日本の5大疾病である「脳卒中」とは、どんなイメージでしょうか?
「歩くのが難しくなる」
「寝たきりになる」
「後遺症が残る」
など、ご本人・ご家族ともに、精神的、肉体的な負担が重くのしかかる印象でしょうか。
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳の細胞に血流が行き渡らなくなり、脳細胞が壊死する病気のことをいいます。
脳卒中は、日本人の死因第4位、要介護の原因第1位。
脳は一度傷を受けると、回復する力が弱く、治療が遅れると後遺症を残すことが多いです。
そのため、できるだけ早く治療をして、詰まった血管内の血液を再び流す、破れた血管からの出血を食い止める治療が不可欠です。
この記事では、脳卒中について取り上げます。
この記事の目次
「脳卒中」って何ですか?
「脳卒中」という言葉。
そもそも「卒中」って、普段なかなか使わない単語ですよね。
得体のしれない漢字だから、なんだか難しく感じてしまう・・・なんてことありませんか?
卒中の「卒」は「卒然」で置き換えられます。
卒然とは、「事が急に起こる、突然」という意味です。
卒中の「中」は、「中たる」(あたる)で、「当たる」に置き換えられます。
くじに当たるならいいのですが、この場合の意味は「動いて来たものがぶつかる、身体などにぐあいの悪い触れ方をする」などという意をとるのが正しそうです。
つまり、「脳が卒然と中る」で、「脳卒中」。
そう、突然に当たってしまう病気なんです。
団塊の世代の方々は、「○○さんがあたったみたい」という言葉だと馴染み深いのではないでしょうか。
脳卒中は、脳血管障害とも言われ、
・脳梗塞
・脳出血
・くも膜下出血
に分類されます。
脳卒中の現状
日本人の死因第4位が脳卒中。
悪性新生物(がん)、心疾患、肺炎に次ぐ4番目となっています。
介護が必要となった主な原因となる病気の構成割合では、
1位 認知症(18.1%)
2位 脳卒中(15.0%)
3位 高齢による衰弱(13.3%)
です。
男女別でみると、男性は脳卒中(24.5%)、女性は認知症(19.9%)です。
1位である認知症も、脳卒中後による血管性認知症が原因となるものもあるため、「いかに脳卒中が重篤な疾患か」ということがわかります。
日本脳卒中データバンク報告書によると、脳卒中の中でも、圧倒的に多いのは脳梗塞で74%。
次いで脳出血18%、くも膜下出血4.5%、一過性脳虚血発作が3.5%となります。
脳ってどんなところ?
脳は人のからだ全体をコントロールしている大切な場所。
人間の身体で唯一、「骨に覆われ、守られている」組織です。
脳自体はお豆腐のように柔らかく、髄液という液体の中にぷかぷかと浮いています。
そして、たくさんの神経・血管ネットワークが張り巡らされています。
脳は、成人で大体約1400グラム前後と言われています。
体重の2−3%でありながら、全身の15%の血液が流れ、全身の30%の酸素を消費しています。
そのため、全身の中で最も酸素不足に弱く、動脈が詰まってしまうと数分で細胞は死んでしまうのです。
この小さな臓器が、あなたという個人、家族、集団、社会や文化をつくっていく基盤となります。
脳を構成する最小単位は、約1000億個以上の神経細胞(ニューロン)。
神経細胞は、意識・無意識領域のメッセージの運び屋とも言え、シナプスという接点を介して神経回路をつくり、情報の伝達と処理を行っています。
脳のおおまかな役割についてみていきましょう。
大脳
脳の80%を占める最も大きい部分。
役割は、人体の司令塔です。運動、知覚、知的、感情など司っており、人間が人間でいられるはたらきをしています。
小脳
運動をコントロールしており、大脳から運動の指令がくると、小脳は体中の筋肉に指令を出してコントロールしています。
両手を振ってまっすぐに歩けるのも、小脳のおかげ。耳からの平衡感覚も担っています。
脳幹
中脳、橋(きょう)、延髄と間脳に分かれており、生命維持に最も重要な役割をしてくれています。
「うごけ!」と意識せずとも、心臓が動いてくれたり、呼吸をしてくれるのも、食べた物を消化させるのも、ホルモンバランスを調整してくれているのも、全部脳幹のおかげです。
脳の血管が詰まってしまうと、瞬く間に神経の細胞、組織が壊死していきます。
壊死してしまった脳は、自分の力で元に戻ることは出来ません。
そのため、麻痺で動かせなくなったり、言葉が出なくなったり、その人らしさが障害されてしまったりと、日常生活に大きく影響してきます。
動きたいように動けない、物が歪んで見えるなど、脳卒中の初期症状を感じたら、少しでも早く病院に受診し、治療を開始することが不可欠です。
4、脳卒中の種類
脳梗塞
「梗塞」とは「詰まる」ことで、詰まる血管の大きさや詰まり方で大きく3つに分類されます。
高血圧、糖尿病、高脂血症や喫煙習慣のある方は起こりやすいと言われており、脳血管が狭くなったり詰まったりして、血液が流れなくなることで壊死してしまう疾患です。
脳梗塞は、3種類に分けられます。
アテローム血栓性脳梗塞
脳の太い血管に問題を起こすのは、動脈壁にコレステロールが沈着し、血液の塊り(アテローム)が出来て、詰まることで発症します。
心原性脳梗塞
不整脈などで心臓にできた血液の固まりが剥がれ、脳血管に流れてきて詰まってしまいます。
ラクナ梗塞
主に高血圧などが原因で脳の奥深いところの細い血管が詰まってしまい、脳細胞が壊死します。
ちなみに、一過性脳虚血発作は、一時的に脳への血流が遮断された状態で、24時間以内に症状が消失する状態をいいます。
脳出血
高血圧などで、脳の血管の内側から外側へ向かって「高い圧力」がかかり、脳の中にある細い血管が破れてしまった状態です。出血してしまったら血液は塊りとなり、他の部分も圧迫され影響を受けます。
くも膜下出血
脳の表面にある大事な太い動脈に瘤(こぶ)が出来、それが破れて出血をしたことをいいます。
脳卒中の中で最も死亡率が高い重篤な病気です。
まとめ
脳卒中は、重度になると命に関わる病気であるのは間違いなく、後遺症が残ったり、寝たきりになったりなど、生活が一変してしまう怖い病気です。
脳卒中は、怖い病気だからこそ早期対応、医療機関への受診が必要です。
そのためには、どんな症状が脳卒中の予兆なのかを知ることが大切です。
次回は、「こんな症状は、脳からの警告!?」についてお伝えしたいと思います。
次の記事
看護師が解説!脳卒中②こんな症状は脳からの警告!?
前回は、「脳卒中とは?」について一緒に学びを深めさせていただきました。 やっぱり怖い、脳卒中についての概要の次は「こんな症状は、脳からの警告!?」がテーマです…
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参考文献:
第13回医療計画の見直し等に関する検討会(厚生労働省)
日本脳卒中データバンク報告書2022
この記事を書いた人
看護師:工藤 巳知子
北海道出身、看護師歴21年。
新卒で一般病棟勤務中、急変対応の経験不足を痛感したため手術室・救急外来へ部署移動。
上京後は大学病院の高度救命救急センター、民間病院の集中治療室(ICU /CCU)で12年。
その後、命を救う現場から病院と在宅を結ぶ訪問看護ステーションへ転向。営業やマネジメント、国際医療搬送を経験。
21年間、脳神経外科領域に関わり、現在は開業メンバーとして脳神経外科のクリニックに勤務中。
脳と意識、こころの探求を学びながら、フリーランスナースとして活動中。