今までの記事では主に心筋梗塞予防・発症時の対策についてお伝えしました。本記事では、心筋梗塞後の再発予防を主にお伝えします。心筋梗塞予防のために気を付けることと重なっている部分もありますので、合わせてお読みいただければと思います。
第三弾の記事
看護師が解説!心筋梗塞③急性心筋梗塞の起こりやすい症状と対処方法
前回は心筋梗塞の原因と対処方法についてお伝えしました。キーワードが動脈硬化でしたね。 今回は起こりやすい症状と対処方法をお伝えします。一刻も早い治療の必要性と…
この記事の目次
1. 正しく理解しよう、心筋梗塞の再発率
急性心筋梗塞は日本の死因疾患で第2位となっており、年間20万人、心筋梗塞で亡くなる方は約3.5万人と厚生省の「令和2年(2020)患者調査(確定数)」からわかっています。そして再発率が高いのも特徴でしょう。
発症から3年以内の心臓血管に関する何らかの病気の再発率は27%~40%とも言われています。
しかし、日本心臓財団が監修する心筋梗塞再発予防啓発プロジェクトが2019年に行った調査では、再発リスクについて「知らない、分からない」と答えた患者・家族は4割にも上っています。
再発リスクを正しく知ることで、日常生活での予防策も正しく理解できると思います。
2. どうして再発のリスクが高いの?
心筋梗塞を起こした後の心臓はとても弱くなっています。
循環器病棟やICUで心筋梗塞後の患者さんの担当をしていたとき、よく患者さんに「お豆腐のように弱くなっているので安静にしていてください」と説明していました。
一度壊死した心臓の筋肉はもとの状態に戻りにくく脆くなっています。血管の閉塞時間や行った治療にもよりますが、手術後のリハビリは慎重に行います。
心電図モニターをつけながら、まずはベッド周囲、50m歩行、トイレ歩行など段階的に歩行距離を伸ばしていきます。その都度12誘導心電図という胸に6個、両手両足に電極を装着する心電図で歩行前後に心電図に変化があるかないかを確認していきます。
医療者側で問題ないと判断すれば、少しずつ歩く距離を伸ばしたり、心臓に負担がかかるリハビリ(自転車漕ぎなど)を増やしていきます。心筋梗塞で入院をされたことがある方はよくご存じかもしれませんね。
3. 心筋梗塞発症後の2大後遺症
退院後も後遺症のリスクはあります。お豆腐のような状態の心臓がすぐに回復するわけではありません。
脆くなっている心臓が硬くなり収縮力が上がるまでには時間がかかります。また常に後遺症のリスクが存在します。
心筋梗塞発症後の代表的後遺症
- 1. 心不全
-
心筋梗塞で壊死した心臓の筋肉の範囲が広い場合、心臓は血液を送りだすポンプの役割を果たせず血液を送り出せなくなります。その結果、血流が滞る、肺に水がたまる、足がむくむ(体重が増える)、歩行時に息が苦しくなるなどの症状が出現します。
- 2. 不整脈
-
心臓は規則正しいリズムで拍動していますが、そのリズムが不規則になることを不整脈といいます。脈が速くなる・遅くなる・脈が急に飛ぶ(結滞)など不整脈には様々あり、中には致死的(生命に影響を及ぼす)不整脈のリスクもあります。また不整脈は血栓と呼ばれる血液の塊ができることもあります。この血栓が冠動脈と呼ばれる血管の中で詰まると血流が止まり心筋梗塞となります。また閉塞せずとも血管の中が狭くなると狭心症のリスクとなります。
このように壊死した心筋はもとにもどりにくいこと、心筋梗塞後の心臓はとても弱くなっていることから後遺症のリスクがあり、再発リスクが高い病気といえます。しかし日常生活の中で注意をすることで、再発を予防することができます。
4. 心筋梗塞再発を防ぐために行うこと3選
2本目の記事「急性心筋梗塞と対処方法」の” 4. 動脈硬化の原因って?”の章で、動脈硬化の5大因子と対処方法について記載しています。
また、4本目の記事「突然死を防ぐために」の中で、ヒートショックの対策、水分摂取の重要性、発作時の対策についてお伝えしました。本記事と合わせてお読みいただければと思います。
本記事では、運動療法、食事療法、血圧管理の重要性について、日常生活で取り入れやすいことについてお伝えしていきます。
(1) 運動療法
運動療法は、後遺症である不整脈などにつながる交感神経の緊張をゆるめる効果や、心筋梗塞の最大の原因である動脈硬化につながる血管の炎症を改善します。
心臓に負荷をかけることで(運動の目安は必ず医師の指示を仰いでください)日常の動作で起こる息切れや疲れを緩めることができます。また心筋梗塞の要因の1つである高血圧の予防にも効果があると研究が報告されています。
米コネチカット大学運動学分野のLinda Pescatello氏らによる研究では、1日の歩数を3,000歩増やすことで、血圧の低下が認められたということです。
心臓関連の問題を原因とする死亡リスクを16%、心血管疾患の発症リスクを18%減らすと示唆されているようです。
3,000歩の目安として、1,000歩が歩幅や速度によっても異なりますが、距離では600m程、時間にして約10分です。少しお近くのスーパーや近所の公園まで歩行するなど生活の中に取り入れられそうな距離かと思います。
寒い時期は4回目の記事でお伝えしたヒートショックに注意して、コートやマフラーなど暖かい服装で、少しでもストレッチなどして血液循環をよくしてからお出かけください。
(2) 食事療法
日本人は諸外国に比べて塩分を取る傾向にあります。それは日本食にその傾向があります。
日本人の平均塩分摂取量は10.1gです。(令和元年,厚生省 国民健康・栄養調査より)
国は、塩分摂取量を男性7.5g,女性6.5gと定めています。比較すると日本人は平均的に塩分を取りすぎていることがわかります。お漬物やお味噌汁、焼き魚など一般的な和食定番のメニューには塩分が含まれています。
食品名 | 塩分量 |
梅干し1個(10g) | 1.8g |
お味噌汁1杯 | 1.5g |
きんぴらごぼう1皿 | 1.3g |
塩鮭 | 1.4g |
これだけで6gになります。心筋梗塞を代表とする虚血性疾患の方の塩分摂取量は1日6gなので、すでに6g摂取しています。
また外食が普及しているのも塩分過剰摂取の原因といえるでしょう。日本歯科大内科教授/高血圧専門医の渡辺尚彦先生が行った調査によると、外食を「塩辛い」と感じる人の塩分摂取量の平均は7g、「塩辛くはない」と感じる人の平均は14gだったそうです。外食を美味しく感じる人は日頃から塩分を取りすぎていると言えます。1つの目安と言えるでしょう。ではどうすればいいのでしょうか?簡単に減塩できる方法をお伝えします。
減塩できる方法
- お醤油やソースは「かけて食べる」ではなく「つけて食べる」
- お醤油のかわりに「レモン」「すだち」など柑橘系を加える
- ラーメンやうどんを食べる時はスープを残す
- 減塩醤油を利用する(減塩だからとかけすぎないよう注意は必要です)
- とうがらしや胡椒など香辛料で味を調整する
外食を利用する時でも実践できることをあげてみました。
(3) 血圧管理
高血圧管理はとても重要ですが、測定する場所により変化することがあり少々やっかいです。
血圧には「白衣高血圧」と「仮面高血圧」があります。
- 「白衣高血圧」とは診察室など医療現場で測定すると自宅より高い値がでること
- 「仮面高血圧」とは自宅で測定するほうが、診察室や病院で測定するより高い値が出ること
これではどの値が正しいのか把握が難しいですね。
しかも高血圧は別名「サイレントキラー」と呼ばれています。心筋梗塞や脳卒中など生死に関わる疾患を発症してから初めてわかることからそう呼ばれています。医療機器メーカーのオムロンヘルスケア株式会社が2017年に「高血圧に対する意識と行動に関する調査」を1万人対象に行いました。
調査結果は健康診断や人間ドックで3人に1人の割合で”血圧がやや高め”と指摘を受けています。高血圧をなるべく早く発見するには、ご自宅で継続的に測定する方法がよいのではないでしょうか。
上海交通大学(中国)医学部公衆衛生学分野教授のYan Li氏らによる研究で「家庭血圧測定が健康におよぼす影響を調査」をしました。その結果、家庭血圧測定を導入することで、20年間で心筋梗塞の発生が4.9%減少、脳卒中は3.8%減少することが示されました。この調査結果から自宅での継続した血圧管理は心筋梗塞の予防に効果があると理解できます。
5. まとめ
本記事では心筋梗塞後再発のリスク、そのリスクを少しでも予防するために、日常生活で気をつけたいことをまとめました。どれも日常生活で取り入れやすいものを選びました。心筋梗塞を代表とする心血管疾患を予防するにあたっても効果があることですので、ぜひ取り入れてもらえればと思います。
(1)日清オイリオ Webサイト参照
この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」