治療やリハビリが進むと退院の話がでてきます。
病院は治療が目的なので、いつまでも入院することはできません。入院から退院までは病床によって期間に差はあれど、いつかは訪れる出来事です。
退院の話がでたときに慌てないためにも、どんな準備が必要かを考えてみましょう。
この記事の目次
なぜ急性期病院に退院まで長く入院できないの?
現在、国の制度で病院ごとに治療を行う役割分担がされており、病気により治療の入院期間が決められている場合がほとんどです。
そのため、例えば、脳梗塞で急性期病院に入院した場合、一定期間が経つとリハビリテーションを専門で行う病院などに転院することになります。
その後、病状に応じて、介護サービスを受けながら在宅療養を行うのです。
理想は入院前と同じ心身の状態で退院することが望ましいのですが、現実は思うようにはいきません。
また、患者さんやご家族が、退院後の生活に不安を抱えて、誰にも相談できずに悩み、退院に二の足を踏むケースもよくありました。
そのため、最近では国の方針として、入院時より退院後の在宅療養の相談をしながら治療を進めていく病院が増えてきています。
「脳梗塞で入院したばかりなのに、なぜ次の病院への転院や在宅療養の話をするのか?」と腹立たしく思うこともあるでしょうが、「急性期病院に長くいるよりも、しっかりリハビリを受けられる病院に転院することで、機能障害がより改善し自宅で生活し易くなる」と前向きに考えてみましょう。
退院後の生活を想像してみる
今まで通りの生活は難しいという前提で、退院にむけての準備をしてきます。
まずは、事前に不安の原因を整理して、心配事の解決方法を考えてみましょう。
心配事の内容は、個人ごとに異なります。患者さん本人やご家族にとって、「何が不安なのか?」を明確にしてみましょう。
次の項目で確認しながら、退院後の暮らしをイメージしてみてください。
気になる項目があればチェックして、担当看護師に相談し、問題を解決しておきましょう。
自宅療養の準備状況が不安であれば、退院前や退院直後に担当看護師や病気の専門の看護師、退院調整看護師などが自宅まで訪問し、在宅療養を支援してくれる病院も増えています。
気軽に担当看護師に相談してみてください。
① 日常生活(食事・水分摂取)
- 食事の準備や片づけ
- 栄養や水分の摂取の判断
- 食事の方法
② 日常生活(身だしなみ)
- 入浴や清潔を保つ動作
- 着替え
- 排せつ、排便、オムツの取り扱い
- 掃除や洗濯
③ 日常生活(安全性)
④ 外出
⑤ 住居の状況
- 階段や段差
- 手すりの有無
- トイレや浴室の広さ、危険度
- 起床動作(ベッド、布団)
- 室内移動の手段
- 座位の保持
⑥ 医療
家族の支援と生活リズム
入院中は食事や入浴、就寝時間など決められたルールの中で生活をしてきました。
窮屈ではありましたが、病院側で最適な対応をしてくれるので精神的な安心面は保てたのではないでしょうか。
退院後は、制約がなくなり自由な生活になりますが、自己管理も必要になってきます。
徐々に生活リズムを整えていきましょう。
また、高齢の親が独居、老々介護などの場合、食事の準備や介助は?入浴の介助は?排せつの介助は?その他生活の支援に家族のサポートが必要になる場合も出てきます。
身内の誰がどれだけ、何に関われるのか、今後どのように在宅での生活をしていくのか、必要に応じて検討していきます。また、病状により自立歩行できた人が退院時は車いすが必要、ということも考えられます。
住居がエレベータのない2階以上の場合などそのまま在宅での生活が可能なのかということも判断しなければなりません。
その際は介護施設も視野に入れてみてください。
必要であれば介護保険を申請する
自宅に戻って介護サービスを利用するには、介護保険で要介護認定を受けていることが条件となります。
退院後に介護保険の利用を希望するのであれば入院中に申請を行います。
介護保険の申請は介護保険を受けたい人が住んでいる市区町村の行政窓口(介護保険課)に申請を行います。申請のタイミングで悩んだら、入院病棟の担当看護師や退院調整看護師、医療ソーシャルワーカー(MSW)などに相談してみましょう。
介護保険の申請に関して不明なことは、居住地の地域包括支援センターに相談してケアマネージャー(介護支援専門員)を紹介してもらいましょう。
介護保険の申請を行い、介護サービスを受けたいということであれば、ケアマネージャーと相談して決めていきますが、介護保険にどのようなサービスがあるのか情報収集をしておくことも大切です。
また介護保険以外にも市区町村のサービス他、民間の介護保険外(自費)サービスもかなり充実してきています。費用や提供されるサービスをよく比較して検討してみましょう。
しかし入院中であれば、退院前に入院中に担当した医師や看護師、薬剤師、養士、理学療法士などの医療者と、退院後のサポートをしてくれるケアマネージャーや在宅医師、訪問看護師などが参加して、退院前カンファレンスを行い、在宅療養に向けてどのような課題があり、退院後どのようにサポートしていくか話し合いが行われます。この時、ご自分やご家族の不安や要望を伝えられるようにしておきましょう。
また、介護保険のサービスや民間サービスだけでなく、定期的に訪問してくれる兄弟や子供、孫、そして友人などと楽しい時間を過ごすこともサポートの一つと考え、積極的に取り入れると良いでしょう。
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この記事を書いた人
渋澤和世(しぶさわ・かずよ)
「在宅介護エキスパート協会」代表。川崎市の介護相談員、生命保険・鉄道・金融機関等大手企業における認知症の在宅介護講座の講師もつとめる。
NEC関連会社でフルタイム勤務をしながら、10年以上に渡り遠距離・在宅介護を担う。親の介護をきっかけに社会福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。2人の子どもに恵まれるも、両親が同時期に脳血管障害、認知症、骨折、肺炎で入院を繰り返す。長年にわたり仕事・子育て・介護の「トリプルワーク」を経験。
新聞やウェブビジネスニュース等メディアでの執筆も多数。アイディア発想講師としての知識を生かし、「完璧な介護」ならぬ「自滅せず親も家族も幸せになる介護」へと発想の視点を変え、現代人のための介護思考法を独自に研究。介護する者、支援する者、専門家としての3つの顔と行政、企業、家庭の3つの軸から介護問題を解決する唯一無二の存在。座右の銘は「なんとかなるさ」。
著書「親が倒れたら、まず読む本」(プレジデント社)は家族の入院・介護に取り掛かる方のバイブルとなっている。