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僻地医療② 緊急対応を余儀なくされる病状

僻地医療② 緊急対応を余儀なくされる病状

離島、へき地は外科的手術などの専門的な治療をする事が出来ない為、緊急の場合は第一回目の記事、緊急時対応の手段で説明した救急車やドクターヘリで搬送されます。


今回の記事はどのような症状が緊急対応を余儀なくされるのか観察ポイントをお伝えしています。

この記事の目次

1.離島へき地医療の特徴

総合病院などは専門医師がいます。例
えば外科、内科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科、小児科など症状に合わせて受診できます。

しかし、離島、へき地では専門医がいませんので一人の医師、または少数の医師で赤ちゃんから高齢者までを診察する必要があります。

専門医がいないので医師は一人で判断を求められますが、インターネットを介した遠隔支援による専門医からのアドバイスを受けることも出来るようになりました。

重症患者にはヘリコプターなどによる搬送体制が確立されてきている点から、医療体制の整備だけでなく私達患者も医療が受けやすくなってきているように感じます。

しかし、離島、へき地に限った事ではないのですが急な身体の異変は誰だって不安になります。

令和元年度の救急車使用の内訳は急病が65.0%で半分以上を占めています。

急病疾病分類別搬送人員 脳疾患7%、心疾患8.1%、消化器系8.7%、呼吸器系9.7%、精神系3.2%、感覚系4.1%、泌尿器系3.4%

上位4つ

脳疾患7.0%
心疾患等8.1%
消化器系8.7%
呼吸器系9.7%

どんな症状が急を要するのか判断に迷わないために、この内訳ごとに確認していきたいと思います。

2.急を要する症状と観察ポイント

(1)息や胸の苦しさ

息や胸が苦しいという症状は呼吸器系の病気が真っ先に考えられます。もともと喘息がある、または在宅酸素をされている方は息が苦しい時の対応を医師が指示していると思いますので、まずその対処を行い改善しなければ救急車を要請してください。

息や胸が苦しい代表的な病気

呼吸器系の病気循環器系の病気
気道内異物(餅をのどに詰まらせたなど)心不全
COPD(慢性閉塞性肺疾患)弁膜症(心臓の弁に異常がある病気)
喘息先天性心疾患
肺炎虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)
胸膜炎(肺の表面をおおう胸膜の炎症)

救急車要請の観察ポイント

  • 酸素や吸入薬を使用しても息苦しさがある
  • 安静にしても息苦しさが改善しない
  • 唇にチアノーゼが出ている
  • 肩で息をしている
  • 息が出来ない
  • 横になると息が苦しい
  • ゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸をする
  • 異物や食べ物を飲み込んで窒息した疑いがある
  • 変なものを吸い込んだ、または吐いた後やむせた後から息苦しくなっている ☐泡のようなピンク色、または白い痰が沢山出てくる
僻地医療② 緊急対応を余儀なくされる病状

(2)お腹の痛み

お腹が痛いと言っても部位によって考えられる病気は違います。
救急センターで勤務していた時に一番多かったのはお腹の痛みでした。

便秘による痛みや、消化管の穿孔、心筋梗塞や尿管結石など多岐にわたりました。

【お腹の痛みの原因となる主な病気】

消化器系の病気急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、腸閉塞、大腸の炎症
循環器系の病気虚血性肺疾患、大動脈瘤、大動脈解離
泌尿器系の病気腎結石、尿管結石、急性腎盂腎炎、急性膀胱炎
婦人科系の病気子宮内膜症、月経困難症、子宮外妊娠

救急車要請の観察ポイント

  • 突然の激しい痛み
  • 激しい痛みが持続している
  • 高熱を伴う痛み
  • 痛みの後に吐いてしまう
  • 血を吐く
  • 顔面蒼白
僻地医療② 緊急対応を余儀なくされる病状

(3)胸の痛み

胸の痛みで診察室を訪れる最も多い原因は神経痛や筋肉痛、肋軟骨の炎症だそうです。胸の痛みと聞くと命に係わるかもしれないと心配されて受診されるのだと思います。

また、肺や食道などの病気でも症状を伴うこともあります。

胸の痛みの原因となる主な病気

循環器系心筋梗塞、狭心症、急性大動脈解離
呼吸器系肺炎、胸膜炎、自然気胸、肺動脈血栓塞栓症
消化器系逆流性食道炎、急性膵炎、食道破裂

救急車要請の観察ポイント

  • 急に痛くなった
  • 胸の中央が締め付けられる、または圧迫されるような痛みが30分以上続く
  • 背中や胸の裂けるようなひどい痛み
  • 急な息切れ、呼吸困難
  • 胸や背中の痛む箇所が移動する
  • 突然気を失う

(4)脳の血管異常と体の変化

脳の血管異常を脳卒中と言いますが、これは脳梗塞と脳出血を総称した言い方です。

脳の血管異常によって脳細胞が障害を受ける病気

  • 脳梗塞:動脈硬化が進んで脳の血管が詰まる
  • 脳出血:脳の動脈が破れて出血する

脳卒中は治療するうえで時間が勝負となるので、以下の観察がとても大切です。

救急車要請の観察ポイント

「FAST」を活用します。

FASTとは、Face、Arm、Speech、Time 4つの頭文字の略です。

脳卒中の可能性チェックリスト

F
「Face」
顔の麻痺片側の口角だけが上がらない
片側からの口角からよだれが出ている
A
「Arm」
腕の動きの異常両腕を胸の前に上げて時、片側だけ下がる
片側からの口角からよだれが出ている
S
「Speech」
言葉が正常に話せるか呂律が回らない
話し方がぎこちない
言葉・名前がうまく出てこない
周囲の言葉の意味を理解できない
T
「Time」
時間脳卒中の治療は発症後の経過時間によって異なります。
「Face」「Arm」「Speech」の症状に気づいた時間を何時何分ごろと確認しておく。
僻地医療② 緊急対応を余儀なくされる病状 Arm腕を同じ場所で固定はできない Time症状が出た時間を記録してすぐに受診 Face顔がゆかんでうまく笑顔がつくれない Speachうまく話せない

豆知識

脳梗塞であれば発症から4.5時間以内が勝負と言われています。

専門病院まで到着する時間、病院に着いてから診察、検査、診断を行い治療が開始されます。
離島、へき地は搬送時間がかかると思いますので早期の判断が大切になります。

3.事前の備え

救急車を呼ぶ観察ポイントを理解する事も大切ですが、持病の自己管理の方法や予測できる合併症を医師に確認しておくようにしましょう。

例えば高血圧で治療中であればご自身の丁度良い血圧の値がありますし、肺の病気があり在宅酸素を使用されている人は酸素量の調整のタイミングなどを確認しておく必要があります。

他には保険証、お金、靴、普段飲んでいる薬、お薬手帳、乳幼児の場合は母子健康手帳、紙おむつ、哺乳瓶、タオルを準備しておきましょう。

薬のアレルギーの有無、既往歴はお薬手帳に書いておくと便利です。
緊急連絡先も書いておくことをお勧めします。

救急車を要請する時の備えをしておけば、自然災害など緊急事態があった時にも焦らずに持参する事が出来ます。

僻地医療② 緊急対応を余儀なくされる病状

4.おわりに

救急車要請の観察ポイントを書いてきましたが、緊急を要する場合ご本人だけでなく、ご家族も慌ててしまいますよね。

消防庁が症状の緊急度を早く判断するために、全国版救急受診アプリ「Q助(きゅーすけ)」を提供しています。

判断に迷うことも予想される為、事前にインストールされておくのも良いと思います。

また、ご家族で日頃から緊急を要する事が起きた場合を想定し、119番にすぐに連絡できるように確認しあう事も大切です。


この記事を書いた人

看護師:郷堀有里夏

郷堀有里夏

<プロフィール>

看護師経験30年。急性期病棟やICUを10年経験した後、施設看護や訪問看護、ケアマネジャーとして多くの介護を必要とする方々やそのご家族と関わる。

県外で勤務していた頃、母親が介護状態となり地元へ帰省する。

仕事と介護と自分の人生に悩んでいた頃、認知科学を学ぶ。

学びを通してわだかまりのあった親子間や家族間の葛藤を解消し、介護中に修復する事が出来た。そして、母親を施設から引き取り家族と共に在宅看取りを行うことが出来た。

自身の経験を通して、「健やかに自分らしく生きること」や「安心して介護や看取りが行える環境づくり」が重要だと感じ、心の介護専門家として講座やお話会を通じ情報を提供している。

<経歴、職歴>

(一社)日本ナースオーブ所属 Wellnessナース

看護師経験30年(訪問看護管理者、施設看護、介護支援専門員、救急センター、ICU)

保険外自費サポート ひかりハートケア登録ナース

<講座>

親にイライラしない介護コミュニケーション/ウェルネス講座

<その他の活動>

心から看る介護と認知症のお話会

後悔しない親の介護 / ブログ

人生が豊かになる介護メルマガ


著者の Facebook
https://www.facebook.com/yurina.gohori/

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