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看護師が教える高齢者の食支援①高齢者の食支援とは、どんな支援?
食支援というと、食事(栄養)の支援だけと捉える方もいるかもしれませんが、食支援にはもっと奥深い意味があります。 特に高齢者の場合、生活や健康状態などを支援する…
前回は「高齢者の食支援とは何か」をお伝えしました。
しかしながら、食のための環境を整備したり、疾患を配慮した支援をしても、実際に食べられるお口になっていないと美味しいものを味わうことが難しい場合もあるかもしれません。
ここでは「食べられるお口」について考えてみましょう。
この記事の目次
お口のはたらき
お口のはたらきは、大きくわけると4つあります。
1.食べ物を噛んで味わい飲み込む。
口から食べるということは栄養の補給や健康の維持向上のためにとても大切なことです。
2.呼吸する。
呼吸によって鼻や口から吸いこんだ空気は,気管を通って肺に送られます。
3.会話してコミュニケーションをとる。
舌や唇がバランスよく動くことで会話が成立します。
4.表情をつくる。
口全体の動きで表情がつくられます。歯並びも重要な役わりです。
それでは、このはたらきを維持するために、お口の中は具体的にどのような構造になっていて、どう機能しているのでしょうか。
お口の構造と機能
食べ物を噛んで味わい飲み込む。
食べ物が口まで運ばれると、唇から口に入り、歯で噛みます。
この時、唇がうまく閉じなければ食べたものがお口からこぼれてしまいます。
次に歯で噛むときに唾液腺から唾液が分泌されて噛みやすくなり、口蓋(上あごの部分)と舌で飲み込みやすいように食べ物をまとめていきます。
味覚は舌で感じることができます。
噛む動作の時は咬筋という筋肉と顎骨を使っています。さらに奥歯ですりつぶして、飲み込める状態(食塊)にします。
食塊が形成されると嚥下反射(えんげはんしゃ)が起こり、食塊が喉を通過します。これが嚥下といって飲み込むことです。
これらのどの構造に支障が来ても、私たちは食を楽しむことが難しくなります。
特に高齢者の場合、これらの機能が加齢とともに低下していく可能性があります。
「歳だから仕方ないわ」とあきらめず、異常を感じたら速やかに専門医に相談したほうがよいです。
呼吸する。
お口は鼻とともに呼吸するという重要な役割があります。
人は食べたり話したりするときに呼吸しているのです。
しかしながら鼻呼吸よりも口呼吸する機会が多い人は、口が渇くことにより口腔乾燥症を発症しやすくなり、ウイルスやほこりなどが口腔内に付着しやすくなることで肺炎のリスクも高くなります。
そのため、意識的に口呼吸を避けて鼻呼吸の習慣をもつことが望ましいです。
会話してコミュニケーションをとる。
人は会話を通して自分の思いなどを相手に伝えています。
会話するときに発声する声は、口唇、鼻、舌、口蓋、咽頭、声帯、喉頭、顎、気管といった発声器官によってつくりだされます。
また、会話するときは食べるとき以上に唇や舌、そして顎や頬の筋肉や関節の運動が必要になります。
歯並びも綺麗に発音するために重要な身体の一部です。
声を出して会話することは呼吸機能の向上にも役立ちます。
表情をつくる
表情は、顔の中のいろいろな筋肉(表情筋)でつくられます。
特に口のまわりの筋肉が大きな役割を果たします。
口元の美しさはコミュニケーションを図る上で印象を大きく左右します。
高齢者の場合、入れ歯があるとないとでも大きく表情が変わってきますし、歯並びが悪くても相手の印象が悪くなる場合があります。
円滑にコミュニケーションを図るためにも表情を大切にしたいものです。
「口から食べる」という日常を維持するには
それでは口から食べるという日常を維持するにはどうしたらいいでしょうか
それには、まず自分のお口の状態を知ることが大事です。
そして、改善点があれば対処しましょう。
口唇:
しっかり閉じることができない。また口から食べ物がこぼれる。
頬に食べ物が溜まる。
*こんな症状があれば脳疾患などが疑われるので速やかに専門医に診てもらったほうがいいです
口腔内:
お口の中が渇いている。唇が荒れていて開けにくい。
湿度が低い場合や、水分不足かもしれません。保湿と加湿を心がけましょう。
高齢者の場合、水分不足でお口の中が渇くとウイルスや雑菌も付着しやすいし、唾液も少なくなって食べ物を口の中でまとめることが難しくなる場合もあります。
また、高齢者は脱水になる場合も少なくないので、こまめな水分補給が大切です。
なお、糖尿病や排尿障害や高血圧等のお薬の副作用で喉が渇くこともあります。そんな場合は、かかりつけ医や薬剤師さんに相談してみましょう。
唾液:
唾液が出にくい。口の中がねばつく。口の中が痛い。
口腔乾燥症かもしれません。専門医に相談してみましょう。
口腔外科や耳鼻咽喉科でも相談できる場合があります。
歯:
虫歯がある。
歯が抜けたまま放置してあるなどでかみ合わせが悪い。
歯茎が腫れている。
磨くと出血するなど歯周病の疑いがある。
歯がないけれど義歯を持たない。
義歯があるが合わないからつけていない。
速やかに歯科医に相談しましょう。
口腔ケアができていなかったり、歯周病があると、誤嚥性肺炎のリスクも高くなると言われています。日頃の口腔ケアはとても大切です。
舌:
白くなっている。口臭がある。味がわからない。できものがあって痛い。
舌が白くなっている場合、消化機能が低下していることもありますが、基本的にはケア不足です。
最近では舌のケアができる口腔ケアグッズもたくさんあります。
舌が白くなっていると味覚も落ちてしまいます。
歯科衛生士さんに相談して正しいケアを教えてもらいましょう。
顎:
食べ物が噛みにくい。顎がガクガクいう。噛むと痛い。
顎関節症かもしれません。顎関節症の場合、痛みで食べ物を噛むという動作が困難になります。
耳鼻咽喉科または口腔外科で相談してみましょう。
咽頭や喉頭:
水分でむせる。
固形物でむせる。
食べると痰が絡む。
飲み込みに時間がかかる。
食事中に呼吸が乱れる。
よく微熱が出る。
誤嚥しているかもしれません。問題は誤嚥した時、口腔内の細菌が肺に入ることです。その時に免疫力が低下していたりすると誤嚥性肺炎を招くことがあります。
心当たりがあれば、嚥下機能検査ができる専門医に相談しましょう。
参考:摂食嚥下機能関連医療資源マップ
まとめ
どんなに美味しいものがあっても、「食べられるお口」の機能を維持できていなければ、食べたいものを安全に美味しく食べることが難しくなる場合もあるかもしれません。
皆さんのお口はいかがでしたか。
いつでも何でも美味しいものが食べられることはとても幸せですね。
「口から食べる」ことは健康な人にとっては何気ない日常です。
その何気ない日常をいつまでも維持できるようにしたいものです。
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この記事を書いた人
中村悦子
大学病院での勤務を経て、地元の公立病院で訪問看護に従事しながら地域医療連携室で退院調整に関わる。
病院内のNST(栄養サポートチーム)の立ち上げと同時に、能登NST研究会事務局として活動する。
その後、新設された栄養サポート室の専従看護師として、病院に通院していない住民の皆さんからも「何を食べたらいいかわからない」などの相談を受けるようになり、病院の外で気軽に集えて何でも相談できる居場所を作りたいと考え55歳で退職。
地元のショッピングセンターの中に「一般社団法人みんなの健康サロン海凪(みなぎ)」を立ち上げた。
そこでは、地域栄養ケアを学び、伝え、実践できる環境を作りたいと考え、無料相談以外に指先セルフの血液検査、ワンコインで利用できる日替わりランチを提供する「みんなのカフェわじま」、保険外サービスの訪問看護である有償ボランティアナース「キャンナスわじま」、口腔ケア製品からおむつまで「必要なものを必要なだけお届けする」物販事業などに関わる。
その後、現職場である「社会福祉法人弘和会」で「訪問看護ステーションみなぎ」の管理者となり現在に至る。
社会福祉法人弘和会
訪問看護ステーションみなぎ 管理者
コミュニティナース虹いろケア 管理者
一般社団法人 みんなの健康サロン海凪 理事
キャンナスわじま 代表
さわやか福祉財団 さわやかインストラクター
輪島鳳珠地区保護司
能登町一層協議体委員
輪島市第2層生活支援コーディネーター
介護職員のための医療的ケア研修ならびに指導看護師研修 講師