孤独死という言葉がニュースなどに取り上げられるとき、ご自宅で一人で亡くなり、数日たって気付かれたというような悲痛な内容が多いと思います。この孤独という言葉はどうしても寂しいイメージがあるのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、ご家族も身寄りもない女性を施設でお看取りさせて頂いた時のお話です。寂しさとは無縁のとても穏やかで温かな時間が流れていました。私の心に残る、ある女性の人生の終い方についてお伝えします。
この記事の目次
1.独居高齢者が増える背景
施設に入所されていたその女性は、結婚されていましたが、ご夫婦の間にはお子さんはいらっしゃいませんでした。やがてご主人に先立たれ、お一人で施設入所されます。ご親戚もおられないため、面会に来る方もなく、部屋で一人過ごされる時間が多かったのです。
当時、90代だった女性のお部屋に伺うと、若い頃の写真が飾られており、いつも私に色々なお話をしてくださいました。若い頃は当時としては珍しく、仕事をバリバリとこなされるキャリアウーマンだったそうです。昔の頑張りや楽しかった日々を、いきいきとした表情でいつも教えてくださる姿に、私は尊敬の念を抱いていました。
この女性のように、晩年は一人で過ごされる方は今後どれくらい増えるのでしょうか。令和6年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した全国推計によると、1)令和2年と令和32年までの30年間で、65歳以上の高齢単独世帯は738万世帯から1084万世帯へ激増します。一方で、夫婦のみの世帯は675万世帯から636万世帯へ減少する見込みだと言われています。この背景には、女性の長寿によって夫と死別し一人暮らしになる女性が増えることに加え、生涯を独身で過ごす男女が増加していることも原因のひとつです。 結婚によって夫婦という二人の時間を共有し、どちらかが役割を終えてまた一人に戻る。それは寂しい終わりではなく、人生という循環が静かに閉じるプロセスであり、そのプロセスの中で一人の時間をいかに過ごすかが、私たちの世代に問われているように思います。
2.孤独は寂しいのか
一人は孤独なのでしょうか。そして、孤独とは寂しいものなのでしょうか。
ある時、女性は「誰にも迷惑をかけずに逝けるから良かった。」と私に話して下さいました。施設入所していると、家族の面会がないと寂しそうだと周囲は思いがちです。しかし、この女性は違いました。わざわざ忙しい中、時間を作って来てくれるのが申し訳ないという、周囲への細やかな気遣いを持たれていたのです。
一人は孤独だと世間ではネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、女性は一人の自由と、誰にも気兼ねせず自分ファーストで生きられる心地よさを楽しんでおられたのだと思います。
「子供や孫に囲まれて死ぬのが幸せ。」だと周囲は思い込んでいるのかもしれません。しかし、いざ自分が見送られる側になったとき、多くの人がこの女性のように「周囲に負担をかけたくない。」と気を使ってしまうのではないでしょうか。家族の形が多様化する中で、これまでの「家族と一緒にいることが幸せ。」という価値観が少しずつ変わっていくのかもしれません。 皆さんは、一人でいることのメリットやデメリットを考えたことがあるでしょうか。家族がいると、その関係性や付き合いに追われ、自分の時間が持てないこともあります。病気になった時、自分の本当の望みではなく、家族の為に治療や検査の選択をしてしまうことだってあります。自分を軸にして考えてみると、私たちはどれほど周囲に合わせて生きているかに気付かされます。時に、逆の発想をしてみることをお勧めします。
3.孤独から心の自律へ
この女性から私が学んだことは、一人であっても自分の人生を内側から満たすための心の自律が大切だということです。
女性の部屋を訪れると、いつも凛とした空気が流れていました。先述したように、若い頃に仕事をやり遂げた誇りを90代になっても大切に持ち続け、ご自身の人生を自分の言葉で愛おしむように語ってくださいました。女性は過去の思い出や夫との生活を心の中で大切に持ち続け、今を生きる心の糧にされていたのだと思います。
本当の自律とは、誰の手も借りずに過ごすことではないと思います。体の衰えを受け入れ、他者のケアを淡々と受け入れながらも、自分の心だけは他人に渡さないことではないでしょうか。女性は面会がなくて寂しく可哀想な人ではなく、自分の時間を自分で満たせる、精神的に自律した人だったのです。
亡くなる前日、女性は私にこう言われました。「死ぬのは怖くないのよ。やりたいこと全部やったもの。」
人生を肯定する言葉の先に、私は人生を終えた後の世界の話を切り出してみました。
「天国って本当にお花が咲いているのでしょうか。」
「そうね、沢山咲いていたら素敵でしょうね。」
そう言って、微笑んでおられました。死が近い方に対して不謹慎に聞こえるかもしれませんが、ご自身で死を悟り、覚悟が出来ている方は、こうした対話を受け入れて下さいます。女性は孤独というレッテルを飛び越え、最期まで自分の人生という物語の主人公だったのではないでしょうか。
4.他者に愛され、自分を生きる為に
これから一人で過ごされる方が増える中、私たちはどのように過ごしていけばよいのでしょうか。この女性のように穏やかで満ち足りた最期を迎えるために、今から意識できる3つの心構えをご紹介します。
⑴物理的な一人と心の寂しさを切り離す
外側の環境がどうあれ、自分の心の中にこれまでの豊かな経験や、目に見えない人とのつながりがあれば心は孤立しないと考えます。日々の暮らしや自然の調和を感じられる、そんな感性を持っていたいものです。
⑵自分自身との温かい内的対話を重ねる
「寂しい、不安だ。」という言葉で心を満たすのではなく、「今日も平和な一日だった。」「私の人生はご縁に恵まれているな。」など、自分を客観的に見つめ、全肯定してあげる安心感を日頃から育むことです。
⑶些細なことも感謝する
精神的に自律した人でも、年齢を重ねれば何かしら人の助けが必要になります。現在働いている私たちも、周りの人が支えて下さるお陰で生活が出来ています。日常の些細なことにも「ありがとう。」と感謝すること、その言葉は周囲の人の心を温めてくれます。精神的に自律した人であれば、感謝の言葉が自然と溢れ出るでしょう。
5まとめ
今回のコラムはいかがでしたでしょうか。私たちは誰もが、元々は一人で生まれてきました。誰かと出会い、豊かな時間を共有し、社会の役割を終えてまた一人に戻ります。それは恐れることではなく、人生を美しく閉じる自然なプロセスです。
自分は一人になるのが怖いと思っている方に、女性が教えてくれた孤独とは無縁の在り方や生き方が参考になれば幸いです。
引用)
1)国立社会保障・人口問題研究所 概要 P12
参考)
孤独こそ最高の老後 松原惇子氏 著
NPO法人 SSSネットワーク
この記事を書いた人
郷堀有里夏
<プロフィール>
看護師経験30年。急性期病棟やICUを10年経験した後、施設看護や訪問看護、ケアマネジャーとして多くの介護を必要とする方々やそのご家族と関わる。
県外で勤務していた頃、母親が介護状態となり地元へ帰省する。
仕事と介護と自分の人生に悩んでいた頃、認知科学を学ぶ。
学びを通してわだかまりのあった親子間や家族間の葛藤を解消し、介護中に修復する事が出来た。そして、母親を施設から引き取り家族と共に在宅看取りを行うことが出来た。
自身の経験を通して、「健やかに自分らしく生きること」や「安心して介護や看取りが行える環境づくり」が重要だと感じ、心の介護専門家として講座やお話会を通じ情報を提供している。
<経歴、職歴>
(一社)日本ナースオーブ所属 Wellnessナース
看護師経験30年(訪問看護管理者、施設看護、介護支援専門員、救急センター、ICU)
保険外自費サポート ひかりハートケア登録ナース
<講座>
親にイライラしない介護コミュニケーション/ウェルネス講座
<その他の活動>
心から看る介護と認知症のお話会
後悔しない親の介護 / ブログ
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