救急車を呼ぶか呼ばないか迷ったことはありますか?
わたしは訪問看護師として働いている時にありました。
訪問先のご利用者様がいつもと明らかに違う状態で、救急要請が必要かどうか判断を迫られた場面がありました。
結果的には、救急車を呼んで2週間ほど入院されました。
無事に退院されたときは本当に嬉しかったです。
いつもと様子が違う場面に出会うととても緊張します。
それも体調不良や不慮の事故の場合、命に関わるため責任重大です。
医療従事者である自分には、ある程度の訓練と経験があります。
それでもこの時は手が震えていたのを覚えています。
今回のコラムでは、救急車を呼ぶか呼ばないか、迷った時のポイントをお伝えします。
救急車を呼ぶか迷うくらいの緊急時に、少しでも冷静に対応できるように祈っています。
この記事の目次
1. 救急車を呼んだ時の状況とその理由
先述した通り、わたしは救急車を呼ぶかどうか判断に迷った結果、救急要請をしました。
その時の状況は下記の通りでした。
【ご利用者様のプロフィール】
名前:A様
年齢:もうすぐ100歳
性別:女性
住まい:ご自宅でお一人暮らし
既往:喘息、軽度の認知症、高度難聴普段の様子:手すりや杖を使って歩くことができる
【当時の状況】
- いつもは玄関まで出迎えるが、その日はお部屋で横になっていた
- ヒューヒューゼーゼーとした呼吸でベッドにいた
- 体温計38.8℃、SpO2(血中酸素飽和濃度)88-90%
- ベッドからの起き上がりは困難
- 息切れしながら会話可能。意識しっかりしている
- 目に涙を浮かべながら「病院に行きたくない」と言っている
この時のA様を振り返りながら、救急車を呼んだ理由をお伝えします。
(1) お身体の状態
A様はヒューヒューゼーゼーとした呼吸でした。
会話する時も息が切れて肩で呼吸で、いつもと明らかに違う呼吸です。
発熱もあり、SpO2の数値から十分な酸素が取り込められていない状況でした。
そのため、早めに診察を受けた方がいい、緊急性の高い状態だと判断しました。
(2) 社会的な事情
ご高齢の一人暮らしで、ご家族様も近くにお住まいですが仕事中ですぐにかけつけられない状況でした。
呼吸が辛く起き上がることができない状況から、このまま一人で過ごすのは大変危険です。
もしこのままご自宅で過ごすにも何かしらの対策が必要だと判断しました。
(3) A様の気持ち
A様の意思ははっきりされており、「病院に行きたくない」とおっしゃっていました。
入院した時にお部屋から出ないように言われて自由を制限されたことが嫌だったと以前お話しされていました。
A様の最期は自宅で過ごしたいと強い要望があることも知っていたため、即時に救急車を呼ぶという判断ができませんでした。
以上から救急車を呼ぶか呼ばないかを迷いました。
最終的にA様のかかりつけ医に報告し、呼吸状態は緊急性が高く、すぐに治療が必要であることから救急車を呼ぶ運びとなりました。
2. 救急車を呼ぶポイント
A様の事例から、救急車を呼んだ時の状況がおわかりいただけたかと思います。
次に救急車を呼ぶポイントについてお伝えします。
(1) 緊急性が高い症状
消防庁が「救急車利用リーフレット」というものを作成しています。
大人、子供、高齢者の3種類あります。
このリーフレットには救急車を利用する方の想定された状況が書かれています
総務省消防庁 救急車利用マニュアル
あくまでも目安になりますが、30分以内に受診しなければ命に関わるもしくは後遺症になりうる状況かどうかを想定されています。
(2) 症状と事情
そこまで緊急性の高い症状ではなくても救急車を頼らざるを得ない場合もあります。
例えば一人暮らしで腰痛がひどく動けない、道中で頭から血を流している通行人見つけた、かかりつけ医や受診した病院が対応できなかったなどがあります。
命を守るためにも、症状だけではなく事情も加味し救急車を呼ぶこともやむを得ない場合もあります。
(3) 救急車利用を控えてほしい事情
- 交通手段がない
- どこの病院に行けばわからない
- 無料で便利だから
- 困っているから
- 入院予定日なので病院に行きたい
- 病院で長く待つのが面倒
などで救急車を呼んでいる方がいるのも事実です。
税金で運営されている救急車なので、個人的な事情で救急車を呼ぶのは控えていただきたいものです。
こういった方が一定数いるため、救急車の適正利用の呼びかけがされています。
(4) 迷ったら相談する
- 緊急性が高そうに感じるが、実際はどうなんだろうか
- 病院に行く猶予はあるのか
- この状況と事情では救急車の適正利用に該当するのか
救急車を呼ぶか呼ばないかは、命に関わる場合もあるため責任が大きい決断になります。
実際に私自身が救急車を呼んだ時、手と声が震えるくらいに緊張しました。
一人で抱え込まず、家族や周りの人、#7119やかかりつけ医に相談しましょう。
ご自宅での対処で難を逃れることもあれば、すぐに救急車を呼んで大事に至らなかったこともあります。
コラム『病院選び③人には聞きにくい!受診時のポイント』に相談先についてお伝えしていますのでご参照ください。
3. 知っておきたい救急要請の現状
命より大切なものは他にありません。
救急要請によって命が助かるのであれば躊躇わず119番へ連絡しましょう。
ただ、どこでもすぐに救急要請ができる反面、適正利用のお願いもしているのが現状です。
救急要請の現状を知ることで、他人事ではなく自分事として考えていただけると嬉しいです。
(1) 利用者は年々増加している
消防庁の発表では2022年の救急車出動件数は約723万件でした。
10年前の2012年は約580万件で、年々増加し2022年は過去最多の出動件数でした。
救急車を要請してから救急車が現場に到着するまでの平均時間は約9.4分で10年前と比較し約1分遅くなっています。
また、救急車を要請してから患者が病院に到着するまでの平均時間は約42.8分で、同じく10年前と比較し約4分以上も遅くなっています。
出動件数が増えることで救急車が現場に到着するまでの時間や、患者が病院に到着するまでの時間が遅くなっている現状があります。
この結果からも、救急車の適正利用が必要だということが伺えます。
(2) 救急車で搬送された約半数が軽症
2022年消防庁が発表した、救急搬送された方の重症度が発表されています。
軽症(入院加療がない状態) | 44.8% |
中等症(軽症または重症以外の状態) | 45.2% |
重症(3週間以上の入院加療が必要な状態) | 8.5% |
死亡(病院到着時に死亡が確認された状態) | 1.5% |
軽症の方はいろんな状況の方も含まれます。
例えば、骨折などが原因で自力で受診できなかった方や、衰弱して病院に連れていくことができなかった方などが考えられます。
ただ、その半数の中でもご自身で受診していただきたかった方も数多くいるのが現状です。
先述した通り、個人的な事情で救急車を呼ぶ方もいらっしゃいます。
本当に救急車が必要なのかどうか、今一度ご判断いただけると嬉しく思います。
(3) 救急搬送でかかる費用
現在日本では救急車の運用は税金で賄われているため、利用した方は原則無料です。
所説ありますが一部の情報によると、救急車を1回出動するために必要な費用は45.000~70,000円と言われています。
ひとりひとりが救急車を適正利用していると節税にも繋がってきます。
最近のニュースでも救急車有料化が一時話題になりましたが、不適切な利用を抑止するために検討されているのは事実です。
将来、今まで通りいつでもどこでも救急車を呼べるとやはり安心だと思います。
4. まとめ
今回のコラムでは、以下についてご紹介しました。
- 救急車を呼ぶポイント
- 知っておきたい救急搬送の現状
今回で「病院選び」シリーズは一旦完結となります。
受診が必要な時のために備えられるポイントをお伝えしました。
事前の準備と心構えが冷静な判断に繋がります。
皆様のお力になれたらとても嬉しいです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
【参考】
■総務省消防庁 令和5年版 救急救助の現況
■総務省消防庁 救急車利用リーフレット
■政府広報オンライン もしものときの救急車利用法
この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業