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高齢者の虚弱②高齢者にフレイル予防が必要なのはなぜ?

加齢に伴う心身の生理的な衰えであるフレイルは、病気と健康の間の状態と言えます。

いくつになっても健康で自分らしく暮らしたいというのは多くの方の願いだと思いますが、歳を重ねればフレイルになるのは仕方ないことなのでしょうか。

高齢になっても健康な状態で生活し続けるためのポイントは、フレイル予防とフレイルからの早期回復です。
その理由について深く掘り下げてみましょう。 

この記事の目次

1.フレイルからの回復はむずかしい

フレイルは、病気と健康の間の状態であり、要介護状態の前段階にあるとも言えます。

フレイルになると健康な状態に回復するよりも、要介護や入院・入所、ひいては死に至る割合が格段に高まることがわかっています。

フレイルの人の、5年後の変化について調べた研究があります。
1科学研究助成事業 研究成果報告書

2012年に65歳以上だった男女2206人を対象に、5年後の2017年の健康状態はどのように変化したのか調査されました。

2012年時点で健康だった人のうち、2017年に入院・入所、要介護になった人の割合は全体の5.2%、死亡は5.4%でした。

一方で、2012年時点でフレイルだった人のうち、入院・入所、要介護になった割合は22.6%、死亡にいたっては35.4%と、大幅に増加していたことがわかりました。

ちなみにフレイル前段階のプレフレイルの人が、入院・入所、要介護になった割合は11.8%、死亡は15.2%でした。

2.さまざまなきっかけで起こるフレイル

別の見方をしてみましょう。2012年に健康だった人は、半数近い44.9%が健康状態を維持しています。

プレフレイルでも、35.7%が現状を維持し、13.7%は健康を取り戻しています。

しかし、フレイルの人のうち現状維持できていたのはわずか13.7%でした。

10.3%は回復していましたが、プレフレイル止まりで健康の回復には至っていません。

このようにフレイルになってしまうと、体調を崩して入院する、あるいは要介護になって入所するリスクが急激に高くなり、健康への回復が望みにくくなります。

元気に長生きを目指すのであれば、健康状態を維持向上させる、少なくともプレフレイルの間に健康を回復する必要があるといえます。

2012年フレイルの状況別に見た2017年の状況

科学研究費助成事業 研究成果報告書

フレイルについて

平成28年度厚生労働省白書 第2節 健康づくり・疾病等の予防の取組み【図表4-2-19】

加齢にともなう自然な身体の変化は、いろいろな機能の衰えとして現れます。

食が細くなり、栄養不足の状態(低栄養)になりやすくなります。
これまでのように食べていても、栄養素が十分吸収されないため体重が減ってしまうこともあります。

すると病気にかかりやすく、また回復するのにも時間がかかります。
持病があると、なおさら身体的側面への影響は強くなります。

体力がなくなり足腰も弱くなると、外出の機会が減り、転倒することが多くなります。
栄養状態が悪いと骨の強度も下がるため、転倒すると容易に骨折します。

認知機能の低下や精神的な落ち込みにより、外出も含め活動の機会が減ると、お腹が減らないのでますます食は細くなっていきます。

独居など社会との繋がりが薄れることでも、外出機会は減ることが推測されます。

このようにフレイルは、それぞれの側面が複雑に絡み影響し合っているのです。

3.  フレイルサイクルについて

食が細くなるなどから起こる低栄養状態は、骨格筋の減少(サルコペニア)を引き起こします。

筋力は低下し、ちょっとしたことでも疲れやすくなります。
生命を維持するために最低限必要なエネルギー(基礎代謝)量も低下します。

筋力の低下や疲れやすさは、活動意欲を低下させ、ますます身体は動きにくくなります。
活動量が低下するためお腹は減らず、食事摂取量が減るので、さらなる低栄養につながります。

基礎代謝量の減少によっても、生きるためのエネルギー消費が減っているので、お腹は減らず、同じように低栄養につながります。

このようにして慢性的な低栄養になる悪循環ができ上がると、いずれ体調を崩して病気や要介護状態になるのです。

この悪循環をフレイルサイクルと呼びます。

フレイルサイクル

4.社会参加の減少はフレイルの入り口

フレイルのきっかけともいえる低栄養は、加齢などによる身体的変化だけが原因とは限りません。

身体的側面からはフレイルに該当しない高齢者、1,226名を4年間追跡調査した研究があります。
2)フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ

調査の結果、独居、外出頻度の減少、他者との会話の減少など社会的側面でのフレイルが疑われる人は、4年後身体的フレイルになるリスクが約4倍であるとわかりました。

つまり、社会参加の機会が減ることで、身体的変化を進行させるきっかけになるのです。

社会性の低下からはじまる負の連鎖はフレイル・ドミノとも言われ、身体的、精神・心理的フレイルの入り口といわれています。

フレイルドミノ

厚生労働省「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」

5.フレイルに早く気づこう

フレイルは早期に悪循環を断ち切ることで、健康を回復する可能性を秘めています。

早い時期に気づくためのフレイルチェックのひとつに、基本チェックリストがあります。

暮らしぶり、運動器官系、栄養・口腔機能等との関係、こころ、などに関する質問25項目に、はい・いいえで答えます。

8個以上該当すると、フレイルと判定されます

また項目ごとの結果次第では、市町村の介護予防事業を利用できるものがあります。
一度チェックしてみてはいかがでしょうか?

【フレイルチェックリスト】

6.まとめ

フレイルはさまざまな原因から低栄養になることで、進行します。
そして重度化するに従って、健康な状態への回復が難しくなります。

健康で暮らし続けるためには、現在の健康を維持することと、プレフレイルの段階で早期に発見し対策をとることが重要です。

今、みなさんにはフレイルの心配がありませんか?

季節の変わり目などに、基本チェックリストを用いて定期的に確認してみるのはいかがでしょう。

次回からはフレイル予防のための具体的な対策について、運動編・栄養編・社会参加編と3回に分けてお伝えします。

引用・参考資料
科学研究費助成事業 期間番号82674 研究成果報告書
長寿科学業績集フレイル予防・対策:基礎から臨床、そして地域へ
フレイルチェック(基本チェックリスト)


この記事を書いた人

看護師:青木容子 看護師経験30年 (病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など) 現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。 紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

看護師:青木 容子
〈プロフィール〉

看護師経験30年

(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)

現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。

紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

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