白熱電球が発明された1870年以降、光は世界中に広がりました。150年以上経った今では、スイッチ一つで当たり前のようにどこにでも明かりが照らされるようになりました。
明かりには様々な役割があります。手元を照らして作業しやすくする、足元を照らして転ぶのを予防する、スポットライトのように特別感を出す演出など多岐にわたります。私たちが日常的に使っている明かりが原因で病気になったり、反対に健康になったりするということを知っていますか?
このコラムでは明かりがどのように体に影響を与え、どうしたら健康的に使えるのかについてまとめてみました。あなたの住まいでも活用して、より健康的な生活が送れるようご参考いただければ幸いです。
この記事の目次
1. 住まいの明かりが体に与える影響
人は昼に太陽の光を浴び、夜は光を浴びない生活を過ごしてきました。五感から光を感じることで脳の体内時計を動かします。そのため人の体には、明るいと体を活動モードに、暗くなると休息モードに切り替わる仕組みが備わっています。
しかし、現代人は夜勤仕事や寝る前のスマートフォン操作など、昼も夜も光を浴びる生活をしている方が増えています。このような光との付き合い方が、どのように体に影響を与えているのか、二つの要因からお伝えします。
①セロトニンとメラトニン
それぞれ神経伝達物質の一つで、体内時計のリズムを調整する上で切っても切れない関係にあります。
セロトニンは明るさを感じる朝に分泌され、体を活動モードに切り替えるよう脳に働きかけます。メラトニンは、セロトニンを原料にして夜間に分泌され、体を休息モードに切り替えるように自然な眠気を促します
②交感神経と副交感神経
自律神経には活動時に働く交感神経と、休息時に働く副交感神経があり、セロトニンやメラトニンなどの神経伝達物質を各所に伝えるための通り道のような役割があります。
強い光を浴びると交感神経が刺激され、活動的に動きやすくなります。反対にうす暗い光だと副交感神経が刺激され、リラックスしやすくなります。神経伝達物質と自律神経がともに明かりによって刺激され、体の活動モード、休息モードを切り替えているのです。
2. 明かりが原因の病気 3選
明かりが原因で病気になることを知っていますか?
明かりと身体的な影響について「平城京スタディ」という大規模な研究が2010年から奈良県で行われています。平城京スタディは、主に住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査しています。
たくさんの論文が発表されており、そこからほんの一部を抜粋して、明かりが原因で生じる代表的な病気を3つご紹介します
①不眠
明かりは先述した通り、活動モードと休息モードを切り替える大切な要素になります。暗い朝はセロトニンが十分分泌されず、交感神経も刺激されにくいため目覚めにくくなります。
反対に明るい夜はメラトニンの分泌が妨げられ、副交感神経優位になりにくく寝つきが悪くなります。これらのあべこべが睡眠に大きく影響し、不眠に繋がっていくのです。
②うつ
明かりによる不眠からうつ症状が出現することも考えられますが、それ以外にも明かりと精神状態は影響しています。
2010年からの研究で、寝室が明るいとうつ症状を起こしやすいという結果を得られています。寝室が明るめの人たちは暗めの人たちと比べて、2倍近くもうつ症状を起こしやすいそうです。
また、「冬季うつ(季節性うつ)」と呼ばれている症状があります。これは冬になると気分が落ち込む症状であり、日照時間と深く関係していると言われています。
治療の一つとして「光療法」という専用の明るい光を浴びる治療法があります。専用の明かりを朝に浴びることで、副作用なく治療することができる治療法です。明かりは医療現場でも活用されるほど、心の安定をサポートすることができるのです。
<参考>
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部 高照度光の中枢神経作用を応用した睡眠・覚醒障害、精神疾患の治療法
https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/research_activity/research_activity5/index.html
③動脈硬化・糖尿病・肥満
平城京スタディの中には、夜間の寝室が明るいグループと、暗くしているグループを分けて、動脈硬化・糖尿病・肥満などに影響するかどうかを調査した研究があります。
結果は、夜間の寝室が明るいグループは暗くしているグループと比較し、BMI値、腹囲、中性脂肪、コレステロール値が高い値を示しました。
また、動脈硬化の指標である頸動脈IMT(首の動脈の血管壁の厚さ)も厚くなることがわかりました。つまり、夜間の明かりが原因で動脈硬化・糖尿病・肥満などを引き起こす可能性が高いということが明らかになっています。
3. 健康になるための照明の使い方
ここまで明かりと体内時計の関係性、明かりを浴びるタイミングによって健康に悪影響を及ぼすということをお伝えしてきました。
次にお伝えしたいのは、健康になるための照明の使い方です。3つご紹介します。
①起きたらすぐに朝日を浴びる
体内時計を整えるためには、体を活動モードに切り替えることが大切です。
そのためには、起きてすぐカーテンを開けて朝日を浴びることがポイントになります。朝日を浴びることで体内ではセロトニンが分泌され、メラトニンの分泌準備がされるようになります。朝日を浴びてから約15時間後には、メラトニンが分泌されスムーズな入眠につながります。
活動モードへ切り替えることで日中活動的になることができますし、夜に休息モードに切り替えやすくなり夜間の良眠を導かれることでしょう。
②夜電気を消して寝る
夜間明るい状態で過ごしていると、体内時計が乱れ、さまざまな病気を引き起こすことがわかっています。電気を適度な暗さにして眠ることが理想です。
真っ暗では眠れない方は間接照明などを用いて、できるだけ夜間は休息モードとなるように工夫することも大切です。
③寝る1時間前からスマートフォンなどの画面を見ない
スマートフォンの明かりには、ブルーライトと呼ばれる太陽光と同じ波長をもつ光があります。これによって脳が活動モードになろうと錯覚し、寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりします。
さらにスマートフォンからはSNSやニュースなど次々と情報が流れてきます。たくさんの情報を処理することで、脳が興奮状態となり休息モードへの切り替えが難しくなります。 そのため、寝る1時間前からスマートフォンなどの画面を見ないことで眠りやすくなるのです。
4. まとめ
このコラムでは
✓ 住まいの明かりが体に与える影響
✓ 明かりが原因の病気 3選
✓ 健康になるための照明の使い方
についてお伝えしました。
当たり前にどこでも使えるようになった明かり。
便利で必要不可欠になっていますが、使い方を誤ると健康面に悪影響を及ぼします。平城京スタディの中心的人物である大林医師は「原始人のような光の浴び方」を勧めているそうです。
原始人の時とはライフスタイルも大きく変わり、現代は昼夜を問わず活動するようになっています。「朝は太陽とともに動き、夜は暗闇の中で休む」という理想的なサイクルを実践することは難しいかもしれません。
しかし、大切なのはこの情報を知っているかどうかです。このコラムをきっかけに、いつも使っている明かりの使い方を見直して、より健康的な生活になられますように願っています。
<参考>
・厚生労働省 快眠と生活習慣
・文部科学省 第3章 健康なくらしに寄与する光 1 照明光に対するヒトの適応能―生理人類学からのアプローチ
・奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 平城京スタディ
この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業