ワークライフバランスという言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
ワークライフバランスは日本語で「仕事と生活の調和」を意味します。
政府広報オンラインによると、ワークライフバランスは「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」と定義しています。
今回の記事の題名はライフワークバランスです。
ワークライフバランスと何か違いはあるのでしょうか。
1つはライフワークを「ライフ」と「ワーク」に分けた時に、「ライフ」つまり生活の時間の方が人生において長いため、「ライフ」を重視するという考え方があります。
もう1つは「ライフワーク」つまり、人生をかけてする仕事という考え方があります。
ライフワークはビジネスとしての「仕事」の意味を超えて、生涯をかけて続けていく趣味や活動のことを指す場合や芸術家が一生をかけて完成させた作品や代表作を指すこともあります。
ではライフワークバランスという言葉の「バランス」とは、何とバランスをとるのでしょうか。
この記事では「仕事」を人生の役割や生きがいと考え、慢性疲労症候群の方のライフワークバランスについてお伝えします。
この記事の目次
1. 慢性疲労症候群の生活と仕事
(1) 慢性疲労症候群の疲労の程度
慢性疲労症候群の診断基準は、慢性疲労症候群の1つめの記事「慢性疲労症候群とは何か」でお伝えしましたが、ここでもう一度ご紹介します。
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慢性疲労症候群の診断には、1991年に厚生労働省(旧厚生省)が作成した「CFS(慢性疲労症候群)診断基準」が用いられています。
慢性疲労症候群と診断されるには、この基準の2項目を満たす必要があります。
- ①生活が著しく損なわれるような強い疲労を主な症状とし、少なくとも6か月以上の期間持続ないし再発を繰り返す
- ②慢性疲労症候群と考えられるような疾病を除外すること
上記の説明の中の「強い疲労」をより明確化するためにPS(performance status)が定められています。
0 | 倦怠感がなく普通の生活ができ、制限を受けることなく行動できる。 |
1 | 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、倦怠感を感ずることがしばしばある。 |
2 | 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感の為、しばしば休息が必要である。 |
3 | 全身倦怠感の為、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である。 |
4 | 全身倦怠感の為、週に数回は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である。 |
5 | 通常の社会生活や労働は困難である。軽作業は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である。 |
6 | 調子のよい日は軽作業は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している。 |
7 | 身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽作業は不可能である。 |
8 | 身の回りのある程度のことはできるが、しばしが介助がいり、日中の50パーセント以上は就床している。 |
9 | 身の回りのことはできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている。 |
日常生活や労働等のパフォーマンスステータス (PS値)(旧厚生省 慢性疲労度診断基準(試案)より抜粋)
慢性疲労症候群と診断されるには、PS3「全身倦怠感の為、月に数回は社会活動や労働ができず、自宅にて休息が必要である」以上の疲労程度であることが求められています。
少し難しい内容となっていますが、慢性疲労症候群の「疲れがとれない」「体がだるい」といった症状により、家事や仕事をできない日がある、寝たきりになり身の回りのことをするのに手伝いが必要になる状態のことを説明しています。
(2) 慢性疲労症候群とライフワーク
ウェルビーイング(well-being)という言葉をご存じでしょうか。
これは心身と社会的な健康を意味する概念です。身体だけでなく、精神的、社会的にも満たされている広い意味での幸福・多面的な幸せを表す言葉です。
世界保健機構(WHO)憲章では、健康とは何かを説明する前文にウェルビーイングという言葉が使われています。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていない、ということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態にあること(ウェルビーイング:well-being)をいいます」
(引用:公益社団法人日本WHO協会「世界保健機構(WHO)憲章とは」)
慢性疲労症候群の方は肉体面で活動に支障があると感じていると思いますが、「精神的にも社会的にも満たされた状態」について考えたことはあるでしょうか。
活動に支障があっても、自分の人生をかけてやりたいことがある、社会の中で役割を果たすことができた時などに、精神的にも社会的にも満たされていると感じられるかもしれません。
つまり精神的、社会的な充足に必要なのがライフワークだと考えます。
肉体面については自身の体調に応じての活動が必要となります。主治医がいらっしゃる方は都度相談することも可能です。
また身体的に辛いと感じる経験が、自分の糧となり誰かの役に立つこともあります。
2. 人生のカテゴリー
ワークライフバランスでは「仕事」と「仕事以外の生活」に分けていました。
自分の人生を構成する要素を「仕事」と「仕事以外の生活」とすると、「仕事以外の生活」には「お金」「健康」「人間関係」「環境」などがあげられます。これらの要素について説明します。
- お金
-
生活をするためにお金は必要であり、お金を得るために仕事をしているともいえます。金銭的に余裕を持って暮らしたい、お金はいくらあっても良いと考えている方が多いかもしれません。
しかし豊かな生活を送るために、お金はそんなに必要でしょうか。
お金はエネルギーであり、循環させることで豊かになるという考え方もあります。
- 健康
-
健康を失った時に、初めて健康だったことに気づきます。自分が望む生活を送るには、健康であることが前提としてあると思います。
健康には病気も含まれます。先ほどもお伝えしましたが、病気という経験が健康の大切さを知る機会となり、その経験が誰かの役に立つこともあります。
- 人間関係
-
人間関係には夫婦関係、恋愛関係、親子関係、友人関係、職場や地域の人との関係などがあります。
人間関係はストレスの原因になることは多いですが、社会の中で生きるということは、必ず人間関係があります。人間関係があるからこそ喜びや楽しみ、やりがいを感じることができます。
- 環境
-
環境は自分を取り巻く周囲の状態や世界のことです。
ご自身の住んでいる家を例にすると、快適に過ごすためにはどのようなベッドやイスが必要でしょうか。どのような植物や小物が置いてあると心が癒されるでしょうか。
環境は広い空間と捉えることもできますが、自分が快適に過ごすため、なりたい自分でいるための空間でもあります。
3. 人生を「木」に例える:マイライフワークツリー
人生を構成する要素である「仕事」「お金」「健康」「人間関係」「環境」これらを「木」に例えて考えてみましょう。
「木」には「マイライフワークツリー」と名前をつけます。
この「木」はあなたの人生なので根幹は「ライフワーク」です。
「仕事」「お金」「健康」「人間関係」「環境」は枝葉です。
「仕事」は「ライフワーク」と「ライスワーク」に分けて考えることができます。
「ライスワーク」の「ライス」は「お米」という意味です。
ライスワークは、「お米を食べていくため」の仕事、つまり食べるためのお金を得ることが目的の仕事です。
「仕事」がライフワークだと捉えている方もいらっしゃるとは思いますが、「仕事」=「ライスワーク」の方が大半ではないでしょうか。「仕事」もライフワークの一部、つまり枝葉として考えます。
「ライフワーク」はあなたのやりがいや生きがい、自己表現であり人生の根幹だと考えます。
女優や歌手、作家が金銭面や家族とのトラブル、あるいは病気を経験したとします。
その後、女優は演技に、歌手は歌に、作家は文章に経験したことを活かします。
つまり仕事以外の要素を枝葉として、そこから得た楽しいこと、辛いことどちらも自分の栄養として取り入れ木を成長させます。
人生を「木」と捉えた時に、枝葉が根幹より大きくなると木がバランスを失い倒れてしまうことは想像できるでしょうか。
慢性疲労症候群の方は体の怠さや疲れやすさ、気持ちの落ち込みなどがあり、思うように活動ができないと感じることがあると思います。
しかし病気ばかりに意識を向けるということは、枝葉の一部分だけが大きくなることです。
木が倒れてしまうということは、自分が人生をかけて取り組もうとしていることができなくなるということです。
ライフワークとは自分が大切に思っていることであり、生きがいです。
肉体的、精神的、社会的に満たされるためにはライフワークが必要です。
ライフワークを続けるには、人生を構成する要素のバランスを保つことが大切です。
4. ライフワークを見つけるには
ライフワークとは人生をかけて取り組む役割です。自分の大切な人のために、もしくは困っている人のために自分ができることをする。その時の感謝の言葉が自分の幸せや存在意義を感じるのかもしれません。
今の自分にはわからない、見つからないという方は周りを見渡して、あるいはインターネット上で、参考にしたいと思う相手を3人見つけることをおすすめします。
参考にしたいと思える相手が、何を目指してどのような発信や活動をしているのかを調べましょう。
そこにご自身のライフワークを見つけるヒントがあると思います。
ご自身の体調に合わせて、「枝葉」からバランスよく栄養を取り入れ、ご自身の「木」を育ててみましょう。
5. まとめ
ライフワークバランスをライフワークとバランスとして捉えた時に、ライフワークを根幹、「仕事」「お金」「人間関係」「健康」「環境」を枝葉として考え、それぞれバランスをとる必要があります。
「仕事」「お金」「人間関係」「健康」「環境」のカテゴリーの中で、不足していると感じることはありますが、各カテゴリーの目標を持ち、目標を達成する過程、経験が根幹の栄養となります。
必ずしも「仕事」を生きがいにする必要はありません。まずは参考にしたいと思う人を見つけて、ご自身がどのように生きたいのか、どうありたいのかについて考えるところから始めましょう。
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この記事を書いた人
清水明日香
プロフィール
看護師経験23年。総合病院(消化器外科・内科、整形外科)、リハビリテーション病院(地域包括支援病棟)、老人施設で勤務。
現在は精神科訪問看護師として月に約100件の訪問をしている。
精神科訪問看護では、薬物療法などの治療が継続して受けられるようにする支援、ご利用者様やご家族の悩みや困りごとを一緒に明確にし、解決する方法を考え、行動できるように支援している。
ウェルネスナースとして女性が健康でいるための情報を発信している。
執筆・講座
「いつも疲れを感じている40代女性がセルフケアを身につけ元気を取り戻すためのお話会」/ウェルネス講座
「自分で心とからだを元気にするためのブログ」/note