前回の記事
看護師監修 介護側の食事指導④飲み込む力が低下したときの対処法
脳梗塞といった病気の後遺症や、加齢に伴い、食べ物を飲み込む筋肉や、反射が衰えていきます。 食事を十分にとることができず、体重が減少したり、筋力が低下したり、場…
加齢とともに、食が細くなると、食べることを負担に感じてしまうかたは少なくありません。
高齢者は、次第に食事の量が少なくなり、同じものを食べ続け、食事への関心が薄れていく傾向があります。
食生活が乱れると、健康を保つための栄養が不足していくため、高齢者の食欲低下は見過ごせないサインです。
この記事では、食欲が低下したときの原因と対処法についてご紹介します。
この記事の目次
高齢者の食欲低下につながる原因
年を重ねると、カラダを動かすさまざまな機能の低下があらわれてきます。
活動量の低下で、必要とされるエネルギーも少なくなるため、食欲がわかないという場合もあります。
また、味や香りを感じにくくなったり、視力の低下や消化機能の低下や噛んだり飲み込んだりする力が弱くなると食欲に影響します。
そのほか、定年や引っ越しによる環境の変化や、身内や親しい人を亡くしたという出来事も食欲が低下する原因のひとつに挙げられます。
食欲が落ちたらどうなるか
高齢者の、食べる量が減ってくるとどうなるでしょうか。
わたしたちのように、体力がある場合は一時的に食欲がなくても元気になれば、食欲も回復することができます。
しかし、高齢者の場合は消化・吸収機能がもともと弱っているため、回復に時間がかかります。
その結果、次のようなリスクが起きる可能性があります。
(1)低栄養
活動に必要なエネルギーや、身体を作る栄養素が不足した状態を指します。
ただ、栄養が足りないだけでなく、内臓や筋肉の機能も弱まります。
代表的なのは、筋肉量の低下や骨密度の低下です。
歩いたり、動いたりする筋肉が衰えるため、つまづくようになり転倒しやすくなります。
転倒して骨折すると、場合によっては寝たきりの状態になってしまう可能性もあるため特に注意が必要です。
あわせて読みたい
看護師が解説!高齢者の骨折予防①高齢者に多い骨折と原因
高齢者が介護状態になる原因についてご存じでしょうか。 介護状態になる原因を、いくつかあげてみると、1番多い原因は『認知症』で全体の18.7%と多く、次に多いのは、…
(2)脱水
加齢とともに、体内の水分量は減少しているため脱水になりやすい状態となります。
喉の渇きを感じる感覚も低下しているため、脱水に気づきにくく、食欲が落ちていると、さらに水分を摂らなくなることが多いため、脱水が進んでいく可能性があります。
脱水の状態がつづくと、血液の粘り気が強くなり血液の流れも滞るため、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な病気を引き起こす危険性があります。
(3)低血糖
血液に含まれる糖分が少ない状態を、低血糖と言います。
低血糖になると、めまい・疲れ・眠気・冷や汗などの症状を引き起こします。
食事を食べる量が極端に少ないと、低血糖の状態が長引きます。
慢性的に低血糖の状態が続くと、身体がだるく、動くことがつらくなります。
その結果、活動量が減ることで体力が失われ、心身ともに健康障害を引き起こす「フレイル」と呼ばれる状態に陥りやすくなります。
フレイルになると、病気でなくても生活に介護が必要になるため注意が必要です。
このように、高齢者にとって食べないことは、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。
そのため、生活の質を落とさないためにも食べる工夫は必要となってきます。
食欲が低下したときに試したい5つの改善策
「少しでもいいから食べて」はNGです。
食が細くなると、「からだが弱ってしまう。」と心配になるかもしれませんが、もっと食べるように促す場合や、食べきれなかったときに「残しちゃったの?」というような声かけは、本人にとって負担となります。
ますます食欲の低下につながる可能性があるため、高齢者が負担を感じないような配慮が必要となってきます。
①少量を盛り付ける
食欲がないときに、たくさんの料理が目の前に並ぶと、「食べなければならない」と食事に義務感が出て、プレッシャーになります。
少なめに盛り付けて、食べきれるように品数を少なくするといいでしょう。
もっと食べられそうなら、料理を追加するようにすると無理なく食べることができます。
②手でつまめるメニューをプラス
おなかが空いたときに、手軽に食べるものがあると効果的です。
そのときは、箸やスプーンなどを使わずに、手でつまめるメニューがあると便利です。
小さなおにぎりや海苔巻き、小さめのカステラやサンドイッチを準備しておくといいでしょう。
③脱水予防に汁物を活用する
食欲がないときは、脱水になりがちです。
また脱水が原因で、食欲がおちることもあります。
みそ汁や野菜スープでも、水分をとることは可能なので、食事に取り入れることをおすすめします。
④食べられそうなものをあらかじめ準備する
食欲がない時は、喉越しが良く、消化がいいものや、冷たくてさっぱりしたものが好まれます。
お粥・お茶漬け・うどん・そうめん・茶碗蒸し・プリン・ヨーグルト・ゼリーなどは、消化がよくておすすめです。
食べたいときに食べられるように、作り置きや冷凍保存して常備しておくといいでしょう。
食欲がない時は、食べることさえ負担に感じます。
ご本人に「なにが食べたい」という広い質問ではなく、「プリンとうどんならどっちが食べられそう?」と質問し、食べられるものを準備するといいでしょう。
⑤少量でも栄養価が高い食材を活用する
食が細くなってきたときに、一度にたくさんの食べ物をとることはできません。
ですから、少量でも栄養価の高い食材を、日々の食事に取り入れることをおすすめします。
食欲が減っているときはたくさんの量を食べることができませんから、のど越しがよく食べやすいプリンやヨーグルトといった、少量でもカロリーが高いものを選んでください。
栄養補助食品について
高齢者の場合、食欲の低下は栄養不足につながり、体力の低下や筋力の低下を簡単に引き起こします。
栄養不足になると感染症や傷の治りが悪くなり、体力の低下します。
とはいえ、食が細くなっている高齢者にたくさん食べるということは難しいので、効率よく栄養バランスのとれた食事を心がけたいものです。
そこで、毎日の食事に栄養補助食品をプラスするのもおすすめです。
栄養不足を補う食品として栄養補助食品があります。
栄養補助食品には以下のような効果があります。
・少しの量で、エネルギーや栄養素を補うことができる。
・間食やデザート感覚で手軽に摂取することができる
・種類が豊富で、摂りたい栄養をピンポイントで摂ることができる
などがあげられます。
栄養補助食品のタイプ別に分けると以下のような種類があります。
・飲料タイプ:ジュース
・お菓子タイプ:クッキー
・ゼリータイプ:デザート
ご本人の食べる能力や嗜好に合わせて選ぶことができます。
また、高齢者のかたは甘いものが苦手なかたも多いため、現在では茶碗蒸しタイプの栄養補助食も登場しました。
ジュースやクッキーといった、栄養補助食品は嗜好品でありながら、貴重な栄養源として利用できます。
食事の量が少ないからと思うとプレッシャーになるため、おやつとして自然な形で促すことが大切です。
まとめ
家族の食欲低下を心配して、「少しだけでも食べて」と無理に食べさせようとするのは逆効果です。
楽しむための食事が強要されるものとなり、ストレスを感じ、更に食欲が低下する可能性があります。
こころから楽しめるよう、見守ることが食欲を保つ方法です。
そのためにも、食欲の低下の原因について理解し、食事の様子を観察してください。
食欲低下が続く場合は、ほかの病気が影響している可能性もあるため、一人で判断せずにかかりつけの医療機関へご相談ください。
この記事を書いた人
渡邉 加代子
【プロフィール】
看護師歴24年目。
これまで急性期(整形外科・外科・脳外科・内科・循環器)病棟での勤務を経験。
2016年に現在の職場に転職し、回復期リハビリテーション病棟は配属となる。
2019年から栄養サポートチームに所属し、各専門職と協力して週1回、入院患者様の栄養ケアを行っている。
今後は、退院先での適切な栄養ケアが継続できるようにパンフレットの作成や地域高齢者を抱えるご家族への栄養相談や講座の開催を考えている。
【所属】
一般社団法人 日本ナースオーブ所属 ウェルネスナース
【執筆】
食と健康について考えるブログ/note
【講座】
Wellnessチャートで賢くやせる/ウェルネス講座