人気司法書士の村山澄江先生が実際に対応したトラブルケースをモデルに、解決法のヒントをお届けします。
※実際に登場する人物・所属・家族関係などはすべて架空のものです。
「末期がんで余命一年。疎遠の実子ではなく、財産は友人と寄付に回したい…どうすればいいですか?」
70歳の余命一年の方の想い…
「財産は実子ではなく友人・寄附に回したい」
これは、末期がんを患い、余命一年である70歳の男性Dさんからの財産相続についての相談でした。
実の子どもは一人いるものの、絶縁状態。財産は子どもには遺さず、別のところに渡したいと考えているとのこと。
「息子は海外に出てしまったきり、もう30年以上会っていません。息子はそれほどお金に困っている様子もないので、財産はお世話になった友人たちに少し渡して、残りは寄付をしたいんです」と依頼者。
「公正証書遺言」を書き、遺言執行者を決定
残された時間が限られているDさん。
依頼を受け、早速「公正証書遺言」の作成から始めました。
なぜなら、遺言を書かなければ、法定相続人である子どもへすべての財産が自動的に相続されるためです。
相続人以外の人へ財産を残すためには、遺言に明記する必要があります。
遺言は公正証書遺言で確実に残すことがおすすめです。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言のことです。
いわゆる自分で書く自筆証書遺言は、遺言の不備に気付かないまま作成されるケースもあり、わざわざ作成した遺言が無効になってしまう恐れがあります。それを防ぐことができ、確実に遺言を残せるのが、公正証書遺言です。
また今回は「遺言執行者」を決めました。
遺言執行者とは、財産分割について、「友人にお金をいくらあげて、不動産は誰にあげて、残ったものは寄付する」など遺言に書かれた内容を実行する人です。
遺言執行者には、専門家を記載しました。
専門家の中で、引き受けることが多いのは、弁護士や司法書士です。
寄付する先については、医療関連にすることに決まりました。
公正証書遺言を作成後、Dさんは容体が急変し、3週間後に永眠されました。
遺言書が完成したとき、本人は「間に合ってよかった」とおっしゃっていました。
相続人ではない友人に財産を遺すには、きちんと遺言を書く以外に方法がないため、遺言がしっかり書けたことから、安心したのかもしれません。時間を共に過ごした大切な友人だったのでしょう。
Dさん亡き後、財産について、息子から遺留分(いりゅうぶん)の請求等は来ませんでした。遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保するために、兄弟姉妹以外の相続人が、相続財産の一定割合を取得できる権利のことです。
今回のように、相続人ではないけれど、財産を遺したい人がいるというケースほど、公正証書遺言が意味を成します。もしこうしたイレギュラーな遺言、相続を検討しているのなら、生前に早い段階から計画しておく必要があります。
『遠くの親戚より近くの他人』という言葉もありますが、年に1回会えればいいほうという親族よりも、近隣の知人や友人のほうがなにくれとなく気にかけあって助けてくれるということも多いようです。
そのような相手に心ばかりのお礼を遺したいと思っても、事前の準備なしに死後『想い』をかたちとしてお相手に渡すのは難しいものです。
ご自身の財産を、最期までご自身の意向を反映して分割するためにどんな準備が必要なのか?
今のうちにしておくといいことはなんなのか?、ご家族で話し合ってみてください。
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解説してくれたのは司法書士 村山澄江先生
村山澄江(むらやますみえ) 先生 プロフィール
民事信託・成年後見の専門家、司法書士
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
簡裁訴訟代理関係業務認定会員
1979年名古屋生まれ。早稲田大学卒業。
2003年司法書士試験合格。
成年後見の相談者数300件以上。
民事信託と成年後見の専門家として全国でセミナー等行っている。