これまでの「不眠症」シリーズでは、生活習慣をととのえることで快眠をめざす方法についてお伝えしてきました。
前回の記事
看護師が優しく教える 不眠症④眠れない夜の過ごし方
「眠りたいのに眠れない」 「寝ようとすればするほど考え事が浮かんでくる」 床に入ってもなかなか寝付けず、辛い夜を過ごしている方も多いと思います。 前回の記事「体…
しかし、それでも眠れずに辛い日々を送っている方もいらっしゃることでしょう。不眠を長期化させてしまうと、心とからだに新たな不調をもたらします。
その前に、思い切って病院を受診・相談し、薬の利用を考えてみてはいかがでしょうか。
この記事では、薬を検討している方へ向けて「不眠症の薬との上手な付き合い方」についてお伝えしていきます。
この記事の目次
1. 「眠れない」はどこで相談できる?
眠れないとき「どこを受診したらよいか分からないわ」
という方は多いかもしれません。
病院に相談するメリットとして、医師はあなたの症状や生活環境を詳しく聞き、病歴を確認することで、不眠症の原因を特定し、適切な治療法を提案してくれる可能性があります。
これといった不眠の原因が思い当たらない時は、かかりつけの医師や一般内科・総合内科の医療機関に相談してみましょう。
また、心療内科や精神科、女性外来や婦人科、漢方外来も不眠は得意分野です。
睡眠に特化した睡眠専門のクリニックや専門外来も有効な選択肢です。
不眠の原因がはっきりしている場合には、その治療を行う診療科が適しています。
例えば、アトピー性皮膚炎でかゆくて眠れないときは皮膚科、トイレが近くて眠れないときは泌尿器科や女性外来に相談するとよいでしょう。
さらに不眠は心理的な側面も重要な要素です。
心理療法や認知行動療法を提供する専門施設とへの相談も効果的です。
これらのアプローチは、不眠症になった根本的な原因やメンタルヘルスをサポートしながら、薬を組み合わせたより効果的な治療を提供してくれます。
薬を使うことが怖いなと感じる方も多いと思います。
薬は正しい知識をもったうえで、適切に使っていくことが大切です。
そのためには、専門家の力を得ながら上手に薬を活用し「眠れた」という経験を積んでいきましょう。
2. 薬の効果と副作用について
睡眠薬には効果と同時に様々な副作用もあります。
- 睡眠薬の効果について
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睡眠薬は作用機序や作用時間などにより様々な種類があります。
効果としては、主に脳内の神経伝達物質に作用して、眠気をもたらしたり、筋肉をゆるめたり、緊張や不安を和らげたりして、睡眠を促します。
- 副作用について
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副作用の程度には個人差がありますが、筋肉をゆるめる作用により、就寝前や中途覚醒時のふらつきや転倒のリスクがあります。また、作用が長く続くことで、日中の眠気、注意力の低下、運転時の事故なども起こっています。さらに、強い催眠作用で記憶が一時的に飛ぶ健忘や、薬がないと眠れなくなるなどの依存性も確認されています。
近年では副作用の少ない新たな作用機序の薬も出てきていますが、副作用が全くなくなったわけではありません。
不眠症の薬と上手に付き合うためには、用法や使用期間を守ること、また、効果や副作用を確認しながら、医師や薬剤師との密なコミュニケーションをとることが大切です。
3. 薬の減らし方、やめ方について
不眠症の薬には依存性が伴うことがあり、急激な中止は離脱症状を引き起こす可能性があります。
離脱症状とは、薬を飲まないことで眠れるか不安になったり、不安やイライラなどの精神症状の他、頭痛や動悸、ふるえなどの身体症状が現れます。
ただ、やめ方を工夫すれば、こうした問題は過度に心配することはありません。
睡眠薬は徐々にやめることが重要で、作用時間が長い薬は服用間隔を1日おきに減らす、作用時間が短い薬は飲む量を半分ずつ減らすなど、薬の種類やその人の状態によって、効果的な減量方法を判断していきます。
薬の減らし方ややめ方については慎重なアプローチが必要です。
自己判断せずに医師と相談しながら進めていきましょう。
そもそも睡眠薬をやめることについての考え方はさまざまです。
若い人が睡眠薬を長期にわたってたくさん飲むのは避けたほうがよいのですが、80歳を過ぎた人が決められた量を飲むことでぐっすり眠って元気に過ごせるなら、わざわざやめなくてもいい、という考え方もあります。
「何が何でも薬をやめなければいけない」という思い込みが自分を追い詰めることのないよう、睡眠薬との上手な付き合い方を身につけていくことも必要です。
4. 不眠症の改善に大切なこと
ここまでは不眠症の薬と上手に付き合う方法についてお伝えしてきましたが、不眠症の改善には薬以外でも、心身の総合的なアプローチが必要不可欠です。
体内時計を整えるための規則正しい習慣や、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、リラックスするための入眠ルーティンなど、日常の過ごし方が大切です。
また、眠れない自分を責めることはやめましょう。
自分の睡眠を「これでいいじゃない」と肯定しながら、眠くなったら寝ればいい、昼寝してもいいと、力を抜いた姿勢がとても大切になってきます。
シリーズ1~4をご覧になりながら、自分に合った心地よい睡眠スタイルを見つけていただけたら幸いです。
5. まとめ
不眠症の薬と上手に付き合うためには、薬の正しい知識を得ることが大切です。
自分がどんな症状で困っているのか、またその症状改善のためにどんな作用の薬を使っているのかをしっかり確認してください。
そのうえで、効果や副作用を観察しながら、医師と密なコミュニケーションをはかっていきましょう。
また、薬の減らし方ややめ方についても自己判断はせず、医師と連携していきましょう。
不眠症の悩みは千差万別、改善方法も人それぞれです。あなた自身が主体的にに取り組み、自分の心とからだに心地良い睡眠スタイルを築いていきましょう。
【参考】
睡眠薬適正使用ガイドライン 睡眠学会
図解ですぐわかる睡眠薬 宇田川久美子 河出書房新社
眠れなくてつらい!を解決する本 対馬ルリ子 小学館
この記事を書いた人
安富由紀子
<プロフィール>
看護師・保健師として、何千人という生活習慣病やその予備軍と診断された方の保健指導や健康教育に携わる。その中で心身共に健康であるためには、「自分が大切にしていることを知ること」「なりたい自分に向かうこと」が重要であることに気が付く。
現在では「健幸ビジョンコンサルタント」として既存の医療では解決できなかった“心から健康で幸せになる方法”を社会に啓蒙するため、個人や企業での健康相談、研修、コンサルティングを行っている。
<クレド>
①指導をしない
②徹底した対話と、感情や意思を引き出す関わり
③クライアント自身の思考や情報取得を尊重して主体性を育む関わり
<経歴>
看護師・保健師 専門は生活習慣病予防
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
(一社)日本看護コーチ協会 認定看護コーチ
<講座・執筆>
・治療選択ワークショップ主催・講師(株式会社ぷれしゃす様 )
「もしもあなたが乳がんになったら」
・エンディングノート作成講座・講師(株式会社ウィシュレーン様)
「延命治療、あなたの意志の伝え方~家族に重圧を残さないために」
・ウェルネス講座 講師(一般社団法人日本ナースオーブ様)