〈新生児医療〉という言葉を初めて聞いたという人も多いのではないでしょうか。
2015年に綾野剛さん主演の「コウノドリ」というドラマを見て、知ったという方もいるかもしれません。
当時、厚生労働省とタイアップして新生児医療を含む周産期医療をもっと一般の方に知ってもらおうという取り組みが行われていました。
このコラムでは新生児医療とはどういうものか解説していきます。
この記事の目次
1.新生児医療とは?
(1)新生児とは?
新生児とは、生後0日から28日未満の赤ちゃんです。
妊娠37週から妊娠42週未満で生まれた赤ちゃんが正常新生児と言われています。
(2)新生児医療とは?
主に生後28日未満の生まれたばかりの赤ちゃんに対する医療を指します。
生まれて間もない頃にしか起きない特殊な病気や状態を診るのが新生児医療です。
早産児 | 予定より早く生まれる |
低出生体重児 | まだ身体が大きくならないうちに生まれる |
新生児仮死 | 生まれて息が出来ず「おぎゃー」と泣けない |
先天性疾患 | 生まれつき心臓に穴が開いている等 |
(3)新生児医療が行われている場所
・NICU(Neonatal Intensive Care Unit)
日本語では新生児集中治療室と言われています。
NICUは大学病院や大きな総合病院など設置されている病院が限られています。
一派的な病室や集中治療室と比べて、雰囲気は独特です。
窓がなく、暗めの電灯のみであることがあります。
そのため部屋の中は薄暗いです。窓がある場合でも基本的に暗めです。
なぜそうなっているのか、ちゃんとした理由があります。
それはお母さんのお腹の中、つまり子宮の中の再現するためです。
早く生まれた赤ちゃんの血管は繊細で敗れやすく、わずかな光の刺激でも血圧が上がってしまう可能性があります。血圧が上がることによって、血管が破れて出血してしまうリスクがあるため細心の注意を払っています。
医師や看護師たちは、赤ちゃんの近くでは小さい声で話をしています。
心電図や点滴の機械のアラームが良くなりますが、鳴ったら飛んでいきすぐに消します。
赤ちゃんにとってのベッドは保育器になり、NICUの保育器は形が特殊です。
早産児や低出生体重児などの未熟児だと体温を維持する力がとても弱いです。
そのため外気に触れているとあっという間に低体温になってしまいます。冷たい空気にさらされず、一定の気温が維持された空間が必要であるために赤ちゃんの周りを覆うような箱型です。
また保育器には穴が空いており、そこから手を入れて医療的なことをしたり、オムツを替えたり、ミルクをあげたりします。
・GUU(Growing Care Unit)
病院によって、呼称が違う場合もありますが新生児回復治療室と言われています。
NICUで治療を受けて、状態が安定してきて少しずつ退院を見据えることが出来るようになった赤ちゃんが移動してきます。基本的にNICUのすぐ隣にあることが多いです。
NICUと比べると、窓があり明るい雰囲気です。保育器も周りを覆っているような箱型ではなく、小さめのベビーベットのような保育器に変わります。少しずつ、お母さんの子宮の外の環境を意識して、朝や夜の感覚を取り入れていきます。
(5)産科と密接な連携がある
最新の病院だと産科の分娩室にモニターがあり、NICU・GCUからお産がどんな状況か確認出来ます。
産科とNICU・GCU直通のエレベーターがあることもあります。
早産などのリスクが高い妊婦さんが産科には入院しており、赤ちゃんをいつでも受け入れる体制を取っているためです。
2.新生児期はとても特殊
医師や看護師が見ている大きなポイント、それは赤ちゃんが“外の世界に適応出来ているかどうか”です。
お母さんのお腹の中にいる状態を“胎児”と言い、生まれると“新生児”つまり赤ちゃんという状態になります。
白から黒になるような真反対の状態になるようなとてもダイナミックな出来事です。
(1) 生まれて初めての呼吸
生まれるまでお母さんの子宮の中にて、この時点では赤ちゃんは“胎児”という状態です。
そこでは赤ちゃんは羊水という水の中で浮かんでいる状態のため、肺呼吸をしていません。
酸素は胎盤を通して受け取り、二酸化炭素は胎盤を通してお母さんに戻されます。
赤ちゃんは生まれてから初めて呼吸ということをします。
初めてだったり、慣れていなかったりすると上手く出来ないという経験をしたことはありませんか?
生まれてからまだ間もない赤ちゃんは呼吸をするのも初めてで、慣れていません。
大人が当たり前にしている呼吸も赤ちゃんにとっては一苦労です。
NICUからGCUに移動して、落ち着いてきた赤ちゃんの中にはうっかりと呼吸することを止めてしまう子がいます。そんな時は「呼吸止めないで~」と思いながら足をくすぐったり、身体に刺激を与えてあげたりすると「ハッ」と気づいて呼吸を再開してくれます。
(2)自分でミルクを飲んで、おしっこやうんちを出すこと
酸素と二酸化炭素の時と同じで、胎盤を通してお母さんから栄養をもらい、不要な排泄物をお母さんへ戻しています。
生まれると、自分でミルクを飲み、おしっことうんちを出さなくてはなりません。
(3)自分で体温調整
子宮の中は菌がいない、無菌状態です。
そして37℃くらいの温度が一定に保たれています。
生まれたら、免疫や体温調整を自分で行っていかなくてはなりません。
3.あえてうつ伏せ寝をさせることもある
この文章を読んで違和感を持たれた方も多いかもしれません。
子どもと関わる仕事をされている方は特にそうでしょう。子どものうつぶせ寝はSIDS(乳幼児突然死症候群)を引き起こすとされて、アメリカの小児科学会ではうつ伏せ寝を見かけたら仰向けにした方が良いとするガイドラインを出しています。
赤ちゃんにとって、一番安心出来る空間は“お母さんの子宮の中”です。
子宮の中では、身体を丸めて縮こまらせているような状態です。その状態を再現させるためにうつ伏せ寝をさせることがあります。
NICUやGCUで赤ちゃんをうつ伏せ寝させる時は最新の注意を払っています。
心電図やパルスオキシメーター、保育器には呼吸センサーもついて何かあった時にすぐに分かるようにして、常に数名の看護師が近くいるからこそ出来ることです。
4.小児科との役割の違い
新生児医療は生後28日以内の新生児を対象にしています。
妊娠から37週になると身体の機能が出来上がり、子宮の外でも生きられるようになりますが37週未満だと身体の機能が未熟なままで生まれてきます。NICU・GCUでは室内環境を子宮の中になるべく近づけて、赤ちゃん達の身体の機能が完成するまで見守ります。
NICU・GCUを退院したら基本的にNICU・GCUへ戻ることはありません。小児科へバトンタッチしていくことになります
5.まとめ
“生まれた”という状態をよく考えてみると、とてつもない変化が起きています。
早産児や低出生体重児などの赤ちゃん達は、自分の力だけでは生きることが出来ません。
新生児医療は赤ちゃん達が自分の力で生きて、健やかに成長していけるようにバトンを繋いでいく場所です。
次回のコラムでは〈新生児の体の特徴 ~乳幼児、幼児との違い~〉について、新生児の体の特徴を少し深堀してお伝えしていきます。
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会 | 新生児認定施設一覧(2024年4月25日現在)
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この記事を書いた人
山本みどり
【プロフィール】
看護師経験。大学病院のNICU(新生児集中治療室)で勤務後、精神科、訪問看護を経験。
現在は小児発達ケア専門訪問看護ステーションで発達障がいと診断された子どもやそのご家族へ小児発達ケアを行っている。発達ケアを通して、子どもとご家族が安心して過ごせるように支援をしている。
食から身体のことを整えたいと思い、プライベートでは中医学・薬膳を学んでいる。
【経歴】
看護師/Webライター
看護師歴6年 NICU、精神科、訪問看護(成人・精神特化・小児発達ケア)
家政婦やベビーシッターとしても働いている