい」、「なんかおいしくないな」と風味を感じます。
嗅覚が低下すると、風味を感じられなくなり食欲不振を招き、栄養不足になり、フレイルやサルコペニアの一因となるかもしれません。また、味つけが濃くなって塩分や糖分過多となり、生活習慣病につながってしまう可能性もあります。
実は、嗅覚の低下に気づいていない人も多いそうです。味を感じられなくなっているなと自覚していたら、もしかすると、嗅覚が低下していることが原因なのかもしれません。
3) 嗅覚の低下は、認知症の前触れ?
嗅覚の低下は生活の質を低下させるだけではなく、様々な病気のリスクを高めるフレイル、サルコペニアのほかに、認知症も関連していることが、最近の研究でわかってきています。
例えば、アルツハイマー型認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と嗅覚低下との関連です。
アメリカで行われた研究では、においの識別テストの点数が平均よりも低い人は、5年後にMCIになる確率が約50%も増加すると報告されています。
におい判別テストの代わりに、日本人の場合はカレーのにおいがわかるかどうかが、MCIのリスクを判断する指標になるのではないかと考えられています。健常な高齢者のほとんどがカレーのにおいがわかるのに対して、MCIの方のうち約30%、アルツハイマー型認知症の方のうち約65%の方は、カレーのにおいがわからないという結果があります。
2. 鼻の健康を守るために
嗅覚を維持することがフレイルやサルコペニアの予防につながると考えます。
嗅覚を低下させる危険因子として、喫煙や動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病があります。バランスの良い食生活や適度な運動はやはり大切ですね。
禁煙したり、1週間に3回以上運動したりすることが、嗅覚低下を予防するという報告もあります。
そして、日頃から「何のにおいか」と意識して嗅ぐことも大切です。新型コロナウイルス感染症の後遺症で嗅覚障害に陥った友人は、数種類のエッセンシャルオイルのにおいを朝晩嗅ぎ続けて、徐々に嗅覚が改善していったと話していました。
「におい」の脳トレーニングとしても注目されています。食べ物や草花など身の回りの「におい」を何のにおいか意識しながら嗅ぐ訓練をします。例えば、仕事の合間にも「コーヒーのいい香り」と思いながら嗅ぐなど、いろいろな「におい」を嗅ぐことを習慣づけてみてください。
その他、鼻がつまっているのでなければ、鼻を温めることで解消できることもあります。
鼻がつまる理由は鼻の中の粘膜が炎症を起こしてうっ血している場合が多いので、温めたり刺激したりして、交感神経を刺激することでうっ血を解消するというものです。
お風呂の温度より少し高いぐらいのお湯にタオルを浸し、絞ってから鼻に当ててみてください。
脇の下を刺激するという方法も効果があります。つまっている鼻と反対側の脇に10~20秒握りこぶしを挟む、または500mlのペットボトルを挟む、などの方法があります。ポイントは、つまっている鼻と反対側の脇の下に挟むことです。
3. まとめ
今回は、加齢による「鼻」の変化として、次の3点について、お伝えしました
- カレーのにおいを感じられなくなってきたら、嗅覚が低下してきているサインです。
- 嗅覚が低下すると、風味を感じにくくなり、生活習慣病やフレイル、サルコペニアにつながる可能性があります。耳鼻咽喉科を受診して、見てもらいましょう。
- 身の回りの「におい」を意識することは、嗅覚を維持し、脳トレーニングとしても効果があります
日ごろから、日常生活で感じられるにおいを意識して過ごすことで、豊かな生活を送りつづられるとうれしいです。
次の記事《最終回》
看護師が解説!高齢者の老化について⑤加齢による「手足指先」の変化とつきあい方
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この記事を書いた人
ヤマダ カオリ
〈プロフィール〉
親に勧められ、自分が希望する心理学への道をあきらめ、看護学校に入学し、病院に就職する。周りの同期のように看護が楽しいと感じられず、私のしたいこととは違うと思い続け、「看護師は向いていない」と悩みながら3年間 病院で勤務後、退職する。事務職に転職しようとパソコンや簿記を学ぶが、25歳では事務職への転職は難しく、生活のために看護師に復帰する。
復帰後はマンネリ化した機能別業務に、再度「看護師は向いていない」と感じる日々が続いていた頃、関連病院で病床数増床のため看護師を募集していることを知り、心機一転すれば看護の楽しさがわかるのではと思い、異動を希望し、上京する。上京した病院で、自宅で最期を迎えたいと希望する患者や家族への退院指導の難しさと充実感を知り、新人教育担当として新人看護師が日々成長していく姿に励まされ、5S活動やQCサークル活動を通じて業務改善に手ごたえを感じるなど、看護師を続けたいと思えるようになった。それからは、自分の興味の赴くままに学びを深め、特に認知症に関する知識や技術を身につけ、「その人の行動の意味することは何か、生活歴を通して気づく看護の楽しさ」を伝えたいと思うようになった。
現在は、「看護が楽しい」と感じる仲間を増やしたくて、看護学校で看護教員をしている。
〈経歴〉
看護師経験 32年(内分泌代謝・循環器内科病棟、外科混合病棟、高齢者施設で勤務)
看護教員養成研修 修了
認定看護師教育課程(認知症看護) 修了
医療安全管理者養成研修 修了
認定看護管理者制度 ファーストレベル・セカンドレベル教育課程 修了
〈講座〉
認知症ケアに関する講座 多数
未来をつくるkaigoカフェ 「つづけるカフェ」隔月開催(現在休止中)