がん治療中、治療やご病気のことを考えられると思いますが、同時にお金の悩みも出てきます。
アフラック生命保険株式会社が2022年に1000人にとったアンケートでは、3割以上の方が経済・収入面で不安を感じておられます。この記事ではどういった医療費補償があるのかについてまとめています。
この記事の目次
がん治療にかかる医療費
(1)平均的な治療費
がんの治療費は、いくらぐらいなのでしょう?
メットライフ生命が2018年に8.235人を対象にアンケートをとりました。
結果は初めてがんに罹患された方の治療費は年間で平均43万円でした。
医療費以外にも約22万円の費用がかかり、合計で約66万円の費用となります。
(2)ステージによる違い
この金額は平均で、がんはステージ(がんの進行状況)によって治療費が変化します。ステージは0〜4の5段階になります。ステージは腫瘍の大きさや転移の有無などで決定され、数字が大きくなるほど、がんが進行していることになります。このステージは治療の方向性を決定する大きな要素となります。
(ステージだけではなく、検査結果や同時治療中の疾患などで治療方針は医師と相談となりますので、治療の内容は個人差があります)
一般的にはステージが進行している方ほど治療にかかる年間費用は高くなります。ステージ0の方は平均37万円、ステージ4の方は平均108万円と、価格差は約2.9倍となります。がんの治療はさまざまであり、外科的手術でがんを切除する場合や、抗がん剤や放射線治療の組み合わせで長期に治療が行われる場合があります。
また初回治療終了後も、定期的に外来通院があり、転移や再発があれば治療が再開されます。
がんの治療期間は、半年以内で終了される方が55%ですが、45%の方は半年以上、中には1割の方は5年以上治療期間を要する方もおられます。
(3)自己負担額のサポートシステム
ただし、上記に書いた費用は自己負担金額となります。日本には様々ながん治療に対する医療費サポートシステムがあり、後に医療費の一部が返金されるなどのシステムがあります。
しかし、私自身の母が、がん治療を行っていっとき、治療費以外にも発生する費用があることに気づきました。その気づきから実際にがん治療にどういった費用がかかるのかを次にお話しいたします。
2.治療費の内容
がん治療にかかる費用は大きく分けて3つです。
(1)医療保険適用の治療費
(2)健康保険適用外の治療(自由診療)
(3)医療費以外にかかる費用
(1)医療保険適用の治療費
- 検査費用
(血液検査、レントゲン、CT、MRI、内視鏡検査、PET-CTなど)
- 外来診察費用
- 手術費用
- 治療費用
(抗がん剤治療、放射線治療、緩和医療など)
- 入院基本料
(食事代や差額ベッド代は保険診療外のため除く)
- 薬代
(調剤薬局で支払う薬の代金、内服や貼付薬など)
(2)健康保険適用外の治療(自由診療)
- セカンドオピニオン外来受診費用
- 日本で保険適用されていない薬や適応外使用(国内で治療に使用されているが、保険適用となっていないがんに使用すること)の場合、診療費や検査費用なども保険適用外となる(一部例外あり)
- 重粒子線治療や陽子線治療など先進医療の費用
(先進医療とは、保険診療内の診療と異なり、全額自己負担となる)
- 代替療法、民間療法、サプリメントなど
(3)医療費以外にかかる費用
- 通院のための費用
(公共交通機関、自家用車、タクシーなどの交通費、駐車場代)
- 入院時の消耗品
(テレビカード代、レンタル寝衣代、おむつ代、その他入院に必要な物品、持参の飲み物など)
- 診断書、保険会社用の書類費用
- ボディーイメージの変容による代替え物品
(脱毛に対するウィッグ、乳房切除に対する補正下着など)
- 家族の通院付き添い、入院の面会などの諸費用
- 家事、育児代行費用
(1)医療保険適用の治療費については、がん治療にかかる費用として想像しやすいかもしれませんね。
(3)医療費以外にかかる費用も意外とかかります。
だからこそ、(1)医療保険適用の治療費にかかる費用サポートをなるべく受けられたらよいと思います。
では費用サポートにはどのようなものがあるのでしょうか?
次に医療費にかかる自己負担額のサポートシステムについてお伝えします。
自己負担額のサポートシステム
自己負担額のサポートシステムとして、主にこの4つがあげられます。
(1)高額療養費制度
(2)限度額適用認定証
(3)医療費控除
(4)傷病手当金
(1)高額療養費制度
日本では公的な医療保険制度で自己負担額の1〜3割を負担することになっています。
しかし、今までの記事で書いた通り、がんの治療方法は、手術や抗がん剤治療などかかる費用が大きくなりやすく、さらに長期に治療期間が続く場合もあります。そうすると、全額自己負担ではなくとも治療費が高額になることがあります。
その時に使用するのが、高額療養費制度です。
公的な健康保険に加入していれば誰でも使える制度です。
1日から月末までの治療費が一定の自己負担額を超えた場合、払ったお金が後払から払い戻されます。
(月を跨いだものは合算できません。今月分は今月分のみ、翌月分も翌月分のみとした金額が自己負担額を超えた場合です)
自己負担額は年収や年齢に応じて計算されます。
詳しくは厚生労働省HPの「高額療養費制度を利用される皆様へ」に掲載されています。
この制度は、病院での医療費(自己負担額)のみに適応となります。
そのため、入院時の食事代、差額ベッド代、保険外となる自由診療にかかった費用は対象外となるため、注意が必要です。
なお、高額療養費制度は外来通院時、院外処方の費用も含めることができます。
院外処方とは通院している病院で出された処方箋を持って、薬局で薬をもらうことです。
合計額が21,000円以上になると高額療養費制度の合算対象となります。
このように入院されていなくとも使える制度となります。
(2)限度額適用認定証
高額療養費制度は申請から実際に払い戻されるまでに、2〜3ヶ月かかります。つまり、一時的に自己負担額を全て立て替えるため、経済的負担となります。
しかし、初めから戻ってくる金額を差し引いた医療費のみを払う方法があります。それが、限度額適用認定証という書類を支払い時に一緒に提出する方法です。
限度額適用認定証の申請方法は加入されている保険によって異なってきます。
協会けんぽ、組合健保、共済組合、国保組合などの被用者保険の場合
保険証に記載されている保険の所属支部に申請します。勤務されている会社に提出するところもあるので、総務部に確認が必要です。
国民健康保険の場合
居住されている地域の役所の国民健康保険窓口に申請します。手続き方法は自治体によって多少異なりますので、問い合わせて確認するのがいいでしょう。
私の母の場合も、外来通院時に内服の抗がん剤が処方されていました。
全額自己負担額で見ると、毎月約100万円の費用が発生していました。
3割負担で考えても毎月30万円のお薬代です。
内服の抗がん剤を処方されていた期間は10ヶ月ほどでしたが、それでも、300万円ほどかかります。
高額療養費制度がなければ抗がん剤の内服継続は難しかったと思います。
高額療養費制度はよく使われる制度ですので、ぜひ手続きをしてみてください。
(3)医療費控除
医療費控除という言葉をご存じの方は多いかと思います。
では、医療費控除とはそもそもどういうものなのでしょうか。
医療費控除とは1月1日から12月31日までの1年間で一定以上の医療費自己負担があった場合、所得控除として計算することができ、金額に応じて税金の一部が返ってくる制度です。
医療費控除を受けるための要件
対象:その年の1月1日から12月31日までの1年間
要件
・自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の医療費を支払った場合
・支払った医療費が一定額(*)を超えた時
*一定額とは?(下表)
申告者の総所得 | 限度額 |
200万円以上 | 10万円 |
200万円未満 | 総所得金額×5% |
◆医療費控除の適用例
医療費(自己負担分):15万円
申告者の総所得金額:199万円
199万円×5%=99,500円
99500円を超える医療費自己負担分を医療費控除として申告可能
15万円ー99,500円=50,500円
医療費控除額→50,500円
医療費控除の上限は200万円となります。
実質負担金額であること
民間の保険に加入している場合、入院などで入院給付金などが支給される場合があるでしょう。これは実際に支払った医療費を補填する性質のものになります。
ですから、仮に医療費が15万円かかり、民間の保険から支払われた入院給付金が10万円だった場合は、下記のように医療費控除の対象外となります。
*申告者の総所得が300万円の時
・医療費自己負担額:15万円
・民間の保険から支払われた入院給付金:10万円
実質負担金額
=15万円ー10万円=実負担金額は5万円
10万円を超えていないので、医療費控除の額に達してない。
実負担金額が5万円で、総所得金額が200万円以上であれば医療費控除は負担額が10万円以上だった場合に受けられる制度ですから、上記のケースの場合には申告できないということになります。
もっとも、医療費控除の対象は1月1日から12月31日までの1年間ですから、
・いくら支払ったのか
・保険給付や高額療養費制度の適用はあったのか
これらについてはきちんとわかるようにして、証明書をのこしておき、年間の総額を確認する必要があります。
申請方法は確定申告となります。
2月16日から3月15日の間が提出期間となります。
申告時には、給与の源泉徴収票や医療費明細書が必要となってきます(2017年から医療費明細書の添付は必要なくなりましたが、5年間は保存義務があるので、保存しておきましょう)
サラリーマンは会社で年末調整がありますが、医療費控除の適用を受ける場合には確定申告が必要となりますのでお気を付けください。
ちなみに確定申告は過去5年に遡って申告することができます。
税務署窓口や国税庁のホームページから「確定申告書」や「医療費控除の明細書」を入手し作成した書類を、税務署へ提出します。
傷病手当金
傷病手当金とは、病気やケガなどにより働けなくなった期間、本来貰えるはずだった給与を補填する目的の手当金となります。
そのため、給与収入がある方で、基本的に健康保険組合の保険の被保険者の方が対象となります。
国民健康保険の被保険者は対象となりませんでしたが、コロナ禍において一部適用されました。
もしも加入されているのが国民健康保険の場合は、自治外の国民健康保険課に適用の可否を確認されるとよいでしょう。
健康保険の被保険者で、その病気やケガが理由で仕事を休んだ場合、3日間連続で休んだ後、4日目からの欠勤分が対象となります。
なお、その欠勤に対して、会社が給与を補填した場合には対象となりません。
というのも、この手当金の目的はあくまでも「本来貰えるはずだった給与を補填する」ものだからです。
4日目以降、給与がなしとなった、また減給となった場合、標準報酬日額*の2/3が通算で1年6カ月までの間支給されます。
詳細は勤務先、もしくは加入している健康保険組合に問い合わせて確認するとよいでしょう。
*標準報酬日額とは→原則、支給開始日以前12カ月間の標準報酬月額を平均した額の30分の1。
まとめ
この記事ではまず、がん治療にかかる費用の平均、内訳を記載しました。
費用の負担を軽減するための公的サービスを3つご紹介しました。
それ以外にも、民間の生命保険にがん特約をつけるなどの支援があります。
また公的支援サービスも複数組み合わせて使用することもできます。
複雑ですので、この記事ではよく使用される制度に絞って説明しています。
相談窓口はご入院されていれば担当のソーシャルワーカーに相談されるとよいでしょう。もしくは、がん診療連携拠点病院に「がん相談支援センター」が設置されており、どなたでも、その病院にご入院されていなくとも、無料・匿名で相談することも可能です。
私自身の母ががん治療中に、母のサポートをしていたとき、公的支援サービスにとても助けられました。
お金の問題は人に相談しにくく、お一人やご家族様で悩まれているケースがあります。治療を断念する方も中にはおられます。
ぜひ公的サービスや無料相談窓口をご利用いただけたらと思います。
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この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」