人気司法書士の村山澄江先生が実際に対応したトラブルケースをモデルに、解決法のヒントをお届けします。
※実際に登場する人物・所属・家族関係などはすべて架空のものです。
「甥や姪が久しぶりに会いに来たと思ったら『お金貸して』。一気に愛情が冷めたので、財産は全額寄付したい。」
この記事の目次
80歳のおひとりさま。財産を甥や姪には遺したくない…
これは、当時80歳になるおひとりさま男性Eさんからの依頼でした。
「兄弟や甥姪など、遠方に親戚はいるのですが、全然、会いに来てくれないんです。新しい布団も買って泊まれるようにしていたのに…。久しぶりに顔を見せに来たと思ったら『数百万円必要だから貸して』という用事だったので、すっかり愛情がなくなりました。兄弟や甥姪には財産を残したくありません」
Eさんは、もともと兄弟との折り合いが悪かったのですが、甥や姪に関してはまるでわが子のように思い、可愛いと思って接していたようです。
ところが、甥と姪が数年前にやっと顔を見せに来たと思ったら“金の無心”だったので、財産を残すのが嫌になったとのこと。
甥や姪のお金の使い道はわかりませんでしたが、数百万円と金額が大きいことから、Eさんは小遣いをあげる気持ちも失せてしまったようです。
公的証書遺言で財産を確実に全額寄付へ
依頼者のEさんには、甥や姪のほかに、自身の兄弟姉妹がいたため、Eさんが亡くなった後は、自動的にそれらの親族が相続人になります。
しかしEさんは、1円たりとも兄弟と甥姪には遺したくないとのことで、すべての財産を寄付することを遺言に記すことにしました。
遺言がない場合、自動的に法律で定められた相続人に相続されてしまうため、全額寄付するためには、その意思を遺言にしっかりと明記する必要があります。
Eさんの場合は子どもがおらず、両親も亡くなっていたため、兄弟姉妹が法定の相続人に当たります。
多額の財産は、Eさんの故郷の自治体と、Eさんがかつて所属していた仕事の団体、自身が納骨される寺などに寄付する旨を、公的証書遺言に記しました。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言のことです。
いわゆる自分で書く自筆証書遺言は、遺言の不備に気付かないまま作成されるケースもあり、わざわざ作成した遺言が無効になってしまう恐れがあります。また、親族が相続争いをして遺言を改ざんするリスクもあります。もっとも、改ざんしたことが分かれば、改ざんした人は相続人から廃除されますが、それらを防ぐことができ、確実に遺言を残せるのが、公正証書遺言です。
配偶者や子、直系尊属だと最低限渡さねばならない「遺留分」がある?
家族に財産を1円も遺さないという遺言書であったとしても、「遺留分(いりゅうぶん)」といって、相続財産の一定割合については、最低限保証される財産を請求する権利が法定相続人に認められています。
しかし、遺留分が認められるのは、兄弟姉妹以外の相続人、と民法に定められています(民法第1028条)。
今回のケースでは遺留分を請求する権利のある人はいませんでした。
Eさん亡き後、遺言執行者である銀行が遺言を執行して、本件は終了しました。
公的証書遺言は、今回のように財産を全額寄付したい際には、有効な遺言手段です。
同様のケースの場合には、検討してみてはいかがでしょうか。
『おひとりさま』のご相談で多いのが、身元保証と、自分に万が一のことがあった時のための死後事務委任です。
最近では、〇〇に寄付したいがどうしたらいいか?という相談も時折見受けられます。
心置きなくフィナーレを迎えるためには何をしておいたらいいか?
どんな選択肢があるのか?
*実務を依頼する場合には、お客様ご了承のうえで有料となります。
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解説してくれたのは司法書士 村山澄江先生
村山澄江(むらやますみえ) 先生 プロフィール
民事信託・成年後見の専門家、司法書士
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
簡裁訴訟代理関係業務認定会員
1979年名古屋生まれ。早稲田大学卒業。
2003年司法書士試験合格。
成年後見の相談者数300件以上。
民事信託と成年後見の専門家として全国でセミナー等行っている。