睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が繰り返し停止する疾患です。この症状を放置すると、心血管疾患や糖尿病、高血圧といった深刻な合併症のリスクが高まるため、早期の診断と適切な治療が重要です。この記事では、睡眠時無呼吸症候群の診断方法、治療の選択肢、生活習慣改善のポイントについて詳しく解説します。
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この記事の目次
1.睡眠時無呼吸症候群の診断方法
睡眠時無呼吸症候群の診断には、症状や生活習慣の確認に加え、さまざまな検査が行われます。以下に主な診断方法を紹介します。
(1)問診
診断のための第一歩は、症状や生活習慣の詳細を医師が聞き取る問診です。特に以下の点が重視されます。
- 起床時や日中の眠気、集中力の低下、体調の変化(いつごろから、どの程度)
- 夜間のいびきや呼吸が止まる様子(家族からの情報など)
- 朝の頭痛や喉の乾燥
- 肥満や飲酒・喫煙などの生活習慣
- おもな既往歴(治療中の病気や服薬中の薬など)
- 両親や親戚に睡眠トラブルはないか
本人が自覚していない場合でも、家族が夜間のいびきや呼吸停止に気づいていることがあります。寝ている時の状況を客観的に説明できる人と一緒に受診することが望ましいです。
誰かと一緒に受診することが難しい場合や、1人暮らしの場合などは、寝ている時の様子をビデオで撮影する、音声レコーダーやアプリに記録する方法も有効です。
(2)簡易検査(在宅検査)
問診で睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、在宅でできる簡易検査が実施されることがあります。簡易検査では、専用の装置を用いて以下の項目を測定します。
- 睡眠中の酸素飽和度(血中酸素濃度)
- 呼吸数
- 気流(鼻や口を通る空気の流れ)
この検査は簡便で、初期段階のスクリーニングに適しています。
検査の機会にはいくつか種類がありますが、本体を手首に巻き、指や鼻の下にセンサーをつけるタイプが一般的です。機械をつけて自宅で一晩寝るだけの検査です。
(3)精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査・PSG検査)
簡易検査で睡眠時無呼吸症候群が疑われた場合、より詳細な検査である終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)が行われます。これは、医療機関で一晩泊まり、次の項目を測定する精密検査です。
- 脳波(睡眠の深さを測定)
- 呼吸の状態
- 酸素飽和度
- 心拍数
- 筋電図や眼球の動き
- 胸や腹の動き、体の動き
- いびきや呼吸音
簡易検査より多くのセンサーを体に着けて一晩眠ります。
この検査では無呼吸低呼吸指数(AHI)が算出され、1時間あたりの無呼吸や低呼吸の回数に基づいて重症度が分類されます。
- 軽症:AHIが5~15回/時
- 中等症:AHIが15~30回/時
- 重症:AHIが30回/時以上
以上のような、問診と検査を行った結果を総合して、睡眠時無呼吸症候群の診断が付きます。
2.睡眠時無呼吸症候群の治療方法
睡眠時無呼吸症候群の治療は、症状の重症度や原因によって異なります。以下に、主な治療法と治療法のメリットとデメリットを紹介します。
(1)CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)
中等症から重症の無呼吸症候群に最も効果的とされる治療法がCPAP療法です。CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)装置を用いて、マスクを通じて気道に一定の空気を送り込み、気道の閉塞を防ぎます。寝るときにマスクを装着し、気道が開いた状態を維持します。
メリット:
- 即効性があり、いびきや無呼吸を大幅に改善
- 日中の眠気や集中力低下が緩和
デメリット:
- 装置の装着に慣れるまで時間がかかる
- 定期的な装置のメンテナンスが必要
(2)マウスピース療法
軽症から中等症の患者に適用される治療法です。マウスピースを装着し、下顎を前方に引き出すことで気道を広げます。歯科医師によって患者の口の形に合わせて作られます。
メリット:
- CPAPよりも装置が小型で扱いやすい
- 外出先でも使用しやすい
デメリット:
- 重症の無呼吸症候群には、CPAPほどの効果が期待できない
- 顎や歯への負担がかかる場合がある
- 鼻詰まりがひどい、極端にアゴが小さいなどマウスピースの適用にならない場合もある
(3)手術療法
解剖学的な問題が原因で無呼吸症候群が発生している場合には、外科的手術が選択肢となります。たとえば、扁桃腺肥大の切除や鼻中隔湾曲の修正などが行われます。
メリット:
デメリット:
- 手術リスクが伴う
- 効果が一時的で症状が再燃する場合もある
(4)薬物療法
現在のところ、睡眠時無呼吸症候群を治すための特効薬はありません。しかし、鼻詰まりやアレルギーが症状を悪化させている場合には、それを緩和する薬が処方されることがあります。
3.生活習慣改善による治療
睡眠時無呼吸症候群の多くは、生活習慣の改善によって症状の軽減が期待できます。以下に、効果的なポイントを挙げます。
(1)体重管理
肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大のリスク要因の一つです。体重を減らすことで気道周辺の脂肪が減少し、症状が改善する可能性があります。特にBMIが25以上の場合、減量による効果が顕著です。
(2)アルコールや喫煙の制限
アルコールは筋肉を弛緩させるため、気道が閉塞しやすくなります。また、喫煙は気道の炎症を引き起こし、呼吸を妨げる可能性があります。これらを制限することで症状の軽減が期待できます。
(3)睡眠姿勢の改善
仰向けに寝ると舌が喉の奥に落ち込み、気道を塞ぐ原因となります。横向きで寝ることで気道の閉塞を防ぐことができます。睡眠中に姿勢を保持するための専用枕や体位固定装置を活用するのも有効です。
(4)規則正しい生活習慣
睡眠時間の確保や規則正しい生活リズムを整えることで、睡眠の質を向上させることが期待できます。睡眠不足は睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させるため、適切な睡眠環境を整えることが重要です。
4.まとめ
睡眠時無呼吸症候群の診断方法、治療の選択肢、生活習慣改善のポイントについて解説しました。
診断方法
・問診
・簡易検査(在宅検査)
・精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)
.睡眠時無呼吸症候群の治療方法
・CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)
・マウスピース療法
・手術療法
・薬物療法
生活習慣改善による治療
・体重管理
・アルコールや喫煙の制限
・睡眠姿勢の改善
・規則正しい生活習慣
睡眠時無呼吸症候群は、診断と治療を適切に行うことで大幅な改善が期待できる疾患です。問診や検査で正確な診断を受けることが第一歩であり、CPAP療法や生活習慣改善など、それぞれに適した治療法を選択することが重要です。また、日常生活において体重管理やアルコールの制限などの努力を続けることで、症状の軽減が期待できます。
睡眠時無呼吸症候群を放置すると深刻な健康リスクが伴うため、症状に心当たりがある場合は早めに専門医に相談しましょう。睡眠時無呼吸症候群の診療を受け付けている診療科は、内科・呼吸内科・循環器内科・耳鼻咽喉科・睡眠外来など多岐に渡ります。可能であれば、日本睡眠学会認定の医療機関を受診してください。専門の医療機関では、検査から治療まで一貫して受けることができます。適切な診断と治療により、質の高い睡眠と健康的な生活を取り戻しましょう。
<参考文献>
1.末松義弘(2023)『いびき、無呼吸症候群に殺されない27の方法』中央精版印刷株式会社
2.白濱龍太郎(2019)『こんなに怖い 図解 睡眠時無呼吸症候群』株式会社日東書院本社
3.宮崎泰成、秀松雅之(2018)『いびき!?眠気!?睡眠時無呼吸症を疑ったら 周辺疾患も含めた、検査、診断から治療法までの診療の実践』株式会社羊土社
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。