前回は、高齢者の食支援をするうえで大切な「食べられるお口になっていますか」を考えてみました。ここでは実際に「高齢者が食べたいものは何なのか」を考えてみましょう。
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この記事の目次
1.高齢者が食べたいもの
私が訪問看護をする前に病院勤務をしていた頃、「食欲不振」という症状で入院してこられる高齢者が少なくありませんでした。
その原因として考えられるのは、内臓疾患だけではなく、脱水や感染症が原因で入院となる場合もありました。病状が安定してくると食欲が出てきて、再び食べられるようになることもありますが、なかなか食欲が戻らない患者さんもいました。
そんな時に、「何が食べたいですか」と聞いてみると、なかなか病院ではお出しできない食べ物のことが多かったです。
「お刺身」「赤飯」「なすの漬物」などの他に「カップラーメン」が食べたいと言われた方もいました。
健康な時に、日ごろ食べていたものが恋しくなるのでしょう。
ある患者さんは、食べ物の飲み込む力を考慮しミキサー食を食べられていました。
しかし、うわ言の様に「手羽先、手羽先」と繰り返すので「匂いだけでも味わってもらおうよ」とご家族に手羽先を差し入れてもらい、手羽先を鼻先に持っていったら、手を出してつかんで食べてしまったことがありました。
嚥下機能検査では明らかに固形物は食べられないと評価されていたので、とても驚きました。
実はこれはとても危険なことなのです。
しかし、その方はしっかりと味わって噛みしめてゴクンと飲み込むことができました。
では、その後何でも食べられるようになったかというと、そんな簡単なものではなく、ミキサー食を食べられていました。
私たちは高齢者の食事というと、柔らかくて、消化が良くて、食べやすいものを好むと考えがちですが、実際に高齢者が食べたいものは違うのですね。
高齢者が食べたいものランキングを調べてみると、このような結果がありました。
上位10位までをご紹介します。
1位 | お寿司 | 6位 | 漬物 |
2位 | 刺身 | 7位 | 白和え |
3位 | 魚の煮つけ | 8位 | 赤飯 |
4位 | 味噌汁 | 9位 | 煮物 |
5位 | お餅 | 10位 | サツマイモ粥 |
参照:lasrmessage
他にも11位:カレーライス、12位:麺類、14位:卵料理、15位:天ぷらなどが上位にランキングされていました。
この結果から、高齢者は日常で食べなれた食事を食べたいのではないでしょうか。
カレーライスも意外と高齢者に人気です。
私が監修している「みんなの保健室わじま」の日替わりランチのメニューがカレーライスだったことがありました。
その時、来られていた男性が出されたカレーを食べながら「レトルトじゃないカレーは久しぶりだ」と泣き出したことがありました。
高齢で独居だったりするとカレーライスなどの煮込んだものは食べたくてもなかなか作れないのかもしれません。
みんなのお助けNAVI「【高齢者の好きな食べ物】高齢者が好む食べ物ランキングTop25を紹介!」
では、人生の最後に食べたいものは何でしょうか。
2.ラスメシとは
ラスメシとは人生の最後の食事について考えるきっかけづくりとして、lastmessage(ラストメッセージ)から生まれた言葉と言われています。
「人生さいごに食べたい食事は意外にも〇〇〇?!【調査結果】ランキングベスト10発表 #ラスメシ 2021版」参照:lasrmessage
60代、70代の方に聞いたラスメシランキング
| 60代 | 70代 |
1位 | 寿司 | 寿司 |
2位 | 焼肉・ステーキ | 焼肉・ステーキ |
3位 | ラーメン | ラーメン |
4位 | 白ごはん | うなぎ |
5位 | おにぎり・うなぎ | そば |
参照:lasrmessage
60代・70代も、寿司、焼き肉、ステーキ、ラーメン、うなぎが上位を占めています。
日ごろから食べたいもの、そして、少し豪華な食べ物のように思います。
実は、どの世代も寿司、焼き肉、ステーキ、ラーメンが上位を占めていました。お寿司や、焼き肉、ステーキなどは、一人で食べるにはぜいたくな感じがしますが、ラーメンやそばなどの日本人の定番料理もありました。
虚弱な高齢者にお勧めする「お粥」「アイスクリーム」「プリン」「ゼリー」などはランキングにはありませんでした。
3.食べたいものが食べられる幸せ
私の父は今年99歳になりました。
昨年の冬、私のために雪かきをして転倒し、大腿骨頸部骨折で入院して手術を受けました。
入院中、病院食を完食していたにもかかわらず、退院時は低栄養状態で貧血も進んでいました。
しかし、高齢なので様子を見ていました。
お昼はお弁当を食べていますが、朝はご飯とみそ汁と漬物、夕はパンかお餅しか食べませんでした。
おやつはチョコレートかお煎餅など、食べたいものを自由に食べていました。
こんなに粗食なのに、退院後3か月目の検査では貧血が改善傾向にあり、1年が経過した今は鉄剤も中止して様子を見ています。
私は病院に勤務しているときにNST(栄養サポートチーム)に所属し、栄養サポート室の専従看護師として入院患者さんの栄養管理に携わっていました。当時から高齢者も「タンパク質」を摂ることが重要だと啓発活動を実践していましたが、入院という集団生活の中とはいえ、患者さんの食べたいものをお聞きするというコミュニケーション場面は少なかったように思います。
“食べたいものを食べてもらい”貧血が改善した父を見ると、なかなか栄養状態が改善しなかった患者さんに同じ様に、食べたいものを食べてもらえれば、もっと元気になってもらえたのだろうかと反省しています。食べたいものを食べることができる環境は大事ですね。
4.まとめ
高齢者の食支援を考えるとき、実際に高齢者が食べたいものは何かを考えてみました。高齢者が食べたいものは、消化が良くて食べやすいものというより、日常でよく食べているものが多い傾向でした。
高齢者が最後に食べたいもの、いわゆる「ラスメシ」でも「お寿司」や「焼肉・ステーキ」などが上位を占めており、ちょっと豪華で一人で食べるより誰かと一緒に食べたいものを最後に食べたいのではないかと思われました。
近年、厚生労働省はじめ日本社会全体として健康長寿のために、フレイルやサルコペニアの予防が叫ばれています。
- フレイル:加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなっている状態
- サルコペニア:筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態
いくつになっても、しっかりと栄養を摂り、運動して筋力を維持していくことは、健康寿命を延ばしていくうえでもとても大切です。
特に高齢者の場合、食べたいものを安全に食べ続けていくことも幸せにつながると思います。
次は「食べたいものを安全に食べるにはどうしたらよいか」を考えてみたいともいます。
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この記事を書いた人
中村悦子
大学病院での勤務を経て、地元の公立病院で訪問看護に従事しながら地域医療連携室で退院調整に関わる。
病院内のNST(栄養サポートチーム)の立ち上げと同時に、能登NST研究会事務局として活動する。
その後、新設された栄養サポート室の専従看護師として、病院に通院していない住民の皆さんからも「何を食べたらいいかわからない」などの相談を受けるようになり、病院の外で気軽に集えて何でも相談できる居場所を作りたいと考え55歳で退職。
地元のショッピングセンターの中に「一般社団法人みんなの健康サロン海凪(みなぎ)」を立ち上げた。
そこでは、地域栄養ケアを学び、伝え、実践できる環境を作りたいと考え、無料相談以外に指先セルフの血液検査、ワンコインで利用できる日替わりランチを提供する「みんなのカフェわじま」、保険外サービスの訪問看護である有償ボランティアナース「キャンナスわじま」、口腔ケア製品からおむつまで「必要なものを必要なだけお届けする」物販事業などに関わる。
その後、現職場である「社会福祉法人弘和会」で「訪問看護ステーションみなぎ」の管理者となり現在に至る。
社会福祉法人弘和会
訪問看護ステーションみなぎ 管理者
コミュニティナース虹いろケア 管理者
一般社団法人 みんなの健康サロン海凪 理事
キャンナスわじま 代表
さわやか福祉財団 さわやかインストラクター
輪島鳳珠地区保護司
能登町一層協議体委員
輪島市第2層生活支援コーディネーター
介護職員のための医療的ケア研修ならびに指導看護師研修 講師