膝の違和感やお悩みを抱えている方の中には、下記のような経験がある方も多いのではないでしょうか。
①階段を見ると無意識に手すりを探してしまう
②一段ずつ両足をそろえて上り下りをする(2足1段)
③少しの階数でもエレベーターやエスカレーターを選んでしまう
④自宅でもなるべく階段を使わないように生活動線を変えている
同じ「歩く」という動作なのに、なぜ平地は大丈夫で、階段になると膝がつらくなるのでしょうか。その理由を知るには、まず平地歩行と階段昇降の違いを理解する必要があります。
平地と階段は、膝にとって「別の運動」
平地歩行は、身体を主に「前へ」運ぶ動作です。
一方、階段では前への移動に加えて、上りでは「自分の体重を持ち上げる」、下りでは「下へ落ちていく身体を支える」という大きな負荷が加わります。
さらに階段では、平地よりも膝を深く曲げた状態で体重を支えなければなりません。
膝を曲げて体重を支えるときに重要になるのが、太ももの前側にある「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」です。大腿四頭筋が強く働くと、その力は膝のお皿(膝蓋骨)を介して関節へ伝わります。そのため、階段の昇降は平地歩行よりも膝蓋大腿関節(お皿と太ももの骨の継ぎ目)への力学的な負担が大きくなることが知られています。
「普通に歩けるから、階段も同じようにできるはず」とは限りません。
階段は膝にとって、平地歩行より一段レベルの高い運動なのです。
この記事の目次
なぜ「下り」の方がつらいのか?「上るより、下りの方が怖い」「下りで膝がガクッとしそうになる」
このような声も現場でよく伺います。ここには、筋肉の使い方の明確な違いがあります。
上り(アクセル): 膝や股関節を伸ばしながら、身体を上へグッと押し上げる動作
下り(ブレーキ): 重力で下へ向かう身体が落ちてしまわないよう、ゆっくり制御する動作
下りでは、大腿四頭筋などの筋肉が「引き伸ばされながら力を発揮する」状態になります。これを専門的には「遠心性収縮(エキセントリック収縮)」と呼びます。
階段を下りる動作は、膝を支える筋肉に対して非常に高い制御力を要求します。
そのため、筋力の低下や疲労、関節の動かしにくさがあると、下りで身体をゆっくり支えきれず、「怖い」「膝が抜けそう」「ドンと着地してしまう」といった状態につながりやすくなります。
自分の階段の使い方をチェック
安全に手すりを使える環境で、無理のない範囲でご自身の動作を確認してみましょう。
①膝が内側に入っていないか(ニーイン)
段に足を着いたとき、つま先の向きに対して膝だけが内側へ倒れ込んでいないか確認します。
②身体が左右に大きく揺れていないか
片脚で支える力が不足すると、上半身を左右に大きく振って勢いでカバーしようとすることがあります。
③下りで「ドン」と着地していないか
一段下へ降りるとき、静かに足を着地できていますか?それとも最後に身体が落ちるように着地しているでしょうか。
ご家族に見てもらったり、スマートフォンで動画を撮影してみたりすると、普段は気づかない癖がよく分かります。
あわせて、「上りと下り、どちらのどの瞬間に違和感が出るか」を把握しておくことも、身体の使い方を見直す上で大切な手がかりになります。
「膝だけ」で階段を使わない工夫
階段昇降で膝への負担を減らす基本は、「膝だけに仕事を集中させないこと」です。
上りの意識: 足を段に置いたら、膝だけで持ち上げようとせず、お尻や股関節の力も使って身体全体を運ぶイメージを持ちます。
下りの意識: 身体を一気に落とさず、段の上に残っている側の脚で、ゆっくり身体をエレベーターのように下げていきます。
合言葉は「静かに上り、静かに下りる」。
足音を立てないように意識するだけでも、筋肉で身体をコントロールする感覚がつかみやすくなります。
自宅でできる「ブレーキ動作」の練習
おすすめは、ごく低い段差(玄関の上がりかまちや、安定した踏み台など)を使ったステップダウンの練習です。
(1)壁や手すりにしっかりつかまり、片脚を段の上に残します。
(2)反対側の足を、3〜5秒ほどかけてゆっくりと床へ近づけていきます。
(3)床に「ドン」と落とさず、そっと足を触れさせるのがポイントです。
左右それぞれ5回程度を目安に行います。
※ご注意
膝にズキッとする強い痛みがある場合や、関節に腫れ・熱感がある場合は、セルフチェックや運動は直ちにお控えください。自己判断で無理をせず、まずは整形外科などの医療機関で状態を確認してもらいましょう。
階段を「避ける」から「正しく使える」へ
膝がつらいとき、階段を避けたくなるのはごく自然な反応です。違和感が強い時期に無理をして使う必要はありません。
ただ、「階段をすべて避ける」だけではなく、
・なぜ負担がかかっているのか
・上りと下りでどう身体の使い方が違うのか
・自分の動かし方にどんな癖があるのか
そこに意識を向けてみることで、日常生活の負担を減らすヒントが見えてきます。階段を避ける毎日から、身体の使い方を工夫して「安心して使える階段」へ。日頃の一段一段を、ご自身の身体の状態と上手に向き合うきっかけにしてみてください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の症状については必ず医師にご相談ください。
■ 参考文献
日本整形外科学会「変形性膝関節症」
厚生労働省 e-ヘルスネット「変形性ひざ関節症の人を対象にした標準的な運動プログラム」
この記事を書いた人
■下倉 雄介
施術家歴 16年半以上トレーナー実績 安田大サーカス団長(トライアスロン)、他
2009年4月、ファクトリージャパングループ(FJG)に新卒入社。
カラダファクトリー西新井店を経て、2011年8月、カラダストレッチブランド立ち上げ時に店長となり、その後、支部長として数々のストレッチサロンの運営・研修・開店業務を担当。2016年8月に一度FJGを退職。外部クリニックに勤務し開業に携わる。その後、膝専門クリニックでのケアを担当するなどフリーランスで活動。2021年6月、復職。
営業部エリアマネージャー、部長を経て、現在、社長室「カラダストレッチ」担当部長(現任)
カラダストレッチ