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空き家にするぐらいなら寄付しようかな…不動産の遺贈寄付における課題をわかりやすく解説

不動産や株式などを寄付する場合に「みなし譲渡課税」という税金が発生する可能性があります。

(詳しくは「みなし譲渡課税の課題と実例」をご参照ください)。

税金以外にもさまざまな問題がありますので、今回は不動産を遺贈寄付(遺言などで寄付すること)する場合の課題について見ていきましょう。

この記事の目次

不動産の遺贈寄付が増加している背景

不動産の遺贈寄付に関する統計資料はないのですが、遺贈寄付の仕事に関わっている者の実感として、確実に不動産の遺贈寄付が増加しています。
その原因はいろいろ考えられますが、寄付者の動機から考えると「誰も利用しない家を有効に活用してほしい」という思いが多いように感じています。

子どもが成長し、社会人となって実家とは別に所帯を持ち、親が亡くなった後に実家が空き家になるケースも多いでしょう。
さらには、子どものいない人の割合が年々増加していることも「誰も利用しない家の増加」の一因となりそうです。


子どもがいない場合、親が先に亡くなっていれば、自分の相続人は兄弟姉妹です。

多くの場合、兄弟姉妹は自分の家を持っていますので、自分が亡くなった後の自宅を兄弟姉妹に残すよりも寄付したいと考える方が増えているようです。

子どものいない人の割合

不動産の遺贈寄付における課題 年代別子供がいない人の割合

自宅は自分が生きている間は住み続けますので、生前に寄付することはできません。

自分が亡くなった後に寄付したい場合は、遺言で「私の自宅(所在地等を記載)を◯◯へ遺贈する」と書くことで、その思いを実現することになります。

ここで、遺言書の書き方や遺言執行者の指定など、遺言における注意点はあるのですが、今回は寄付を受ける非営利団体との関係について考えていきます。

現金の遺贈寄付との違い

不動産の遺贈寄付は、さまざまな点で現金の遺贈寄付と異なります。
相違点をまとめると以下のようになります。

現金寄付と不動産寄付の相違点

現金寄付不動産寄付留意点
一物一価一物多価評価額を巡って争いになる可能性
お金に色なし個別性が強い寄付を受けるか否かの判断が難しい
流動性が高い流動性が低い売却できない可能性がある
価格が固定価格が変動する含み益に対してみなし譲渡課税
所有者に権利権利関係が複雑権利関係の調査が必要
管理が容易管理が大変保有や管理に係るリスクがある
単一通貨種類が多様農地や山林など換価困難な物件あり
登記不要登記が必要登録免許税や固定資産税がかかる
流通コストなし売買コストが必要仲介手数料などがかかる
現金寄付と不動産寄付の相違点

このうち、特に「売却できない可能性がある」という点が、寄付を受ける非営利団体にとって重要です。

寄付を受けた不動産をそのままの形で団体の活動に利用できることは少なく、多くの場合は不動産を売却して得られた資金を団体の活動に活用しています。

したがって、売却できなければ利用できない不動産を持ち続けることになり、固定資産税などのコストや管理の手間、火災や不法占有などのリスクを追うことになります。
こうしたことから、不動産の寄付を積極的に受け入れる非営利団体は少ないのが現状です。

不動産の遺贈寄付のミスマッチ

不動産の遺贈寄付には、「寄付者(遺言者)」「非営利団体(受遺者)」「仲介者(士業や信託銀行など)」の三者が関わっています。

それぞれの立場から、現状の課題を見てみましょう。寄付者(遺言者)

自分が亡くなった後に自宅は要らないので寄付したい。
善意の寄付なので、どのような財産でも非営利団体は喜んで引き受けると思っている。非営利団体(受遺者)

将来売れるか不明、負動産になる可能性も。不動産のままの利用は難しい、管理も大変。
できれば換価後の現金でほしい。仲介者(士業・信託銀行など)

遺言執行者が換金精算する換価型遺言の場合、将来の不動産が売却できないと遺言執行が滞ってしまう。

このように三者それぞれの事情から、せっかくの善意が叶えられない状況となっています。

それではもし、不動産が売却できるか否かが事前にわかっていれば?
それであれば問題解決になりそうです。

遺言作成段階における不動産の査定

遺贈寄付の仕事に関わる者として、私は大手不動産会社数社と「遺言作成団体で不動産の査定をしてもらえないか」と交渉しましたが、「遺言による寄付ということは、不動産の売却はいつかわからない将来のこと。
遠い将来のために、コストをかけて査定することはできない。」と断られてしまいました。

ただ、1社だけ「価格査定ではないが、現時点での取扱可否判断であれば可能」と理解をいただき、遺言作成段階で不動産売却可否がある程度は判断できるようになりました。
これにより、売却できそうな不動産であれば、それを遺言書に書き、遺贈寄付できることになります。 
寄付者・非営利団体・仲介者のそれぞれにとっても「安心」とまではいかないものの、遺贈寄付に取り組む「支え」にはなりそうです。

現状では全国くまなく取り扱いできる仕組みではありませんので、地方の不動産会社にもご協力いただき、幅広く遺贈寄付に対応できることが望まれます。


この記事を書いた人

齋藤 弘道(さいとう ひろみち) 遺贈寄附推進機構 代表取締役 全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道(さいとう ひろみち)

<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事

信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

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