前回は高齢者に多い皮膚科疾患についてお伝えしました。
前回の記事
看護師がわかりやすく解説!高齢者の皮膚トラブル②高齢者に多い皮膚疾患
前回は高齢者の皮膚の特徴についてお話させていただきました。 今回は高齢者に多い皮膚疾患についてです。どのような皮膚疾患があるか、みていきましょう。 【高齢者に…
今回はその皮膚疾患の治療についてお話したいと思います。
この記事の目次
1.高齢者に多い皮膚疾患の治療
(1)老人性皮膚掻痒症(ろうじんせいそうようしょう)の治療
痒みが主な症状で、季節により(特に冬)乾燥し湿度が下がるとより強い痒みを伴います。
痒い部分を触ったり掻いたりしないで、保湿を心掛けるようにします。
痒い部分を掻くと傷や湿疹になることもあり、乾燥を防ぎ皮膚の機能を低下させない工夫が大切です。
老人性皮膚掻痒症の治療では、乾燥やかゆみのある部分に塗りこむための塗り薬(軟膏)と、体の内側からひどいかゆみを抑えるための内服薬が使われます。
以下に、老人性皮膚掻痒症の治療薬として皮膚科の病院で使用・処方されるものをご紹介します。
- ワセリンなどの油脂性の塗り薬
- オリーブオイルなど保湿用の油脂
- 尿素などの保湿成分を含んだ、ハンドクリームのような保湿クリーム
- 皮膚の炎症、ひどいかゆみを抑える作用のあるステロイド軟膏
- 抗ヒスタミン剤または抗アレルギー薬 など
治療にどの薬を使用するか、また塗り薬と内服薬を併用するかどうかは、医師の診断で変わります。
まずは皮膚科の医師に状態を診てもらい、適切な治療薬を選んでもらいましょう。
老人性皮膚掻痒症は、保湿作用の高い塗り薬とかゆみ止めで治療します。
市販薬でも尿素など保湿成分を含む塗り薬を使えば、一定の治療効果が期待できるでしょう。
ただし、症状が改善しないときは早めに皮膚科を受診しましょう。
ステロイド軟膏について副作用を心配される方もいらっしゃると思いますが、医師の指示に従い、使用する分にはまず心配ありません。
「ステロイドは怖いから使いたくない!」
と思うかもしれませんが、ステロイド剤を使った方が早く治ります。
また、赤ちゃんに使えるような弱いステロイド軟膏もあります。
あまり怖がらずに皮膚科医と相談しながら使用しましょう。
(2)白癬(はくせん)の治療
白癬の治療は、塗り薬が基本です。
症状の範囲が広かったり、爪や頭部といった治療が効きにくい部位であったりする場合には内服薬を使用することもあります。
白癬については、診断がつき次第その場で治療が開始されます。
また、治療の方法にもバリエーションが少ないため、どのような治療を受けるか迷う余地は少ない病気かもしれません。
しかし、診断が間違っていて別の種類の薬を使用し続けていると症状が治らない(もしくは悪化する)ことがあるため注意が必要です。
白癬症は白癬菌による皮膚感染症で、足、爪、頭部など感染する場所は様々です。
見た目だけでは白癬症かどうかの診断が確定できないため、白癬かどうかを確定するには、はがれた皮膚を採取して顕微鏡で観察します。
ご自身の症状が白癬でないかと心配になった時には、お近くの皮膚科クリニックで相談してみることをお勧めします。
白癬は皮膚科の中でも最もメジャーな病気の一つです。
悩む前に診察を受けて、診断をはっきりさせた方が治療に取り組みやすくなります。治療が長引くことがありますので、皮膚の角質が入れ替わるまで根気強く治療を続けることが必要です。
症状が外見上治まるタイミングと、本当に菌がいなくなるタイミングにはズレがあります。
見た目上治ったからと言って、そこで治療を中断してしまうとまた再発して治療が仕切り直しになってしまうため、場合によっては数か月間、通院しながら治療を行うことが必要となります。
(3)疥癬(かいせん)の治療
疥癬治療には、ヒゼンダニを駆除する薬とかゆみを抑える薬があります。
- イベルメクチン(商品名ストロメクトール®)
ヒゼンダニを駆除する薬です。1度飲めば効果が出ます。
- 抗ヒスタミン薬(商品名ザイザル®、アレジオン®、アレロック®など)
かゆみを抑える飲み薬です。
- フェノトリンローション(商品名スミスリンローション®)、硫黄剤、クロタミトンクリーム(商品名オイラックスクリーム®)
ヒゼンダニを駆除する塗り薬です。
患者と接触があった人も、うつっている恐れがあるので同時に治療する必要があります。
ヒゼンダニは生命力が非常に強いわけではないので、疥癬の治療は1度行えば十分なことが多いです。
ただし、ヒゼンダニが死滅してもかゆみはしばらく残ります。
抗ヒスタミン薬などでかゆみを和らげる治療が有効です。
褥瘡(じょくそう)の治療
褥瘡(床ずれ)の治療は、以下の2つに分けられます。
- 保存的治療(外用薬剤(ぬり薬)や創傷被覆材(ドレッシング材))
- 外科的治療(手術療法)
①保存的治療(外用薬剤(ぬり薬)や創傷被覆材(ドレッシング材))
褥瘡に使えるぬり薬(外用剤)には様々なものがあります。
- 創部に感染(細菌が増えて炎症が起こっている状態)がある時に使えるもの
- 感染が落ち着いた後に創部の治癒(肉芽形成、上皮化)を促すもの
- 保湿により創部を保護するもの
など、その役割はさまざまです。
処置の際には創部をしっかりと洗浄することが大切です。
傷に汚れやバイ菌がたくさんくっついている状態ではうまく治りません。
そのため、傷とその周りの汚れやばい菌を洗い流してしまうことが大事です。
洗い流すにあたっては、『十分な量の生理食塩水または水道水を用いて洗浄する』ことが推奨されています。
水道水と聞くと不安に思われる方もおられるかもしれませんが、きれいな水道水であれば特に問題はありません。
また、せっけんを用いて洗っても構いません。ただし、せっけんの成分が傷に残らないようにしましょう。
洗う頻度は1日1回程度でよいことが多いですが、傷の状況によってさまざまです。
バイ菌を減らす目的で、昔は傷に対して消毒を頻繁に行っていました。
しかし、ほとんどの消毒液はバイ菌だけでなく人間の細胞に対しても毒性をもっています。
洗浄のみでも十分にバイ菌を減らすことが出来ます。
これらのことから最近消毒は『通常は必要ない』とされています。
キズの状態は時間とともに変化していきます。
キズをよく観察し、その状態に最適なぬり薬を使えば、少しでも早くキズを治せるかもしれません。
逆に、キズの状態に合わないぬり薬を漫然と使っていると、キズを悪化させる可能性もあるため注意が必要です。
ドレッシング材とは、キズを覆う医療用材料のことです。
キズを覆うことで、外部からの刺激や細菌の汚染などを防ぎます。
非固着性(創面にくっつかない性質)のものであれば、交換の際、肉芽組織や新生表皮(再生した組織)を損傷しにくく、疼痛も少ないことから、より早い治癒が望めます。
近年ではキズが治るのに最適な環境(湿潤環境)を維持することのできる、高機能なものが多く販売されています。
浅い潰瘍などでは、ハイドロコロイドを使います。
滲出液が多い場合には、過剰な滲出液を吸収するポリウレタンフォームが推奨されます。
炎症や感染のあるキズにはぬり薬を用いた治療が基本となりますが、軽度の感染創には銀イオンの含まれた製品(銀含有ハイドロファイバー®、アルギン酸Agなど)を用いて治療を行うこともあります。
ドレッシング材を適切に使用すれば創部の治癒は促進されますが、ドレッシング材の選択、交換の時期、外用剤との使い分けなど、判断に迷うことも少なくありません。
ドレッシング材は、キズをよく観察し、医師・看護師と相談して使用しましょう。
②外科的治療(手術療法)
手術には、大きく分けて外科的デブリードマンと再建術があります。
外科的デブリードマンとは、日々のぬり薬・ドレッシングなどを用いた治療だけではとれないような、傷にしっかりくっついている壊死組織(皮膚やその下の組織の死がい)を、メスなどを用いて切り取ってしまうことです。
壊死組織がある傷は非常に治りにくい(あるいは治らない)ので、壊死組織の状態に応じて外科的デブリードマンに踏み切る必要があります。
『深さが皮下組織以上に及ぶ』または『局所の感染巣の局在、壊死組織の量および拡大範囲、創部の血行状態、痛みへの耐性に応じて』外科的デブリードマンをするか、しないか決めます。
基本的には、患者さんの術後の暮らし方・あり方などを十分に考慮した上で、以下の傷に関する判断材料、および全身の状態をもとに決めます。
- ぬり薬やドレッシングによる治療を行っても治りそうにない、あるいはかなりの期間が必要と思われる。
- 傷が骨まで達しておりその骨の状態が良くない。
3.まとめ
高齢者の皮膚疾患の治療は皮膚の再生能力が落ち、治りにくいことがしばしばあります。
また、高齢者は疾患に気づきにくいことも多く、スキントラブルも同様に気づきにくいこともあるため、日々気を付けて観察する必要があります。
治療が開始されたら根気強く治療を続けるために、周りのサポートが大事です。
正しい治療法を理解し、サポートしていくようにしましょう。
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この記事を書いた人
全国訪問ボランティアナースの会キャンナス弘前(青森)代表。
看護師歴6年。(内科病棟)
結婚後は一時退職し、自分に出来る看護はなにかあるのだろうか、と模索していた時にキャンナスの存在を知り、キャンナス弘前を立ち上げる。
その後、様々な診療科(婦人科、皮膚科、特別養護老人ホーム、訪問入浴など)の経験の傍ら、看護学生や介護士の実習や演習、授業などの講師業などにも従事。
フリーランス看護師として様々な働き方にチャレンジ中。