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看護師がわかりやすく解説! 精神疾患③ 精神疾患をもつ方とのコミュニケーション
精神疾患を持つ方の関わり方について困ったことがある、または悩んでいる方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。 精神疾患をもつ方は人との関わり合いやコミュニケーシ…
精神疾患をもつ方のご家族は、疾患をもつ方の生活を日々サポートしています。
長期間のサポートで、心身の疲労や今後の不安を感じているご家族もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、ご家族が抱える問題について解決方法をお伝えし、ご家族と精神疾患をもつ方が安心した生活ができる情報についてお伝えします。
この記事の目次
1.はじめに
精神疾患の治療期間は長期に渡ることが多く、支えるご家族まで心身ともに疲れ果て、結果として精神疾患をもつ方と共倒れしてしまうことがあります。
ご家族が共倒れしないためには、精神疾患をもつ方との距離感を保つこと、ご家族だけで抱え込まずに相談できる場を作ることが大切です。
2.ご家族が抱える問題
大阪市立大学の「精神疾患患者の生活上の困難さに関する研究」や、日本精神保健福祉協会の「精神障害者と家族の関係」を参考に、精神疾患をもつ方のご家族が抱える問題を以下の4つにまとめました。
①自分を責めてしまう
②孤立してしまう
③将来に不安がある
④心と体が疲れている
①自分を責めてしまう
精神疾患の発病の原因は家族にあるとは言われていません。
しかし、「自分の育て方が悪かったのではないか」と、病気の原因は自分にあるとして、ご自身を責めるご家族もいらっしゃいます。
精神疾患に対する知識をあまり持っていないご家族にとっては、精神疾患をもつ方を心配するのと同時に、自分を責め、苦しい立場に立たされることがあります。
②孤立してしまう
多くの人は、メンタルヘルスについて詳しい知識をもたないまま、社会の中で生活しています。
精神疾患をあまり知らない人に精神疾患をもっていることを伝えるのは、相手にどう思われるのか不安がありますよね。
しかしその不安によって、ご家族は大変な生活状況や苦しい胸の内を話すことができず、孤立感を感じてしまうことがあります。
また、ご家族自身が「病気になったことを知られたくない」との思いから、精神疾患をもつ方を自宅に抱え込んでしまうことや、地域とのつながりが希薄になることもあるようです。
①と②はどちらも、ご家族だけで問題を抱え込んでしまい、適切な支援に結びつかない状況になる可能性があります。
③将来に不安がある
先にも書いた通り、精神疾患の治療は長期にわたります。
ご家族は年齢を重ねるため、精神疾患をもつ方の生活の支援を続けていけるのか、不安を感じているご家族もいらっしゃるでしょう。
また精神疾患をもつ方が、ご家族から支援を受けられなくなった時にどのように暮らしていくのかを不安に感じているご家族もいらっしゃると思います。
精神疾患をもつ方とご家族は最も身近な存在です。
ご家族は精神疾患をもつ方を人一倍心配し、また愛情もあるため、客観的な視点で対応することは難しいのです。
つまり将来の不安を客観的な視点でサポートする第三者(医療・福祉の専門職、行政・民間のサービス)の導入が解決のカギとなります。
④心と体が疲れている
多くのご家族が自分自身を責めてしまい、孤立感や将来への不安に悩まされ、心が疲れていると考えられます。
精神疾患をもつ方の生活をサポートするために、家事や仕事などで身体的に疲弊しているご家族は少なくありません。
ご家族も精神疾患を持つ方と同じように苦しい思いを抱えています。
ご家族の不安や孤独感、困難さを聴き、理解してもらえる環境やサポートが必要です。
3.ご家族が共倒れしないために
ご家族の抱える問題を4つあげました。
この4つの問題を解決し、ご家族が共倒れしない方法をご紹介します。
①病気の症状や特徴を理解する
精神疾患をもつ方を理解するためには、病気の症状や特徴を理解することが大切です。
そのようにすることで、精神疾患はご家族が発症の原因ではなく、誰にでもなり得る可能性があるとわかり、ご家族自身を責める必要がないこともわかります。
ご自身を責めず、精神疾患をもつ方の体調を確認し、コミュニケーションをとってみませんか。
精神疾患をもつ方とご家族の記事では、「精神疾患の特徴と治療」「体調確認のチェックポイント」「コミュニケーションで心がけたいポイント」についてご紹介しました。
これらのことを理解していると、精神疾患をもつ方の不調に早く気づくことができ、精神疾患をもつ方との会話はスムーズになるため安心した生活につながることをお伝えしています。
精神疾患の症状や特徴を理解することは、ご家族の焦りや不安を和らげます。
②ご家族だけで問題を抱え込まず、医療機関や専門機関に頼る
ご家族だけで問題を抱えると、精神疾患をもつ方との関係が行きづまり、ご家族自身が疲弊するだけではなく、地域社会とのつながりがなくなり孤立してしまいます。
周囲に頼ることが精神疾患をもつ方の病状を安定させ、ご家族の疲労を緩和し、孤立を防ぎます。
ご家族には次のような相談できる場所があります。
・精神科、メンタルクリニック
・カウンセリング
・精神保健福祉センター
・家族会/家族向けコミュニティサイト
詳しい内容については、次の「精神疾患をもつ方とご家族の生活を支える社会資源について」でお伝えします。
③家族は協力者であると理解する
例えば精神疾患をもつ方が、「働いてみたい」と希望したとします。
しかしご家族が「体調を崩すのではないか」、「もう少しよくなってからの方がいいのではないか」という心配は、精神疾患をもつ方の本来の力を発揮することを妨げることもあります。
第三者である専門職は精神疾患をもつ方の体調の判断、体調に合った働く場の判断を、客観的な視点でおこないます。
精神疾患をもつ方の治療や生活の支援は第三者である専門職に任せ、ご家族は最も身近な協力者であると割り切ることも必要です。
協力者とは、「ある目的を達成するのに力を合わせて行動する人」です。
支援者とは、「人の活動を助けたり支えたりする人」です。
現在ご家族は精神疾患をもつ方の生活を整え、安全に過ごせるように支援をしています。
しかし、将来ご家族が支援できなくなると、精神疾患をもつ方は、社会資源を活用し生活することになります。
精神疾患をもつ方が社会資源を活用し生活するために、ご家族が協力できることはたくさんあると思いますが、時に見守ることで精神疾患をもつ方の力が発揮されるのではないでしょうか。
第三者の支援、ご家族の協力、精神疾患をもつ方が力を発揮することで、将来への不安は解消していきます。
④ご家族の心と体の健康を大切にする
精神疾患をもつ方の治療や生活を優先するため、不安や孤独を抱え疲弊し、ご自身の体調を崩してしまうご家族も少なくありません。
ご家族が体調を崩さないようにするには、心と体の健康を大切にする必要があります。
この「ご家族が共倒れしないために」の中で「ご家族だけで問題を抱え込まず、医療機関や専門機関に頼る」、「家族は協力者であると理解する」でお伝えしたように、第三者の支援を受けることや、精神疾患をもつ方を見守ることは、ご家族の苦しい気持ちを楽にし、ご家族の体の負担を減らすことや、ゆとりをもつことにつながります。
ご家族にゆとりがあると家庭内は穏やかになり、ご家族と精神疾患をもつ方それぞれが自分らしい生活を送ることができるようになります。
心と体の健康を大切にするには、周りに頼り、ゆとりをもち、自分らしい生活を送ることが必要です。
4.おわりに
社会資源は精神疾患をもつ方が利用するのは勿論ですが、ご家族の心と体の健康を守るためにも必要です。
精神疾患をもつ方とご家族が現在、そして将来に向け第三者の支援を受け安心した生活を送れるよう活用しましょう。
次回は社会資源について詳しくご説明します。
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この記事を書いた人
清水明日香
プロフィール
看護師経験23年。総合病院(消化器外科・内科、整形外科)、リハビリテーション病院(地域包括支援病棟)、老人施設で勤務。
現在は精神科訪問看護師として月に約100件の訪問をしている。
精神科訪問看護では、薬物療法などの治療が継続して受けられるようにする支援、ご利用者様やご家族の悩みや困りごとを一緒に明確にし、解決する方法を考え、行動できるように支援している。
ウェルネスナースとして女性が健康でいるための情報を発信している。
執筆・講座
「いつも疲れを感じている40代女性がセルフケアを身につけ元気を取り戻すためのお話会」/ウェルネス講座
「自分で心とからだを元気にするためのブログ」/note